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『極私的ライター入門』

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ライター歴36年の私が約20年前に自分のサイト(すでに消去)に載せていた「ライター入門」を、少しずつ再録していきます。 時代の変化で内容があまりに古くなっている部分は、適宜アップ…
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2022年6月の記事一覧

仕事獲得は営業より「紹介」が吉

「紹介の輪」で仕事がつながってきた こちら(↓)の記事を興味深く拝見した。 この中で、筆者のライター・宿木雪樹(@yuki_yadorigi)さんが「振り返れば私はほとんど営業をしたことがありません」と書かれているが、私もそうだ。 これまでのキャリアを振り返ると、9割以上は誰かの紹介から仕事が始まっている。営業経験は皆無に等しい。 もちろん、それがスタンダードであるわけではない。出版社等にガンガン営業をかけて仕事を獲得しているライターも多いだろう。私はそうではなかったの

ライタースクールに通うべきか?

ピンキリだし、「人による」としか…… 「ライタースクールに通うべきか否か?」は、ツイッターのライタークラスタでしばしば炎上案件になるテーマだ。 私自身、「必要ない」との意見をツイートで表明したところ、フォロワー(だった人)からブロックされたことがある。ライタースクールでスタッフとして働いている人であった。気分を害してしまい、悪いことをした。 ライター志望者から「ライタースクールには通ったほうがいいでしょうか?」と聞かれたこともあるが、これは答えにくい質問だ。「人によるし

ライター必読本③岸本葉子『エッセイの書き方』

岸本葉子『エッセイの書き方――読んでもらえる文章のコツ』は、当代きっての人気エッセイストによる、エッセイの書き方入門だ。2010年に刊行された『エッセイ脳――800字から始まる文章読本』を改題した文庫化である。 (単行本時のタイトルのほうがよい。『エッセイの書き方』ではヒネリがなさすぎだ) 京都造形芸術大学通信教育部での講座をベースにしたものだそうで、話し言葉で書かれており、すこぶるわかりやすい。 エッセイの書き方入門は、本書がベストだと思う。一昔前なら木村治美の『エッ

「他人の目」こそが文章を磨く

“写経”は必要か? 文章力を磨くための王道は、「大量に読み、大量に書く」ことしかないと書いた。では、何をどう書くことが文章トレーニングにふさわしいだろう? いちばんよいのは、いうまでもなく実地トレーニングだ。すなわち、ギャラの発生する原稿をガンガン書くことである。 スポーツや武道でも、100回の練習より1回の実戦のほうが、はるかに得るものが大きい。同様に、ライターにとってはギャラの発生する仕事こそが「実戦」であり、これに勝る文章トレーニングはないのだ。 まだプロのライタ

たくさん読み、たくさん書くことの大切さ

文章修行の「王道」とは? 文章力をつけるためには、大量の本を読んで1つでも多くの名文に触れ、自らも大量の文章を書く以外にない。これだけが文章修行の王道であり、ほかに道はない。 もっとも、ここで終わってしまっては、「やせるためには、運動量を増やすか食べる量を減らすしかない」としか書いていないダイエット本のようで、芸がない。つけたりのようなことを少し書いてみよう。 たくさんの本を読むことがなぜ大切かといえば、文章のよし悪しを判断する力はそのことでしか磨かれないからである。よ

ライターが遭遇しやすいトラブル

一度はぶつかる(?)不払いトラブル フリーライターの仕事には、正式に契約書を取り交わすことなく、口約束のみで仕事が進行していくものが多い。そのためもあって、原稿料の不払いや、最初に提示された金額と振り込まれた額が違うといったトラブルが起こりやすい。 私自身、これまで不払いトラブルには3回遭遇したことがある。 そのうちの1回は、不払いの相手と仕事以外にいろいろなしがらみがあって、不本意ながら泣き寝入りした。 残りの2度は、すったもんだの末、回収に成功した。 1つは、ある編

インタビュー記事は料理に似ている

素材がよければ手を加えなくてよい ライターになって以来、私はどれくらいの人数をインタビューしてきたのだろう? いちいちカウントしているわけではないが、少なく見積もっても週に1人以上、年平均5、60人はインタビューしているから、過去34年間でトータル2000人くらいへのインタビュー経験があることになるか。 その経験を踏まえて私が思うのは、「インタビュー記事は料理に似ている」ということである。 インタビューそのものは原稿の素材集めであり、料理人でいえば朝の市場に材料を仕入れ

批判に身をさらす覚悟はあるか?

