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【第三の居場所】あのコスモス畑は、まぎれもないサードプレイスだった。

小学生の頃、近所にコスモス畑があった。
畑といっても手入れのされたものではなく、自宅の斜め前の空き地を埋め尽くすようにコスモスが咲いている場所だった。

わたしにとっての特別なコスモス畑。
そこは、れっきとしたサードプレイスだった。
この場所を言い表す言葉をずっと探して、この概念にたどり着いたとき、なによりもしっくりきたのを今も覚えている。

サードプレイス
辞書には載っていない言葉だけれど、聞き覚えのある人もいるのではないだろうか。

KOKUYOの働き方用語辞典にはこんな風に記載されていた。

自宅や会社とは別の心地のいい仕事場

自宅(ファーストプレイス)や会社(セカンドプレイス)以外の心地よい第3の居場所のこと。

最近では多様化する個人の働き方に応え、働く場所としてカフェやコワーキングスペースなどを利用することを許可する会社も増え、仕事場としてのサードプレイスについて注目されています。

KOKUYO 働き方用語辞典

また、書籍『サードプレイス コミュニティの核となる「とびきり居心地よい場所」』では、サードプレイスはこんな風に説明されている。

  • ストレスや緊張に効く「庶民の治療薬」

  • 人生の義務や苦役からの逃避と束の間の休息

  • 人を平等にするもの

  • 誰でも受け入れる場所

  • ほかの場所で義務から解放されたときに人びとを受け入れる場所

  • 気力を取り戻す、緊張をほぐす、くつろぐに打ってつけ

(すべて『サードプレイス』を参照)

コスモス畑は、すべてに当てはまった。

当時の私は、家庭の中で母のこだわりに沿う義務を課せられていた。
悪気ではなかったのだろう。あれは、こだわりだった。
元来、人に従うのが嫌いなわたしにとって、こだわりに沿う行動をするのはとてつもないストレスだった。
よく、義務を果たせずに家の外に閉め出されていた。

そんなとき、わたしはきまってコスモス畑に行った。

コスモスは伸び放題で、子どもが体操座りをすれば外からは見えなくなる高さだった。
そこには野良猫が何匹か散歩に来ていて、黙って座っていると近づいてくることもあった。
コスモスを摘んで、花飾りをつくった。
コスモス畑に隠れて本を読んだ。
コスモス畑に隠れて泣いた。

ファーストプレイスである家でも、セカンドプレイスである学校にも、認められなかったけど、コスモス畑は、居ていい場所だった。

認められない存在でも、関係なく平等に受け入れてくれる場所だった。

『サードプレイス』のなかで、筆者レイ・オルデンバーグは、こう述べている。

サードプレイスは、往々にして、家よりも家らしい。

『サードプレイス コミュニティの核となる「とびきり居心地よい場所」』

筆者の辞書では
家(home)は

  1. 家族の住み処

  2. 同居している家族によって形成される社会単位

  3. 快適な環境

となっていて筆者は
この3.快適な環境という定義において
平均的な住宅よりも平均的なサードプレイスのほうが当てはまりそうだと言っている。

そしてもちろん、わたしにとっても、家よりもコスモス畑が、快適な環境だった。

家庭(ファーストプレイス)でも、学校や職場(セカンドプレイス)でも、認められない、受け入れられない人にとって、サードプレイスは大きな救いとなる。

ここまで引用してきた『サードプレイス コミュニティの核となる「とびきり居心地よい場所」』では、主に地元の飲食店をサードプレイスとしている。

でも、子どもだったり、お金がなかったり、人に会う気力すらもない人にとって、植物が生えている(時々動物もいる)静かな場所は、立派なサードプレイスになると思う。
お金や気力がなくても、どんな人でも受け入れる場所になってくれる。

安全上の問題や、整備によって、気軽に立ち寄れるそういった場所は、少ないかもしれない。
とても田舎に住んでいるけれど、意外とこういう場所は少ない。
安全が保障されるかもわからない。

だからこそ、街づくりや社会貢献事業などの分野で、こういうサードプレイスができていけばいいのにと感じる。

いつだったかテレビで、キャンピングカーに本を詰め込んで誰でも読めるように開放しているおじいさんを見た。

あのコスモス畑のような場所も、もう少し安全やエンタメ性が高いおじいさんの図書館のような場所も、きっと誰かの救いになる。

大好きなコスモス畑は、このまえストリートビューで見たら、アスファルトの駐車場になっていた。
それでもずっと記憶に残っていて、コスモスを見るたびに温かい気持ちとサードプレイスの大事さを思い出させてくれる。

いまもし、サードプレイスをつくっている人は、必ず誰かを救っていると知っていてほしい。
これから作るひとも、増えていけばいいなと思う。

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