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本はタイトルで出会う。美しいタイトルに惹かれた小説 3選

本を読むのが好きだ。電子書籍は便利だけど、圧倒的に紙の本が好き。

書店で本と出会う瞬間が好き。紙のページをめくってその先に物語が展開されていく感覚が好き。休憩するときに栞をはさむのも好き。本棚に並んでいく色とりどりの背表紙も好き。そこに存在するものとしての本が好き。

好きすぎて、本業のかたわら書店でも働いている。朝の薄暗い店内で、新刊本や雑誌を並べていく時間も好きだ。

好きな作家さんはいるけれど、はじめて知る作家さんの本でも、書店で装丁に惹かれてジャケ買いをすることもある。そして、なんとなく見たタイトルに惹かれて買うことも多い。

並べられた本たちをぼーっと見ていると、気になったタイトルが心の中で読み上げられ、脳がビビっとその本を認識するのである。(根拠のない感覚の話)

そうして手に取って購入する本は、いい出会いをしたと思える素敵な本たちばかりだ。そんなタイトル買いをした作品のなかでも、特に好きな3作品をご紹介します。


『あなたと食べたフィナンシェ』 加藤千恵 著


家を出るお父さんが教えてくれたアンキモの味。引っ越す友達と分け合ったグミ。仕事を辞めて久しぶりに作るキュウリのサラダ。恋人に別れを告げられ、目の前で冷めていくビスマルクピザ。子どもと食べる初めてのフライドポテト。恋、仕事、親との別れ――人生の忘れられない場面には、必ず食べものの記憶があった。珠玉のショートストーリー+短歌集。

幻冬舎HP 作品紹介より

存在感を放つ赤い表紙。そして『あなたと食べたフィナンシェ』という、心に切なく響くタイトル。一瞬で、記憶のなかの大切な思い出のワンシーンに飛んでいきそうになる。フィナンシェにまつわる思い出はないけど。

食べ物をテーマにしているが、食べ物がメインの話ではない。さまざまな人々の人生の一場面がとても繊細に描かれており、そこに登場する食べ物が各エピソードのタイトルとなっている。

幸せな記憶ばかりではなくとも、自分にとっての大切な人、その人と過ごした時間と、一緒に食べたものを思い出す。わたしは読んだ後、楽しそうに笑いながら柿の葉寿司を食べる祖母に会いたくなった。

ショートストーリーと短歌集であり、仕事のちょっとした休憩などのすきま時間や寝る前に少しだけ読書をしたいときにぴったりな作品。いや、没入してしんどいくらい切なくなる話もあるので要注意かも。公共の場ではなく、ひとり時間に読むのをおすすめします。


『なにごともなく、晴天。』吉田篤弘 著


鉄道の高架下商店街〈晴天通り〉で働く美子の前に、コーヒーと銭湯が好きな探偵が現れる。話を聞いた町の人たちは、それぞれの秘密を語りはじめる。

中公文庫HPより

「なにごともなく、晴天。」
声に出して、つぶやいてみてほしい。

わたしは、なんだか納得してしまった。違和感を感じてもやもやしていても、すこし怒ってぷんぷんしていても、空がもくもく曇っていても、「なにごともなく、晴天。」と言えば、なんだか気持ちがすこし平らになる気がした。

この本と出会ったとき、わたしはすこし悩んでいたから、この本を見つけてタイトルだけですこし救われてしまった。

内容は、「銭湯」「コーヒー」「探偵」「秘密」。高架下の商店街で暮らす人たちの奇妙な会話が絶妙におもしろい。まずいコーヒーとベーコン醤油ライスが食べたくなる。

と思ったら、巻末に〈荒野のベーコン醤油ライスの作り方〉が収録されているという、おなかまで大満足の一冊。


『ときどき旅に出るカフェ』近藤史恵 著


氷野照明に勤める奈良瑛子が近所で見つけたのは、カフェ・ルーズという小さな喫茶店。そこを一人で切り盛りしているのは、かつての同僚・葛井円だった。海外の珍しいメニューを提供する素敵な空間をすっかり気に入った瑛子は足しげく通うように。会社で起こる小さな事件、日々の生活の中でもやもやすること、そして店主の円の秘密――世界の食べ物たちが解決のカギとなっていく。読めば心も満たされる“おいしい"連作短編集。

双葉社HPより

「〇〇カフェ」や「喫茶〇〇」などのタイトルの作品は多いけれど、わたしはこの『ときどき旅に出るカフェ』という作品から醸し出される、なんともいえないわくわく感が大好きだ。

「旅に出るカフェ」だとちょっと遠くに行きすぎて不安だけれど、「ときどき旅に出るカフェ」は近くにありそう。行きつけにしたい。

その名のとおり、物語の舞台は、店主がときどき旅に出るカフェである。日常で起こる小さな事件と、その解決の鍵となる海外のめずらしいメニューがおいしそうに描かれる作品。

すでに続編も出ており、そのタイトルがまた良くて好きだ。「ときどき旅に出るカフェ 2」ではない。(そんなわけない)

一作目と同じくおいしそうな料理で心をほぐしてくれる作品ではありつつ、コロナ禍の影響を受けた飲食業の苦悩、それでもカフェという店主と客の居場所を守る姿に心打たれる作品、『それでも旅に出るカフェ』。痺れる……


好きなタイトル、まだまだあるけどこの辺で


好きな小説のタイトルは、どんなに長かったり聞き馴染みのない言葉でも覚えているものだ。

タイトルがすべてではないけれど、印象的で自分に響くタイトルの小説との出会いは楽しいもので、わたしはとても大切にしている。

ぜひ書店をぶらぶら歩きながら、心に響くタイトルの小説との出会いを探してみてください。



書き終わって気付いたら、「好きな食べ物小説 3選」になっている……


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