マガジンのカバー画像

『極私的ライター入門』

41
ライター歴37年の私が約20年前に自分のサイト(すでに消去)に載せていた「ライター入門」を、少しずつ再録していきます。 時代の変化で内容があまりに古くなっている部分は、適宜アップ…
運営しているクリエイター

#ライター

ライター必読本⑦重松清『あのひとたちの背中』

「ライター仕事」のマスターピースの1つ 重松清が『en-taxi』に連載した、作家、マンガ家、脚本家、映画監督など、広義の表現者13人へのロングインタビュー集である。 私は重松清を、小説家としてよりもライターとして尊敬している。 小説家としても好きではあるが、ファンというほどではない(そもそも、小説は数作しか読んでいないし)。 重松が小説家として名を成す以前から、いまに至るも続けてきたライターとしての仕事――その素晴らしさに感服つかまつり、「ライターの鑑」として仰ぎ見

〆切は「足枷」であり「翼」でもある

〆切がなかったら一行も書けない 昔、一度だけ〆切のない仕事依頼(ブックライティング)を請けたことがある。「じっくり書いていただきたいので、〆切はとくに設けません」と、先方の編集者は言った。 半年ほど経って進捗伺いの電話をもらったが、一行も書いていなかった。正直にそう言ったら、「もうけっこうです!」と先方ブチギレで、話が流れた。 えっ? だって、「〆切は設けません」って言ったじゃん。ライターは〆切をたくさん抱えているのだから、〆切のない仕事はどんどん後回しになるに決まって

ライターにオススメの「文章読本」5選

以下に選ぶ5冊は、あくまでも「ライターにオススメの文章読本」である。 谷崎・三島を筆頭とした、文豪たちによる定番の『文章読本』は、小説などの文学作品を書くためのものだ。ここに選んだものはそうではなく、ライターが書く記事や実用文に役立つものなのだ。 1.松林薫『迷わず書ける記者式文章術――プロが実践する4つのパターン』 元『日本経済新聞』記者の著者が、記者時代の経験をふまえて書いた文章読本だ。 「記者式」とあるものの、ここに説かれている文章術は、ライターから一般人まですべ

ライター必読本⑤本橋信宏『心を開かせる技術』

著者の本橋信宏氏は、風俗ルポからコワモテ人士(ヤクザ・闇金のドン・右翼・過激派など)への直撃取材まで、硬軟問わず精力的にインタビューを続けてきたベテラン・ライター。話の聞きにくい相手の心を開く達人である。 本書は、著者が豊富なインタビュー経験から編み出した、語り手の「心を開かせる技術」を開陳したものだ。 随所にちりばめられた、インタビューの舞台裏エピソードが抜群に面白い。また、インタビュー術の極意を明かしたハウツー本としてもすこぶる有益である。 私が「なるほど」と思った

ライターに必要な法律知識を身につける

「転ばぬ先の杖」として 自戒も込めて言うのだが、ライターには自分の仕事に関わる法律について無知な人が少なくない。必要最低限の法律知識すら持たないまま仕事を続けてしまいがちなのだ。 そして、原稿料不払いや著作権がらみのトラブルなどに巻き込まれたとき、初めて法律の大切さに気づき、あわてて勉強したりする。 司法試験を受けるわけではないから本格的に勉強する必要はないにしろ、一般向けの平明な法律本を買って、関係項目を熟読しておいたほうがいい。「転ばぬ先の杖」である。法律は、ライター

ライター必読本④永江朗『インタビュー術!』

取材術に的を絞ったライター入門もいまでは少なくないが、私のイチオシは永江朗の『インタビュー術!』(講談社現代新書)である。 ベテランにして売れっ子のライターが、豊富な経験をふまえてインタビューのノウハウを伝授してくれる1冊だ。 この本の美点の第一は、ヘンな精神論を振りかざすいやらしさがなく、徹底して実用的であるところ。 とにかくアドバイスが細かい。 たとえば、取材の際に使う筆記用具について、“ペンよりもシャープペンシルがよい”と永江は言う。なぜなら、小売店を取材するとき

ライタースクールに通うべきか?

