もこすけ|てのひらの物語

高校教諭。3分程度で読める掌編を書いていきます。内容は随想、小説など創作。近代文学と国…

もこすけ|てのひらの物語

高校教諭。3分程度で読める掌編を書いていきます。内容は随想、小説など創作。近代文学と国語教育についてもすこし。創作は虚実のあわいですよ。

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7時間目 現代文A「現代短歌」

<約束の果たされぬ故につながれる君との距離をいつくしみをり>辻敦子 掲出の短歌は、俵万智の「あなたと読む恋の歌百首」で知った。この本は現代短歌の紹介だけでなく、俵さんの解説と鑑賞がエッセイのようにすっと心に届く、大変読みやすい本である。 恋のあらゆる局面を、歌人という超人たちはひらりと切り取って見せる。今はもう失われてしまった瞬間が、31文字の上に永遠に記録され、読み手の私たちの中で再び息を吹き返す。短歌とは不思議なものだ。 前掲の短歌に、俵さんは恋人と交わした「今度白

    • 【本から一言】『今こそ読みたいマクルーハン 』小林 啓倫著

      「現代が神話の時代なのだとすれば、人々を動かす立場にある人は、科学的な思考力だけでなく神話や宗教の構造を学ぶ必要があるのではないでしょうか。」 メディア論では欠くことのできないマクルーハンの思想をわかりやすく解説した良書でした。この方面に疎いの私にも読みやすく、帯文にあるとおり、現代の状況を示唆する、箴言に溢れています。

      • 【毎週ショートショートnote】秘密警察を宣伝してみる課

        ホワイトボードには矢印と円グラフ。課長は深いため息をつき、部屋の反対側の壁に思案深げに寄りかかった。 「いったん冷静に。ね?」 主任が人数分のコーヒーをもって席に戻る。 「私たちには限られたリソースしかないんだから。」 「確かにそうですが、そもそもこの会議に意味はあるんですか。なあ。」 話を振られて曖昧に笑うと、後方から課長の声がした。移動してる。 「あるシューズメーカーが市場調査に行った時、その国では誰も靴を履いてなかった。Aは報告した。「この国はダメです。誰も靴を履い

        • 【おすすめの本】usagi 「地元最高!」の地元はそこそこ都会だと思います。

          1. Twitterで人気のほのぼの裏社会マンガ Twitterのタイムラインで読むようになった「地元最高!」。 作者のusagiさんは、田舎で暮らす女の子といえば、「ほのぼのした日常」を描くというマンガに反旗を翻し、もっと田舎って貧困もやばいこともあって、その中で外の世界を知らずに「地元最高!」って言っている女の子もいるんだと創作動機についてのインタビューでおっしゃっています。 「地元=田舎」な伝え方をしましたが、主人公のシャネルちゃんの主な収入源「どろぼう市」や夜にな

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        7時間目 現代文A「現代短歌」

          【古文】「筒井筒」のルサンチマン_まとめ⑤_伊勢物語23段

          1.「筒井筒」の女が化粧をする理由とは さて繰り返し触れてきた、伊勢物語「筒井筒」の元の女(妻)。 新しい妻の元へ行く夫を気持ちよく送り出す姿を見て、夫は浮気を疑います。あにはからんや、元の女は夫を送り出すと、美しく化粧をし、物思いにふけって誰かを待つような素振りで外を眺めています。 「やはり、浮気か!?」 と夫が思ったその時。元の女は送り出した夫の道行を案じ、無事にたどり着くことを祈る歌を詠むのです。 この女はなぜ化粧をするのでしょうか。 私はそこに「ルサンチマン」を

