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けふこ月報 2023年9月

月報です。

やっと涼しくなってきてほっとしています。
多摩丘陵と武蔵野台地の上では朝晩は寒いくらいです。
ここまでのお話はこちら。


登壇情報

ゆにここカルチャースクールの「創作する人のための歴史叙述と歴史創作」がおかげさまで好評です。途中からも受講できます。単発受講も可能です。
どうぞよろしくお願い申し上げます。
https://unicoco.co/1446/

弥生神社講座は10/28から再開します。折口信夫の短歌をすこしずつ読みます。まずは短歌円寂論から。
学問系の登壇は11/23(東大駒場・『吉田健一に就て』刊行記念シンポジウム)、12/9(早稲田・翻訳と詩歌)、12/16(世界文学会)です。

9月10日以後に見たもの

新国立劇場配信『骨と十字架』

改めて見て、緻密な構成と台詞だけで思想と信仰とニンゲンのドラマを浮き彫りにする濃やかな演技に圧倒されました。テイヤールのラディカルさと鋭く対立するドミニコ会の超保守派イデオローグという、リベラルな現代人にはなかなか理解し難い役をリアリティをもって演じた近藤芳正さん、さすがの貫禄でした。
野木萌葱さん、小川絵梨子さん、演者とスタッフのみなさま、ほねじゅうはほんとうに素晴らしい舞台でした。同じ時代に目撃することができてうれしい。
新国立劇場さま、再配信と円盤発売お待ちしています。再演もぜひお願いします。よろしくご検討賜りますよう心よりお願い申し上げます。

『ロスト・キング』

感想はこちら
主人公がプロフェッショナルからたしなめられても直観を信じて「思う(feel)」ベースで進んでゆくのも印象的です。
悩める歴史愛好家のみなさまぜひご覧になってください。

『ミュージカル刀剣乱舞八周年 すえひろがり 乱舞野外祭』
大千穐楽ライブビューイング(新宿バルト9、9月24日)

感想はこちら。最初から最後までトップギアに踏み込んでオーディエンスおなじみの楽曲を詰め込み、ハイテンションで通す構成はさすが刀ミュです。殺陣の量は少なめとはいえ、ハイカロリーで運動量の多い舞台でした。
見所がたくさんありすぎて眼がいくつあってもたりない。
楽しかったですね。

ジェス・ダンディ コントラルトリサイタル(日本基督教会蒲田御園教会、10月1日)


歌詞の翻訳を一部お手伝いしました。

英国の若手コントラルトのリサイタル。オルフェウスの愛の喪失の物語に沿ったプログラムです。オルフェウスやリナルドのようなバロックオペラヒーローがとても似合うゆたかな声。その声で知的な解釈にのせてディクション明晰にアレックス・ミルズ《私の失われた愛》もブリテン《子守歌のおまじない》シューマン《女の愛と生涯》やコルンゴルド《4つのシェイクスピアの歌》もあざやかに物語の断面をひらいて歌ってくださるのがじつにたのもしい。英語の詩がいかに演劇としたしい存在かを伝え、バロックオペラヒーローの声で歌う《女の愛と生涯》がかえって19世紀の「家庭の天使」のヒロイックな感情の標本をそっとさしだしてくるさまにも立ち会えます。伴奏のアンガス・ウェブスターも最高。指揮者のピアノだけあって余計なことをいっさいせずにそれぞれの楽曲にあった方法で最大の効果を添えていました。都響定期でのお二人の出演回に行かなかったのが痛恨です。
お二人ともぜひまた日本にいらしてください。
多くの人に歌う勇気と希望をくださる方だと思います。
拝啓MCSさま、ジェス・ダンディさんのマスタークラスもぜひ開催してください。


熊本マリの夜会 スペインの熱い夜〜アリシア・デ・ラローチャへのオマージュ〜(10月5日、東京文化会館)


熊本マリさんのピアノリサイタル。アリシア・デ・ラローチャ生誕100年記念のほとんどスペインものプログラムです。ラローチャのレパートリーにちなんでアルベニス、ファリャ、グラナドス、モンポウ、リスト、ショパンなどをちりばめたカラフルなプログラムと、堅牢なフレームがいっさい崩れない闊達で明晰で懐の深い音楽で堪能しました。きらきらした陰翳に富むモンポウもイベリア半島の風光を知る人ならではの演奏です。チャーミングでかっこいいお姉さまらしいお話もすてきでした。常連のお客様がいらっしゃるかたで、アンコールには「いつもの」とおっしゃってファリャ《火祭りの踊り》をキメてくださいました。次回も楽しみです。


