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"人口約4,000人の小さな楽園"全てが満たされる「神山町」に滞在してみた

徳島県の山間部に位置する神山町は、人口4,724人の小さな町だ。1995年の人口は1.5万人だったが、2023年の今、その数は約3分の1まで減っている。

多くの自治体、もしくは日本という国全体が「人口を増やさなければ!」と躍起になっているが、一方で神山町は年間の移住者受け入れ数を"年間11人"に制限している。移住者ウェイティングリストがあるのに、なぜ人口を増やさないのだろうか。
滞在中にその意味を探ってみた。

人口が増える=幸せ?

私たちは当たり前のように今ある状態を正常と考え、そうではなくなると慌てふためいてしまう。ただ、そもそも、人口が増えることによって私たちは幸せになるか?という問いに上手く答えられる人は何人いるのだろう。

「人口が減れば今ある福祉などのサービスの質が保てなくなる。それは困るだろう!」
「将来年金が少なくなったらどうするんだ!」などなど声が聞こえてきそうだが、肝心なのは神山町が提唱する「賢い縮み方」なのではないかと私は思う。

滞在したweek神山の一室。大きな窓からは人ひとり見えない。ただ雄大な川が広がっている。

過度な関係人口は幸福度を下げる

賢い縮み方とは、要するに”今あるものがなくてもやっていけるような体制や仕組み作りを行う”ことだ。そして何より”その過程を楽しみ、無駄を削ぎ落とし心の充実度”というものを重視する必要がある。
例えば、関係人口は多ければ多いほど、なんとなくいい気がする。そこに多くの人が出入りして、活気がある様子を浮かべる人も多いだろう。
ただ、そこに住む一般の人であると自分を仮定してみると、なんだか落ち着かない気もする。どこへ行ってもいつも知らない人ばかりで、何人かはポイ捨てなどの迷惑行為をし、近所を道に迷った人がうろうろ歩いている。確かに時折の新しい出会いは確かに人間関係を豊かにしてくれるが、大事なのはその頻度だ。

地元の夕飯会で気づいた、大都市との信頼関係構築の違い

大都市で仕事をしていると、信頼関係はいかに早く、的確に、工程数を抑え、お互いの仕事を責任を持ってやり遂げられるか、という効率化に特化した関係が築けるかどうかが重要な気がする。
しかし、地方に来ると、それは逆に引かれてしまうのだから、面白い。
神山町には今のまちづくりの土台を築いた、当時40歳以下の数名で構成されたメンバーがいた。このメンバーのひとりのご自宅で、地域おこし協力隊の方々や、第三セクターの団体の方と夕飯を共にする機会を得た。

参加してくれた20代の女性の方が言った。
「私週1~2はここでご飯食べてますよ。居酒屋はほとんどないし行かないですね。でも、全く不便でも不満足でもないんですよね。」

この発言を聞いて私は東京で週5以上居酒屋に行っている友達の顔が思い浮かんだ。
彼女はいつも何かを求めて、ストレス発散や、チームビルディングのためなど何かと理由をつけていつも飲んでいる酒好きなのだが、最近は顔色がどうも良くない。

ふと思った。
本当の信頼関係は、綺麗に盛り付けされた料理が出てくる場ではなく、自分たちで材料を持ち寄ったり、切ったり、作ったり、協力する作業のもとに生まれるのではないかと。

鍋パって、めちゃくちゃ人となりがわかる信頼関係構築手段なのでは・・・?

取引先の方のご自宅で鍋をやる!となった時(まずあり得ないだろうが)、あなたは何を手土産に持っていくだろうか?集合時間より早く行って材料を切ることを申し出るだろうか?もしそれを断られたらお皿を並べる?もしくは鍋が始まったらどの程度みんなに気をつかって配膳するだろうか?もしかすると、ただ食べるだけの人もいるかもしれない。

地方は多くのものが、"ない"。だから一人の人が色々な役を兼任する必要がある。それこそが仕事になったりする。だから、ただの鍋パーティーでの信頼関係が結構大事なんだろうと思う。

神山町には職種が一つだけの人は少ない。自分の趣味を生業にしている人がたくさん存在している。

森の保全活動をしながらアイスクリーム屋さんをする人。
こだわりのオーガニック素材でお菓子を作る人。
オーダーメイドの靴を丁寧に作り上げる人。
人と人を繋ぐコミュニティマネージャー。
新しい学校を作ることに情熱を注ぐ人。
アートを作りながらビールも作る人。
神山町の多くの人が複業で、忙しさではなく、自分のサードプレイスを増やし、人生の満足度を高めているという。

森のあちこちに出現するアート。アーティストレジデンスの取り組みでこの町には多くの移住者や外国人がいて、それぞれ多くの活動を行なっている。

お金がもはや幸福度を底上げするものではないと多くの人が気が付いている中、「少なくなる人口で、何があれば自分たちは幸せで、何を残していきたいのだろう」という議題については、どの自治体も話し合わなければいけないだろう。逆に、この議題を話せない自治体は絶えていくと思う。

もう一度「本当に人口が増えること」が正しいのか考えよう

地球の環境は既に限界を迎えていて、100年後には全世界の人口の半分も養えないと言われている。私たちの子供たちが戦争に巻き込まれ、無惨に死んでいく未来が日に日に現実味を増している。
そんな中で、若い世代が子供を欲しがるだろうか?ただ環境を破壊し、持続不可能な未来を作り続ける世の中で、なぜ、わざわざその地獄に自分の大切な子孫を残したいのか?
この原点に立ち返ると、神山町の哲学が身に染みてくる。
「未来で子供たちが生きれる環境を作ろう」
このかけがえのない価値観のもと、未来を作りたいまっすぐな人たちが毎年11人、この町に移住し、未来を続けていくのだろう。


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