【長編小説】二人、江戸を翔ける! 4話目:江戸城闖入記⑦
■あらすじ
ある朝出会ったのをきっかけに、茶髪の少女・凛を助けることになった隻眼の浪人・藤兵衛。そして、どういう流れか凛は藤兵衛の助手かつ上役になってしまう。これは、東京がまだ江戸と呼ばれた時代の、奇想天外な物語です。
■この話の主要人物
藤兵衛:主人公。隻眼の浪人で、傘張り仕事を生業としている。
凛:茶髪の豪快&怪力娘。『いろは』の従業員兼傘貼り仕事の上役、兼裏稼業の助手。
ひさ子:藤兵衛とは古い知り合いのミステリアスな美女。
お庭番衆:江戸城を守る忍び達。自称エリート集団。
■本文
小休憩で体力が回復した三名は、城内をどんどんと突き進んでいく。
「お宝は、あの建物の中よ」
中庭へ出たところでひさ子がある建物を指さす。
「・・・あそこか」
見上げると、天守閣がある建物だった。
「え、ここって将軍様がいるところじゃ・・・」
凛が驚いていると、
サクッ
ひさ子の足元に苦無が突き刺さった。
「・・・どうやら来たわよ、藤」
「!!」
「え? 何が?」
ひさ子の言葉に藤兵衛は身構え、凛はうろたえる。
「は~はっはっは」
次いで、間も置かずに高笑いが聞こえてきた。
「そこまでだ、賊徒ども。死にたくなければ、とっとと逃げ出すんだな」
声のする方を振り向くと、そこには五体の人影が立っていた。
「・・・もっとも、我ら『超絶凄忍集団・お庭番衆』から逃れることができたら、の話だがな!」
先頭の人影が決め台詞っぽい言葉を放つと、後ろの四人も決めポーズを取る。
男三人、女一人、正体不明一体の集団であったが、見ていて痛々しい人たちであった。
「「「は? 超絶凄忍??」」」
藤兵衛、ひさ子、凛の三人は理解が追いつかず、ポカンとする。
「む? 逃げ出す気配が無いな、こいつらは」
「ふん、居直り強盗ってやつね」
彼らはその様子を勘違いしたのか、藤兵衛たちの沈黙を挑戦と受け取ったようだった。
「そちらがやる気ならばしょうがない、相手してやろうじゃないか」
先頭の頭領と思わしき男が、勝手に話を進めていく。
「では、美流陀! まずはお前がいけ!」
「おう!」
すると、美流陀と呼ばれた男が前へ進み出てきた。その男は背丈が藤兵衛より若干高いぐらいである。
美流陀はいきなり机のような台を前に出し、次いで上着を脱ぎだし上半身裸になる。
そして、ゆっくりと右肘を台の上に置くと、筋肉を隆起させながら、
「男ならぁ、筋肉で勝負だぁ!」
と、言った。
この行動に三人は呆気に取られたが、要は腕相撲で勝負を挑んでいるのだろうと理解し、相談の結果、凛が立候補をした。
凛は机の前まで進むと腕まくりをし、美流陀と手を合わせる。
「女だけど、受けて立ってやるわ」
「ふん、『ちんちくりん』な奴が出てきたか。言っておくが、女だからと言って、俺は手加減せんぞ?」
圧をかけるために言ったつもりなのだろうが、この何気ない『ちんちくりん』という一言に、凛はカチンときた。
「なん・・・ ですって?」
「ちんちくりんを、ちんちくりんと言ったまでだ、女」
美流陀はまたしても禁句を言う。後ろの方では、
「馬鹿ね。美流陀は里一番の力持ちなのよ」
「あの娘、下手をすると死ぬな」
と、嘲笑が起こっていた。
「大丈夫なの? あの娘?」
「まあ見てなって、お前も驚くぞ」
一方、凛の怪力を知らないひさ子は心配していたが、藤兵衛は努めて平静だった。
「二人とも、準備はいいわね?」
調停役となったお華という女性が、二人を交互に見る。
「おう!」
「・・・いいわよ(怒)」
「では・・・ 始め!」
「おりゃぁああああ!!」
バアァン!!
ボギィイ!!
開始直後、かけ声とともに凛の剛力が炸裂!
美流陀の右手は速攻で台に叩きつけられると同時に、骨が砕ける鈍い音がした。
(((((・・・・・・え“? (汗))))))
藤兵衛以外の面々は、信じられない光景を見て一瞬凍りつく。
「・・・なん、だって? そんなはずはなぁい! 俺の筋肉が敗れるなどぉ!」
負けた美流陀も信じられなかったようで、今度は左腕で再勝負を申し込んできた。
「で、では、いきます。・・・始め!」
「うぉおおおおお!!」
美流陀の渾身の力が効いたのか、左腕では両者の力は拮抗していた、かに見えた。
だが、凛が明らかに手を抜いていることが藤兵衛にはわかった。
「あれ~~」
とか、
「負けちゃう~~」
などとわざとらしいことを言って、左腕を行ったり来たりさせている。
そうとは知らずに美流陀は顔を真っ赤にし、こめかみに青筋まで浮かばせながら力を込める。
「いっけぇぇええ!! 俺の上腕二頭筋んんん!!」
叫びながら更に力を込め、勝利まであと少しのところまで迫った。とここで、
「あらよっと」
凛があっさりと逆転勝利をおさめる。
「・・・は?」
そして、呆然としている美流陀に対し、
「あんた、見てくれだけで中身が空っぽなんじゃない?」
と、思いっきり見下しながら言った。
「!! ・・・いひ、ひ、ひひひひ・・・」
余程激しい衝撃を受けたのだろう。
美流陀は暫し呆然とした後、虚ろな目で空を見つめ、しまいには笑いだしてしまった。
「「「美、美流陀!!」」」
慌てて駆け寄る、他のお庭番衆たち。
「・・・な、なんてひどい奴なの。筋肉ばかりか、心まで壊してしまうなんて!」
お華が非難の目を凛へと向けた。
「ふふん、どうよ?」
一方、凛は得意気な顔をして戻ってくる。
「・・・さすが、ですね」
「・・・・・・(汗)」
予想はついていたが想像以上の結果に藤兵衛は労をねぎらい、ひさ子は言葉が出なかった。
(これはまた・・・ すごいわね)
こうしてお庭番衆との勝負は、まずは藤兵衛たちの一歩リードとなったのだった。
つづく
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