【長編小説】二人、江戸を翔ける! 1話目:始まり①
ライトな時代小説という感じで書き上げました。週一ペースで投稿予定です。
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これは東京がまだ江戸と呼ばれていた頃のお話。
一人の青年が橋の欄干に頬杖を突いて、ぼ~っと朝日を眺めていた。
その青年は二十代半ばだろうか。大小二本の刀を腰に差しているが、どこかに仕えている侍には見えない。
髷は結らずに無造作に後ろで縛り、前髪は顔の右半分を隠すかのように下ろしている。悩み事でもあるのかそれとも何も考えていないのか、青年は日が昇っていく様子を眩しそうに眺めていた。
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『花のお江戸』の言葉通り、江戸の街は大変賑やかで活気のある街であった。
その反面、事件や犯罪なども多くある訳で・・・。
一時期、江戸に住む人々を震え上がらせていた輩がいた。押し入り強盗のあげく、殺人も平気で行う凶悪な奴だが正体がよくわからない。
というのも神出鬼没のうえにめっぽう腕の立つ奴で、奉行所の捕り方が取り押さえようとしても逆に返り討ちにあう始末。
わかっていることは月の出る夜に現れることと、目が妖しく光ること、そして現場に残される『光』と一文字だけ書かれた紙きれ一枚。そういったことから、いつしか
『白光鬼』
の二つ名で呼ばれ、恐れられるようになった。
しかし、そんな凶悪犯もついには捕らえられ処刑されたと噂が流れ、皆ほっと胸をなで下ろしたのだった。
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先程の青年は、まだ同じところに佇んでいた。顔立ちが整っているためか、それとも髪型が変わっているためか、ともかく目立つため後ろを通り過ぎる者はちらちらと青年を横目で見ていく。
「しょうがない・・・ そろそろ行くか」
やがて青年は、半ば諦めたように呟くと足元の荷物を持ち上げる。
と、遠くから誰かが翔けてくる気配がする。
そして、この時の青年はまだ気づいていなかった。
この後の出会いが、どんなにか自分の人生に大きく関わっていくのかを。
そして、自分を変えていくのかを。
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「待ちやがれ~~~~!」
野太い男の声が風に乗って聞こえてくる。
(ん? 喧嘩か?)
青年はそう思ったものの、さして興味がない様子で歩き出す。
一方、通行人の間をするりするりと器用にすり抜けながら走っている少女がいた。
「どけ! どきやがれ!」
その少女の後ろを荒くれ者の二人組が、通行人を押しのけながら追いかけていた。
「へん! 待てと言われて、待つ馬鹿がどこにいんのよ!」
少女は後ろを振り返り十分距離があることがわかると、余裕からか勝気な言葉を放つ。
だが、よそ見をしたせいで目の前に突然現れた青年は避けきれなかった。
ドカァッ!!
と、勢いよくぶつかり、そのまま倒れ込んでしまう。
「いった~~」
少女は顔を押さえていたが、すぐに自分の下に青年が寝そべっていることに気付く。
「あ! あの、その、ごめんなさい! 大丈夫ですか?」
「いや・・・ 大丈夫だけど。・・・それより、上をのいてくれないか?」
「あーー! あたしったら、ホントごめんなさい!」
慌てて飛びのき、ひたすら謝る少女。どうやら悪気はなかったらしいと青年は感じ、おもむろに立ち上がる。
「まぁ、急いでるのか知らないけど、天下の公道を走るのはあんまり感心しないね」
そんな風に注意をしていると、あの二人組が追いついてきた。
「やっと、追いついた~~」
「手間かけさせやがって~~」
二人は息をぜぇぜぇ切らせながらも、
「こらぁ! 見せもんじゃねえぞ!」
と、周囲に睨みを利かせていた。
二人組を見た少女は気まずそうにこそこそと青年の背に隠れるようとする。
青年はそんな少女と荒くれ二人組を交互に見た後に、
「え~~っと・・・ 友達? (汗)」
と、間の抜けたことを言う。
「違います!」
「「違うわ!」」
そして両方から即座に否定される。
やがて息の整った荒くれ二人組は見た目通りの言葉遣い、かつ睨みつけながら青年ににじり寄ってくる。
「おい兄ちゃん、俺らはそこの娘に用があるんだよ。関係ねえなら、大人しく引き渡してくれねぇかい?」
青年は全く動じること無く、どうしたものかと頭を掻く。
(はてさて、どうしたものか・・・。せっかく早起きしたってのに、こんなのに巻き込まれるとは。厄日なのかね)
そんな風に考えていると、突然後ろから変な声が聞こえてきた。
「へん! てめえらなんぞに渡せるか! 速攻で倒してやるぜ!」
後ろに隠れていた少女が青年の声色を真似たのか、精一杯低い声を出してとんでもない事を言ってきたではありませんか!
驚いたのは青年の方で目をパチクリしていると、二人組の方は挑戦と受け取ったようだ。
「なにぃ!」
「そっちがそのつもりなら、やってやらあ!」
と、腕まくりして迫ってきた。
「ちょ、ちょっと!?」
どういう事だよ、と後ろを見ると少女は両の手の平を合わせ、
『お願い、頼んます』
のポーズを取っていた。
「・・・おい」
こうして巻き込まれた形で、青年は荒くれ二人組と相対することになったのだった。
派手な大立ち回りが展開され、とはならなかった。荒くれ達が繰り出す拳をひょいひょいと躱し、相手がバランスを崩したところを膝蹴りで一人、いつの間にか手に持っていた傘で突きを繰り出して一人、とあっという間に二人をのしてしまった。
これには周囲の野次馬たちも歓声をあげていた。
この展開は予想外だったのか少女はポカンとしていたが、はっと気づくと深々とお辞儀をする。
「あ、ありがとうございました、お侍さん! お陰で助かりました」
(焚きつけたのは君でしょ?)
青年はそう感じていたが、よく見ると少女は髪型が少々変わっていたがなかなかに可愛らしかった。
この時代では『島田娘』と言うように島田髷と呼ばれる髪型をしているものだが、少女は髷を結わずに下しており、色も茶色基調に赤っぽいものが混じっていた。しかも、頭の中央部にはぴょんと跳ねている『跳ねっ毛』もありで、少々どころかかなり変わっていた。
(ま、かよわい(?)娘を助けたということで良しとするか)
そう思い直すと小さくため息をついた。
「あの、私、凛と申します。助けて頂いたお礼がしたいので、もしお急ぎでなければ私が働いているお店に立ち寄ってくれませんか?」
「いや、そんなに大した事じゃないから」
青年は断り立ち去ろうと後ろを振り向くと、少女はいきなり襟を掴み、
「まぁまぁ、そう言わずに。このまま帰したら私がお梅さんに叱られちゃいますし」
と、強引に引きずっていく。
(・・・え“? この娘、ものすごい力なんだけど・・・(汗))
しょうがいないと青年は途中で抵抗を諦め、少女と並んで歩き始めるのであった。
つづく
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