『ロスト・キング 500年越しの運命』のかんたんな感想(追記あり)

『ロスト・キング』を公開初日に観劇の友と見ました。

スティーヴン・フリアーズ作品、リチャード3世の遺骨の発掘の糸口をつけた歴史愛好家フィリッパ・ラングリーの奮闘を実話に基づいて描く堅実な映画です。

持病も悩みの種で職場でなんとなく居場所がなく、離婚しても通ってきてくれる元夫と育てる二人の息子も難しいお年頃に入りつつある、そんな40代女性フィリッパ(サリー・ホーキンズ)がシェイクスピア『リチャード3世』を観劇し、シェイクスピアの盛った話だとは思いながらも舞台の上の「リチャード」の真率な表情に打たれてリチャード3世が気になり、地元の「リチャード3世協会」(ファンクラブに見えて実は王党派の胡乱な集会)と接触したことがきっかけで人生が動いてゆきます。
リチャード3世はシェイクスピアが描いたような悪役ではないはずだ。彼の墓所を探したい。
この思いに動かされて、めげずにアカデミックな講演会に参加して質問し、レスター市とレスター大学所属の考古学者に働きかけ、リチャード3世協会の「ファンダム」に呼びかけてクラファンをし、発掘成功にこぎつけるまでの道のりを抑制された語り口と温かなまなざしで描いています。舞台の上の俳優のルックスで現れるイマジナリーリチャード3世がなにかとでてきて主人公に語りかけられる場面も良い。エディンバラとレスターの市街を映す画面にも、主人公の微妙に垢抜けない服装にもリアリティがあります。
イギリスらしい映画です。

歴史愛好家のソサエティの、情熱がこうじて袋小路の行き場のない世界に入りそうな雰囲気や、アカデミアからの胡乱なアマチュアに対する態度、学問の不採算部門が金の卵を産む鵞鳥になったとたんに起きる掌返しなど、もろもろ笑えなけいけれどつい笑ってしまう場面もあります。
リチャード3世の遺骸再埋葬礼拝後に、リチャード3世を演じた俳優と出会った主人公が「とても感動しました」と礼を伝える場面が効いています。
物語と演劇の力を伝える場面でもあり、こういうところもイギリスらしい。

『ロスト・キング』の主人公、フィリッパ・ラングリーの成功は、鋭い洞察を示したアマチュア歴史家の発言に耳を傾ける専門家もいて、「ファンダム」の支援にも支えられた稀有な例で、歴史創作の批判的受容による生活のなかの歴史実践の事例ともいえます。

パブリック・ヒストリー案件なのでぜひパブリック・ヒストリーと「実用的な過去」に関心のある人はみましょう。
見て感想会をもつことをお勧めします。

アレクサンドル・デスプラ作曲の劇伴がすばらしい。それ自体で交響組曲として演奏されても違和感なく聴けて、サウンドトラックを改めて聴きたいレベルです。ロンドン交響楽団の演奏です。この劇伴を聴きに行くだけでも耳のしあわせが味わえます。



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