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ポーランド映画

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『アマチュア』

監督:クシシュトフ・キェシロフスキ

観るのは二回目だった。『平穏』のその先のお話とも取れる。妻と子供と家、平穏な生活を望んでいたはずの主人公はカメラと出会うことで、取り憑かれたように身の回りのものを撮影する。次第に「演出」や「編集」を知り、制作の幅を広げていく。ポーランドにおいて映画を撮ることは、被写体を社会的に傷つける可能性があり、フィルム自体が利用されたり規制されたりする。主人公は次第に全て

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『傷跡』

監督:クシシュトフ・キェシロフスキ

ずっと会議シーンで話もあんまわからんかった。監督自身も認める失敗作らしい。歪んだ社会主義リアリズムへのアンテテーゼのような感じ。テレビマンも主人公の家に行くことによって彼の人間性を知る。社会的である自分と個人的である自分の間の葛藤は、ラストのカメラの後退によってドア枠に切り取られる主人公の姿から見てとれる。

『夜行列車』

監督:イェジー・カヴァレロヴィチ

ベタだけど抱き合うシーンが良かった。傷ついた者同士の交流というか。群衆が犯人に覆いかぶさるショットが気持ち悪い。冒頭にも歩く人々の姿を空撮で捉えていた。夜行列車という空間の中で切り取られる人々との対比なのかな。男がたむろする通路を狭そうに通り抜けるのは『アンナの出会い』っぽくもあり、全編漂う倦怠感も近い気がする。ヒーローであるはずのチブルスキは誰からも労われるこ

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『異なる年齢の七人の女性』

監督:クシシュトフ・キェシロフスキ

それぞれがそれぞれの人生とダブっているようで、でも踊っている彼女たちの身体性はその人にしか出せないものなわけで、赤の愛や偶然に近い運命論的なもの
個人と全体のせめぎ合いはポーランド的というかキェシロフスキ的というか映画的というか
衰えた老女はもはや踊ることすらできない

『夜の終りに』

監督:アンジェイ・ワイダ

この時代にこの作風で撮ったことに意味があるのかな。無秩序なヌーヴェル・ヴァーグ的作風は当時のポーランド社会でどう受け止められたのか気になる。途中第四の壁を越えてきたような気がした。

『Iluminacja』

監督:クシシュトフ・ザヌーシ

現在から未来を見るということ。一瞬挟まれる未来の動乱の映像。未来が決まっているが、映画は悲壮感を漂わせずに、ある男の十年間を駆け足で探っていく。映画全体が走馬灯のようでもあり、この映画はむしろあの未来から主人公が見た過去だったのかもしれない。離婚した後主人公が部屋に戻ってきたときの妻とのやりとりが情動的で、カサヴェテスみたいだった。細かい専門用語は英語字幕だったので

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『結晶の構造』

監督:クシシュトフ・ザヌーシ

かなり『オールド・ジョイ』でよかった。冒頭、雪原をうろうろするヤレクと妻、そこに爆走してくる車でもう対比がなされている。二人はかけっこや腕相撲をし(ここの解放感もよい)、心が通じ合っているかのようにも見えるが、カヴェツキは実は上司に命令されてここを訪れたことが分かる。好物のディスコミュニケーションonコミュニケーションだった。車を爆走させるときに、ヤレクがけしかける

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『灰とダイヤモンド』

監督:アンジェイ・ワイド

評判に違わぬ名作だった。昨日観た『シナのルーレット』のダラダラカメラ動かすのが嫌いだったんけど、この映画はとんでもない。書記長の死体から高速ティルトで花火上がるのは笑うしかないし、アンジェイとマチェクの訣別シーンでは、「アンジェイ!」の叫び声を号砲に高速パンで対角線状の構図を一発で映して見せる。的確でキレのあるカメラに感動した。物語もポーランドロマン主義のジレンマという

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『パサジェルカ』

監督:アンジェ・ムンク

未完の映画なので何とも言い難いが、眠くなってしまった。割と悪くなかった気がするので見直したい。

『太陽の年』

監督:クシシュトフ・ザヌーシ

こういう映画を見るたびに、人物を通して社会を考えていいのかわからなくなる。ドイツ人とのやりとりからも分かるように、男はアメリカ的ヒロイズムを体現し、J-POPバリの愛の文句を囁く。女はそれに惹かれるが、祖国を捨てることに葛藤する。時代は違えど、ポーランド自由化の道のりに重ねられるのではないか。西側の自由に魅力を感じながらも、祖国から目を背けて生きていくことはできない

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『スティル・アライヴ』

監督:クシシュトフ・キエシロフスキ

『デカローグ』製作までの流れがかなり違った。満を持して、かと思いきや、『偶然』、『終わりなし』で国内からの批判に疲れて十戒に立ち返ったという流れなのか。『ふたりのベロニカ』ももう一回見てみたくなった。スチュエル同様に平穏を求めていた監督自身の姿に驚いた。ザヌーシからジャコブまで出演者も豪華なので見る価値はある。ビノシュはもちろん、シャポロフスカさんがとても綺麗

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『平穏』

監督:クシシュトフ・キエシロフスキ

初期の中で一番いい。アマチュアっぽくもある。飲み会の場で語られるように、彼は平穏を求め、家庭を欲する。しかし望み通りの相手と結婚すると、仲間と親方の間で板挟みになる。『スタッフ』に似た展開。ラストでは、大家さんに買ってもらったグレーのスーツを着た彼はリンチに遭う。リンチ後の馬のフラッシュバックは明らかに、彼の平穏が崩壊したことの証である。さらにこのスーツは平穏

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『スタッフ』

監督:クシシュトフ・キエシロフスキ

個人と社会、窃視、二つの世界。後期に繋がる要素がたくさんあった。乗るのを諦めかけるのに、結局追いかけてしまう主人公の姿に共感してしまう。仕事、自然、あのときああしていなかったら。彼の視点から見た芸術は、純真無垢なものから社会の思惑に左右される脆いものへと変わってしまう。それの是非というより、彼がそれを見たことが大事なんだと思う。舞台裏で上昇するカメラが面白かっ

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『フォトグラフ』と『初恋』、『地下道』

監督:クシシュトフ・キエシロフスキ

『フォトグラフ』はドキュメンタリーなんだけど割と編集されている感じがした。切り返しショットもあるし、音声も後付けのところがある。一枚の写真から浮かび上がる社会と人間。夫の昔話のところが一番好き。
『初恋』は初期ケン・ローチっぽい。というか本人が敬愛していた気がする。たまに演者がカメラの方を見てしまっていた。そっけないのに出産シーンはエモーショナル。産まれたての

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