ムビナナ(劇場版『アイドリッシュセブン』)をさらに見に行った話

2回目の感想はこちら
千穐楽ウィークまでに結局4回見ました。
最高のステージを声優の技芸(ディクションきわめて明快、全員いい声、全員演技とうたがうまい、歌詞カードを見なくても歌詞がわかる。ハイアマチュアの合唱人や声楽家志望の若い人にはぜひ彼らの日本語のディクションに注目してきいていただきたい)とモーションアクターの技芸(全員おどりがうまいのは当然として、むろんキャラクターの芸風に応じた演じ分けができている)と、先端の映像技術で作る野心的な試みです。
身体のノイズを可能な限り減らした上で、歌詞とゲーム本体の物語のコンテクストと実現可能な舞台演出・衣裳・プロジェクションマッピングで幾重にも実在感のフィルタを重ねている。種村有菜さん作画の青年像の感じのおもざしの演者さん、3次元にもいらっしゃいますよね。
サイトスペシフィック要因によって体験の一回性が担保される仕掛けで、見るたびに新たな発見があります。
千穐楽ウィークを設定してきちんとお別れができるようにしてくださる企画も心憎い。
何度も通う人の気持ちがわかります。

バルト9でDay2の応援上映と千穐楽ウィークのドルビーシネマ上映を1回ずつおかわりしました。
バルト9の応援上映にはキンブレの達人やコールの達人が集まってリードしてくださる。心やすく見られます。たしかにキンブレは2本以上あったほうがたのしいし、公式ペンライトなら調光失敗の不安がないでしょう。
「つい眼が推しを追ってしまう」とみなさんおっしゃるのもよく理解できます。それぞれの美しさのもっとも美しいところをとらえるカメラワークです。4回目でようやく平常心でみられました。

アートディレクションが徹底しています。音楽と歌詞に愛誦性があり、3次元の世界の側にいるオーディエンスにとっては失われゆく抒情の器とそこに盛られるもの姿を問う内容になっている。
虚空に漂うパフォーマーのサイバー標本16点のつめたい悲愁漂うプロジェクションマッピングからアイドリッシュセブンの歌う《Nightfall》にいたるステージングが忘れられません。作中世界では逢坂壮五さん名義の作品で、夕闇ののちの希望をかたりかける曲でもある。客席から花道にむかってかけおりて、花道にひとりずつあがってやがて揃って歌い出す、やさしいブルー・アワーに包まれた森を背景にして、ブルー・ブラックの星空をあしらい、裾に暗い森の山際にうっすらと輝くメンバーカラーを配したロングコートの衣裳をまとうかれらのすがたがリリカルに凛々しい。とりわけ、晴朗なひたいをあげて最初に花道にあがる和泉一織さんのたたずまいをとらえるカメラワークがはっとするほど冴え冴えとしている。

初見ではZOOLさんのことがよくわからなかったのですけれども、ゲーム本体のストーリーを読んでDay2を3回見てようやく像が結ばれてきたようです。全員鍛えられた技芸や冴えた直観をもつメンバーなのに、大手プロダクションからのデビューが決まってもこれまでミュージシャンとしてたどってきた境遇がなにかと不遇なだけにすなおにひとに心を開くまでの苦労があって、それでもどうにか信頼し合ってよい音楽をつくろうとおずおずと手をさしのべあう。作中の棗巳波さん名義の作品にも若書きならではの洗練がある(したがって、ゲーム本体の「ライブ」ではZOOLさんの作品はとてもリズム打ちしやすい)だけに、かれらの純情がかえって印象に残ります。

この文章を書いている時点ではゲーム本体のストーリーは第6部10章まで読みました。競合者を蹴落とす策略に淫した制作サイドの有力者の挙動によって損なわれた「アイドル」の歌唱文化と業界の信頼回復のために、サイコーのライブを目指して経営者世代も仕掛けを変えて演者制作側ともに切磋琢磨しあう環境を整備しようとしているパートです。
16人の演者たちは設定上「ぐうぞう」を名乗ってはいますが、ここに登場する16人が16人ともこれまでの「ぐうぞう」ということばでは包みきれないではない何ものか、総合的表演家的なものを目指しているのではないかとも思えてきます。誰一人として未熟な芸で満足する人がいない。過当競争に突き落とされながら至高をめざすソリストのかぎりない孤独ではなくて、共同制作を通して手を差しのべあう姿を通して歌と抒情の機能を問う展開になぐさめと希望があります。

