【毎週ショートショートnote】秘密警察を宣伝してみる課

ホワイトボードには矢印と円グラフ。課長は深いため息をつき、部屋の反対側の壁に思案深げに寄りかかった。

「いったん冷静に。ね?」
主任が人数分のコーヒーをもって席に戻る。
「私たちには限られたリソースしかないんだから。」
「確かにそうですが、そもそもこの会議に意味はあるんですか。なあ。」
話を振られて曖昧に笑うと、後方から課長の声がした。移動してる。

「あるシューズメーカーが市場調査に行った時、その国では誰も靴を履いてなかった。Aは報告した。「この国はダメです。誰も靴を履いていません。」Bは報告した。「早く靴を送ってください!この国ではまだ誰も靴を履いていません。」
課長はメンバーを見回すと「VISION」と大きく書いた。
「雪国の人間に雪を売る。新たな価値を生み出す。そのための我々の新規プロジェクトが『秘密警察を宣伝してみる』なんじゃないか?」
「あの。」
記録係の同期が手を挙げた。
「秘密警察ってどこにあるんですか?」
課長と主任は目を合わると、黙ってコーヒーを飲んだ。(430字)


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