「連続試合安打」記録を続けた男と止めた男たち(2)秋山翔吾(2015年、31試合)

阪神タイガースの近本光司が29試合連続安打を継続中である。
NPBで近本を上回る、30試合以上の連続試合安打記録を持つのは7人。
その7人はどのように記録を続けたか、そしてストップしたか、振り返ってみたい。

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2015年7月14日 秋山翔吾(西武、31試合連続安打)vs 則本昂大(楽天)

秋山翔吾はプロ2年目の2012年に規定打席に達し、外野のレギュラーに定着したものの、それから3シーズンは打率3割には手が届かないでいた。
プロ5年目の2015年、開幕から1番・センターに座ると、4月は打率.374、5月は打率.336と打ちまくり、5月を終えて、80安打、打率.354という成績を残していた。

さらに、6月3日、ナゴヤドームでの中日ドラゴンズ戦の第1打席にレフト前ヒットを記録してから、毎試合、安打を積み重ねた。
7月11日、札幌ドームでの日本ハム戦、2打席連続四球で歩いた後、4回に迎えた第3打席で谷元圭介からショートへの内野安打を放った。
フルカウントから見逃せばボールという内角低めへの変化球であったが、秋山はタイミングを外されながら曲芸のような打ち方で打球は三遊間の深いゾーンへ到達した。
これでついに30試合連続安打とし、1976年の張本勲(巨人)、1977年の福本豊(阪急)、2011年のマット・マートン(阪神)に並び、NPB史上4位タイ記録。

続く翌日、7月12日の日本ハム戦でも4回、秋山は先頭で迎えた第2打席でメンドーサから第2打席にレフト前ヒットを放ち、31試合連続安打で野口二郎(阪急ブレーブス、1946年)が持つNPB歴代3位という記録に並んだ。


秋山は1971年の長池徳二(阪急)がつくったパ・リーグ記録である32試合連続安打にリーチを懸けた7月14日、西武プリンスドームでの楽天戦、いつものように1番・センターで先発出場。
対するは楽天先発の則本昂大。
則本はデビューから2年連続で二桁勝利を挙げ、このシーズンもNPB史上2人目となる、新人から3年連続で開幕投手を務めたが、この試合前まで防御率3.30、5勝7敗と打線の援護に恵まれていなかった。
秋山は則本の前に、空振り三振、ライトフライ、ショートフライと3打席ノーヒットに抑え込まれ、7回に廻った第4打席目もレフトフライに打ち取られた(この年、秋山と則本の対戦成績は25打数7安打、打率.280であった)。
則本は7回を投げ終え、被安打6、8奪三振、2失点でマウンドを降りた。
秋山は抑えたが、またしても援護は1点のみで、勝利投手の権利は得られなかった。

一方、このまま試合が終わってしまえば、秋山の記録はストップしてしまう。
西武が2-1とリードで迎えた9回、楽天の攻撃。
西武はクローザーの高橋朋己がマウンドに上がる。
だが、代打のザック・ウィーラーが放った打球はセンターを守る秋山の頭上を越えるタイムリー二塁打となり、2-2の同点に。
その裏、西武打線は楽天のクローザー・松井裕樹の前に三者凡退に終わり、延長戦へ。
延長10回裏の西武の攻撃、楽天は青山浩二がマウンドへ。
一死走者なしで秋山に打席が廻る。

青山は秋山に対して3球続けてボールで3-0。
4球目は外角へのストレートで3-1。
5球目の変化球を秋山はスイングしたが、空振りで3-2、フルカウントになった。
そして、6球目は外角へ、145キロのストレート。
秋山のバットは動かなかった。
四球。
秋山は自らの記録よりも、サヨナラの走者になることを選んだのだ。

その後、続く木村文紀の送りバントで秋山は二塁へ進み、3番の浅村栄斗が死球で二死一、二塁。
ここで4番の中村剛也が振りぬいた打球はレフトスタンドへ。
中村剛也の26号3ランホームランで、西武は劇的なサヨナラ勝ちを収め、連敗は「4」で止めた。

ヒーローインタビューには中村と秋山が呼ばれ、秋山は最後の打席をこう振り返った。
「(3ボールになって)打っていいという指示もあったんですけど、振れる球じゃなかった。自分勝手なバッティングをしてしまうと流れも悪くなる。うしろに打ってくれる人がいるので、あそこは我慢しました。自信を持って見逃しました。もう一度あの場面が来ても、僕は見逃すと思います」


秋山の連続試合安打記録は「31」でストップしたが、この間の成績は129打数59安打、二塁打9本、三塁打1本、3本塁打、12打点、打率.457というものだった。

秋山はその後もハイペースで安打を量産し続けた。
9月30日、京セラドーム大阪でのオリックス戦で4安打の固め打ちした後、第6打席目にこの日、5安打目となるライトオーバーの二塁打を放ち、マット・マートン(阪神)が2010年につくったNPBシーズン最多安打記録の214安打に並んだ。

翌10月1日、シーズン最終戦となるオリックス戦、第3打席でサードへの内野安打を放ち、シーズン215安打としてNPB新記録を樹立した。


続くシーズン最終打席となった9回の打席で、秋山はレフトオーバーの三塁打を放ち、記録を216安打に伸ばして、シーズンを終えた。

秋山は打率.359で首位打者こそ柳田悠岐(ソフトバンク)に4厘差(0.004)で譲ったが、全143試合に「1番・センター」で先発、フルイニング出場し、自身初の最多安打のタイトルを獲得した。

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