          【古文】「筒井筒」のルサンチマン_まとめ⑤_伊勢物語23段

          【古文】「筒井筒」のルサンチマン_茂木健一郎「化粧する脳」④_伊勢物語23段

          【100字まとめ】化粧と鏡は切り離すことはできません。鏡を見る時、さらには化粧をした顔を見る時、脳はどのように活動しているのでしょうか。「筒井筒」の女を理解するため、茂木健一郎さんの「化粧をする脳」をご紹介します。 1.茂木健一郎「化粧をする脳」 この本は、2007年7月から、カネボウ化粧品(時代!!)と共同で、脳科学的な知見から「化粧の本質」について研究したもの。化粧と自己や他者の認識について考察しています。 女性たちはなぜ、膨大な時間をかけて鏡の前で化粧をするのか。

          【古文】「筒井筒」のルサンチマン_茂木健一郎「化粧する脳」④_伊勢物語23段

          【毎週ショートショートnote】半笑いのポッキーゲームは居酒屋で

          今年最初の公演は大成功だった。 打ち上げは、初舞台に興奮気味の1年や嫌がる後輩に演劇論を打つ3年と、大盛り上がりだ。 私の隣、サークルきっての花形は紫煙の向こうで今日もイケてる。 が、いつもと雰囲気が違う。 「あのさ」 「何?」 「やっぱいいわ」 灰皿にタバコを押しつけ、沈黙の後、 「ポッキーゲームやんね?」 手つかずのアイスからポッキーを抜いて彼は言った。 「ポッキーくわえた相手笑わして、落とさせたら勝ちな。」 「私が知ってるのと違うんだけど。」 いいからとポッキーをくわ

          【毎週ショートショートnote】半笑いのポッキーゲームは居酒屋で

          加藤諦三「愛されなかった時どう生きるか 甘えと劣等感の心」理学PHP文庫 Kindle Unlimitedで読んでいます。

          加藤諦三「愛されなかった時どう生きるか 甘えと劣等感の心」理学PHP文庫 Kindle Unlimitedで読んでいます。

          【随想】善行と幸運の女神@托鉢のお坊さんに出会った日

          1. 托鉢のお坊さん 娘の部活動送迎を終えて家路に向かう途中、托鉢のお坊さんとすれ違った。 学生時代を過ごした奈良では、托鉢僧は風景の一つで、近鉄奈良駅前には毎日念仏を唱える姿が見られたし、折に触れて喜捨をすることが日常だった。 人並みの信心しか持ち合わせていないが、国文学を専攻する人間なので、お坊さんへの親しみというか「なじみ」がなんとなくある。説話とか読むし。 加えて、小学生の間は毎年、夏休みに町内こども会で禅寺へ1泊2日の「寺スクール」に行かされていたこともある

          【随想】善行と幸運の女神@托鉢のお坊さんに出会った日

          【古典】「筒井筒」のルサンチマン_川端康成「化粧」から③_@伊勢物語23段

          【140字まとめ】川端康成の作品「掌の小説」に「化粧」という短編があります。女の不可解な恐ろしさや「生」への貪欲さを描いていると論じられますが、「化粧をする女」の心の中はどのようなものなのでしょう。 1.川端康成「化粧」あらすじ 2.化粧とはなにか。  化粧には自らを美しく見せたい、美しくありたいという心の現れや、儀式的意味などがあります。川端康成の「化粧」においては、上越教育大学の小埜裕二教授は「自らの生をせき止めようとする虚飾の行為、死者に対する悼みの気持ち以前に、

          【古典】「筒井筒」のルサンチマン_川端康成「化粧」から③_@伊勢物語23段

          【古典】「筒井筒」のルサンチマン_化粧をする女②_@伊勢物語23段

          【140字まとめ】伊勢物語「筒井筒」で、他の女の所へ通う夫を送り出した後、美しく化粧をして装う女が描かれます。授業では「誰もいなくても身だしなみを崩さない女の風流心」と解説しますが、私は内心、女のルサンチマンを感じています。 1.俵万智「恋する伊勢物語」 歌人 俵万智さんは「筒井筒」の女を、以下のように評しています。 筒井筒の女が、新しい河内の女へ激しい嫉妬心を募らせているという解釈は、伊勢物語の後「大和物語」により激しく描かれます。 和歌を詠み終わった後、女は泣き伏

