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【古典】「筒井筒」のルサンチマン_化粧をする女②_@伊勢物語23段

【140字まとめ】伊勢物語「筒井筒」で、他の女の所へ通う夫を送り出した後、美しく化粧をして装う女が描かれます。授業では「誰もいなくても身だしなみを崩さない女の風流心」と解説しますが、私は内心、女のルサンチマンを感じています。

1.俵万智「恋する伊勢物語」

歌人 俵万智さんは「筒井筒」の女を、以下のように評しています。

嫉妬心を表に出したら負け。それは夫の浮気心をあおるだけ。むしろ相手が不安に思うぐらい平気を装う。そのほうが、夫の心を自分にひきつけられる、そう考えたのではないだろうか。だからといって、別にイヤな女だとは思わない。そんな作戦を考えるというのは、結局のところ夫に惚れこんでいるからなのだ。人間の心の動きを、静かに見極める余裕と知恵が、彼女には備わっていたのではないだろうか。

俵万智『恋する伊勢物語』

筒井筒の女が、新しい河内の女へ激しい嫉妬心を募らせているという解釈は、伊勢物語の後「大和物語」により激しく描かれます。

かくてなほ見をりければ、この女うち泣きて臥して、金椀に水を入れて胸になむ据ゑたりける。「あやし、いかにするにかあらむ。」とてなほ見る。さればこの水熱き湯にたぎりぬれば、湯ふてつ。また水を入る。見るにいとかなしくて走り出でて、「いかなる心地し給へば、かくはし給ふぞ。」と言ひてかき抱きてなむ寝にける。

「大和物語」149段

和歌を詠み終わった後、女は泣き伏し、金属のお椀に水を張り、それを自分の胸に押し当てます。するとみるみる内たぎり、お湯になってしまいます。嫉妬の激しさを表現した文章の中でも、最も美しい描写ではないでしょうか。

俵万智さんは、その嫉妬心を見せない方が、夫の気持ちをつなぎとめられる。女の知恵と洞察力による駆け引きを読み取っています。俵さんはやはり恋愛上手なんでしょうね。

「大和物語」の女はそんな駆け引きを凌駕して嫉妬の炎で水をお湯に変えてしまいます。この過剰さが、私なんかは悲しくも可愛く感じます。


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