ピンキリだし、「人による」としか…… 「ライタースクールに通うべきか否か?」は、ツイッターのライタークラスタでしばしば炎上案件になるテーマだ。 私自身、「必要ない」との意見をツイートで表明したところ、フォロワー(だった人)からブロックされたことがある。ライタースクールでスタッフとして働いている人であった。気分を害してしまい、悪いことをした。 ライター志望者から「ライタースクールには通ったほうがいいでしょうか?」と聞かれたこともあるが、これは答えにくい質問だ。「人によるし

「他人の目」こそが文章を磨く

“写経”は必要か? 文章力を磨くための王道は、「大量に読み、大量に書く」ことしかないと書いた。では、何をどう書くことが文章トレーニングにふさわしいだろう? いちばんよいのは、いうまでもなく実地トレーニングだ。すなわち、ギャラの発生する原稿をガンガン書くことである。 スポーツや武道でも、100回の練習より1回の実戦のほうが、はるかに得るものが大きい。同様に、ライターにとってはギャラの発生する仕事こそが「実戦」であり、これに勝る文章トレーニングはないのだ。 まだプロのライタ

ライターが遭遇しやすいトラブル

一度はぶつかる(?)不払いトラブル フリーライターの仕事には、正式に契約書を取り交わすことなく、口約束のみで仕事が進行していくものが多い。そのためもあって、原稿料の不払いや、最初に提示された金額と振り込まれた額が違うといったトラブルが起こりやすい。 私自身、これまで不払いトラブルには3回遭遇したことがある。 そのうちの1回は、不払いの相手と仕事以外にいろいろなしがらみがあって、不本意ながら泣き寝入りした。 残りの2度は、すったもんだの末、回収に成功した。 1つは、ある編

インタビュー記事は料理に似ている

素材がよければ手を加えなくてよい ライターになって以来、私はどれくらいの人数をインタビューしてきたのだろう? いちいちカウントしているわけではないが、少なく見積もっても週に1人以上、年平均5、60人はインタビューしているから、過去34年間でトータル2000人くらいへのインタビュー経験があることになるか。 その経験を踏まえて私が思うのは、「インタビュー記事は料理に似ている」ということである。 インタビューそのものは原稿の素材集めであり、料理人でいえば朝の市場に材料を仕入れ

「手抜きの誘惑」に負けないこと

手抜きはいくらでもできるが…… 駆け出し時代に自分が書いた原稿を読み直すと、そのヘタさかげんに驚く。と同時に、わずかずつでも自分の技量が進歩していることを確認して、ホッとする。   書き続ければ、テクニックはおのずと上がっていく。10年書き続ければ10年分うまくなる。それは確かなことだ。 ただ、そこには一つの陥穽がある。それは、テクニックの向上が悪い方向に表れてしまうライターも多いということ。悪達者になり、手抜きばかりがうまくなってしまうのである。 ライターというのは、手

ライター必読本①野村進『調べる技術・書く技術』

「ライターになるならこれは読んでおかないと……」という本を挙げていくことにする。 取材・執筆の基本を知るために 一冊目は野村進著『調べる技術・書く技術』(講談社現代新書)一択。 手練れのノンフィクション・ライターが、長い文筆生活で培ってきた取材・執筆作法を開陳した一冊である。 仕事柄、この手の本はかなりの数を読んできたが、本書はこれまで読んだ類書のベスト5には入る名著であった。立花隆の『「知」のソフトウェア』と並んで、「ノンフィクション作家の知的生産術」のスタンダードに

インタビューの極意は「たいこもち」にあり?

相手を怒らせたら取材は失敗 国際政治ジャーナリストの落合信彦さん(いまなら「落合陽一のお父さん」と言ったほうが通りがいいか)は、初期作品『男たちのバラード』(集英社文庫)の巻末インタビューで、「インタビューのコツは相手を怒らせることだ」と語っている。わざと怒らせることによって隠されたホンネを引き出すのだ、と……。 だが、ライター諸氏はこんな言葉を真に受けてはいけない。   相手を怒らせることでホンネを引き出すなどという手法が通用するのは、反体制派ジャーナリストが国家権力の

ライターにとっての「三拍子」とは?

ライターに要求される「3大資質」 野球の世界で「三拍子揃った選手」という場合、その「三拍子」の中身は、いうまでもなく攻・守・走――打撃力・守備力・走塁力である。 では、フリーライターにとっての「三拍子」とはなんだろうか? 私が思うに、それは文章力・取材力・幅広い教養の3つである。これらがライターに要求される「3大資質」であり、3つをバランスよく兼ね備えていればいるほど、有能なライターといえるだろう。   3つのうち、「文章力」は字義どおりの意味だが、「取材力」は情報収集能