          【古典】「筒井筒」のルサンチマン_化粧をする女②_@伊勢物語23段

          【短編空洞小説】3_言葉はコーヒーカップに溜まらない

          通勤の車内は反省室だ。 今朝は娘へ投げつけた言葉を反芻している。 口から出た言葉は2度と飲み込みことができない。 怒りに任せて叱責するうちに、娘の顔がみるみる曇って、「だから、自分でやるって言ってるじゃない」と泣き始めてしまった。 きっかけは些細なことだ。 昨晩「明日の準備できてるの?体操服とか」と確認した際、娘は「大丈夫」と答えた。朝になって「体操服は?」と言うので昨夜のことを持ち出すと、一昨日洗濯カゴに入れたので、朝には洗濯できていると思ったという。見れば、カゴの底にあ

          【短編空洞小説】3_言葉はコーヒーカップに溜まらない

          【短編空洞小説】2_物語はドーナツの穴へ収束する12秒について

          放課後の図書館で、私は指先の付箋をひらひらさせながら時間をつぶしている。今朝、保健調査の封筒の中身を確認したら、この付箋が貼ってあった。「小説家」と朱筆された華々しいクセ字は母の手だ。私はそっとはがして筆箱に入れた。 母は少し変わっている。 教壇に立つ姿は、特に面白みのない普通の先生だ。 家でも普通の「家事が苦手なお母さん」という佇まいで、時折塩辛い料理を作って出す。 でも、やはり少し変わっている。 一言で言うなら、常に「上の空」だ。 洗濯を畳んでいても、宿題を見てく

          【短編空洞小説】2_物語はドーナツの穴へ収束する12秒について

          【短編空洞小説】1_ドーナツの円周を疾走する4月について

          コーヒーでも飲もうとリビングに下りたら、テーブルに書類が散乱していた。 「環境調査簿」「結核調査」「通学路確認のお願い」「肖像権承諾書」… 春は学校からの調査や提出プリントが多い。 「昨年度から変更の場合は、朱筆にて訂正をお願いいたします」 子供たちの新しい学年とクラス、担任名はすでに追加され、あるべきところに整列している。ダイニングテーブルはそこだけステージのように照らされて、昨年のわたしのクセ字はいつもより華々しく汚い。 「緊急連絡先はお子様の事故等場合、必ず連絡

          【短編空洞小説】1_ドーナツの円周を疾走する4月について

          【芸術】創作と年齢と果たすべきことー米村昭彦「NEXTART」展@長崎県美術館

          1:90歳を超えて創作すること 長崎県在住の洋画家 米村昭彦氏の展覧会「ネクスタ―ト展」に参加したレポートです。 会場は、米村先生が長崎で美術教室を開かれている関係か、終始家庭的な温かい雰囲気です。 関係の深い方3名が米村先生を囲んで、質問する形式でギャラリートークは進行していきました。終盤になり、長崎市にある「風の大地美術館」館長ウエダ清人さんからの質問の時間へ。 地元ながら、この美術館の存在を知りませんでした。 市内と港を一望できる風頭公園に建つギャラリーは景色も

          【芸術】創作と年齢と果たすべきことー米村昭彦「NEXTART」展@長崎県美術館

          【芸術】92年の言葉の重みー米村明彦「NEXTART」展ギャラリートーク@長崎県美術館

          1:2022・5・28 長崎県美術館 県民ギャラリー 少し前ですが、長崎県在住の画家、平山理さんがSNSで紹介なさっていた「米村明彦NEXTART展」ギャラリートークに参加しました。 米村明彦さんは昭和4年生まれ、御年92歳。 長崎市生まれの洋画家で、小学校の美術教科書作りに携わられるなど、戦後の美術教育に尽力されました。 長崎市展・県展・長崎県美術協会など、地域の文化振興および、主催する美術教室で作家の育成にも情熱を注がれ、当日は、米村先生のお弟子さんと思われる多数の

          【芸術】92年の言葉の重みー米村明彦「NEXTART」展ギャラリートーク@長崎県美術館