新年のGood 4 Youには行けることになりました。彼らに会えるのが楽しみです。3次元のアコースティックなコンサートに親しんだ者としてはそこで自分が何を見ているのかを理解したい。むろんネイヴィブルーに調光したキンブレを振るでしょう。

追)ムビナナ特別物販発注品


《Nightfall》の衣裳はよい、あの意匠の布を受注生産してくださったらドレス着分買います。とか思わず心につぶやいてしまったコズミック柄コレクターです。

ナナイロストア公式通販で和泉一織さん色の《Nightfall》柄ツイリーは買いました。文章を書く心づもりでいますので、DVDボックスも発注するでしょう。物入りだな。

プロジェクションマッピングで投影されたアイドルサイバー標本図や舞台装置設計図(スケッチだったりするととてもうれしい)や特別版プログラム冊子で堪能した舞台衣裳設定図のポストカードが公式通販にないのが残念です。
アートディレクションが行き届いた舞台ですから、シアターゴウアーにとってはより舞台と彼らの実在感が高まるポストカードがあるとうれしい。
ぜひバンダイナムコオンラインさまにはご検討賜りますようお願い申し上げます。

追2)アイドリッシュセブンを語るツイッタースペース

佐々木遥さんのツイッタースペースでムビナナを熱く語っています。
ラジオ感覚でお聞きいただければ。

1回目

2回目


積み残した課題


杉本博司展(松濤美術館)
永遠の都ローマ展(カピトリーノ博物館所蔵品展・都美)
イヴ・サンローラン展(新美)
「山姥切国広が発見されたころ」(國學院大学博物館)
刀ステ 山姥切単独行(配信で千穐楽を見る予定です)

ほかにまだいろいろあった気がしています。
お友達のみなさま、リマインドをぜひよろしくお願いします。

お買い物

服飾とこの先の見通し


Acute Accentさんに指輪をお願いしました。ラピスラズリ+ルチルクォーツです。思い切った買い物です。後悔はしていません。

はずかしながら前述のコズミック柄ツイリーをナナイロストアで発注しました(発注するまでに多大な自問自答を繰り返しました)。
コズミック柄の布はネイヴィブルーの服同様何枚あってもいいものです。

とてもよいスペイン産のローファーと遭遇しました。お財布に優しいお値段ではあります。相談しつつ購入を検討します。
仕事用にジャケットをお迎えするべきか石橋をたたいています。

Amplitudeがブランドをたたんでしまうので、私のテーマカラーの眉マスカラの購入を検討しています。あんなにたぐいまれなる透明感を添えるきれいなディープパープルの色出しはなかなかにない。ヒトの顔はひとつだからそんなにたくさんお化粧品はお迎えできないとはいえ、使用感もすばらしいのにブランドをたたんでしまうのがとても残念です。

コットンギャバジンのコートは今年も着ます。
目の覚めるようなロイヤルブルーか、Lochcarronの青紫タータンチェックのストールをお迎えしたいかもしれません。シンガポールの音楽関係の知人からいただいたラグーンブルーのパシュミナのストールは良い色でよく似合うとたいへん好評です。

書籍まわりの課題


研究費で本を発注しました。
円安が止まらないのは洋学研究者にとっては地獄です。
本が買えず、渡航費もままならないとなるとまた、明恵上人のようにまなうらの天竺を夢みて史料翻訳に力を注ぐ季節がくるのでしょうか。
背筋が寒くなります。もう金融緩和はやめていただきたいものです。

春に急逝した友人の形見分けで蔵書をいただいてきました。
主に古典受容史関係の書物です。
彼の志も継いで、たいせつに読みましょう。



服飾自問自答

この夏は暑すぎて布を縫う気力が出ませんでした。結局去年の夏までにリバティタナローンで縫ったMerchant and MillsのThe Factoryを毎日洗って着ていました。タナローンは裏地に無地のタナローンをつけて縫ってもすぐ乾きます。
涼しくなりました。ロングコートがあれば多少薄着でもだいじょうぶです。手持ちの布でとりあえずいつものワンピースとブラウスを縫いましょう。Merchant and Millsで買ったテンセルのほか、nani iroのミッドナイトブルー地コズミック花束柄のストックがあります。これでさくっと縫ってください。


秋冬軽いジャケット用モールスキンをCheck & Stripeで入手しました。Merchant and Millsの型紙で縫いましょう。
コートの布も日暮里に行ってみつくろってください。

Merchant and Millsの型紙で縫ったアッパッパ(!)はこの夏たいへんよく着ました。そろそろ寝間着に仲間入りさせてください。

ところでテーマカラーと概念色コーデの話についてはいろいろ思うところがあります。また改めて書きましょう。

つづく。

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