「万人を納得させる意見」はない 私の知人が、ある著名な評論家に批判の手紙を書いた。 「あなたの『○○○○』という著作を読んだが、○○についてのこの意見は、ちょっとおかしいのではないか」云々。ていねいな言葉をつかった真摯な批判であったという。   数日後、その評論家から知人に手紙が届いた。 「へえ、忙しいのにちゃんと返事をくれたのか。律儀な人だな」と思いつつ封を開けると、中からハラハラと紙吹雪が……。 よく見ると、紙吹雪の正体は知人が出した手紙だった。その評論家は返事を書く

「手抜きの誘惑」に負けないこと

手抜きはいくらでもできるが…… 駆け出し時代に自分が書いた原稿を読み直すと、そのヘタさかげんに驚く。と同時に、わずかずつでも自分の技量が進歩していることを確認して、ホッとする。   書き続ければ、テクニックはおのずと上がっていく。10年書き続ければ10年分うまくなる。それは確かなことだ。 ただ、そこには一つの陥穽がある。それは、テクニックの向上が悪い方向に表れてしまうライターも多いということ。悪達者になり、手抜きばかりがうまくなってしまうのである。 ライターというのは、手

ライター必読本②梯久美子『声を届ける――10人の表現者』

梯久美子は、大宅壮一ノンフィクション賞を受賞した『散るぞ悲しき』で単著デビューを果たす前から、『AERA』の看板連載「現代の肖像」の執筆者の1人だった。 私が彼女の名前を記憶したのも、「現代の肖像」で脚本家・中園ミホを取り上げた回があまりに素晴らしかったからである。 『声を届ける――10人の表現者』(求龍堂)は、これまでに梯が「現代の肖像」で書いてきた10本の人物ルポを集めた一冊だ。常連執筆者という印象があったが、意外にも、彼女が書いた「現代の肖像」はこの10本がすべてなの

ライター必読本①野村進『調べる技術・書く技術』

「ライターになるならこれは読んでおかないと……」という本を挙げていくことにする。 取材・執筆の基本を知るために 一冊目は野村進著『調べる技術・書く技術』(講談社現代新書)一択。 手練れのノンフィクション・ライターが、長い文筆生活で培ってきた取材・執筆作法を開陳した一冊である。 仕事柄、この手の本はかなりの数を読んできたが、本書はこれまで読んだ類書のベスト5には入る名著であった。立花隆の『「知」のソフトウェア』と並んで、「ノンフィクション作家の知的生産術」のスタンダードに

インタビューの極意は「たいこもち」にあり?

相手を怒らせたら取材は失敗 国際政治ジャーナリストの落合信彦さん(いまなら「落合陽一のお父さん」と言ったほうが通りがいいか)は、初期作品『男たちのバラード』(集英社文庫)の巻末インタビューで、「インタビューのコツは相手を怒らせることだ」と語っている。わざと怒らせることによって隠されたホンネを引き出すのだ、と……。 だが、ライター諸氏はこんな言葉を真に受けてはいけない。   相手を怒らせることでホンネを引き出すなどという手法が通用するのは、反体制派ジャーナリストが国家権力の

ライターにとっての「三拍子」とは?

ライターに要求される「3大資質」 野球の世界で「三拍子揃った選手」という場合、その「三拍子」の中身は、いうまでもなく攻・守・走――打撃力・守備力・走塁力である。 では、フリーライターにとっての「三拍子」とはなんだろうか? 私が思うに、それは文章力・取材力・幅広い教養の3つである。これらがライターに要求される「3大資質」であり、3つをバランスよく兼ね備えていればいるほど、有能なライターといえるだろう。   3つのうち、「文章力」は字義どおりの意味だが、「取材力」は情報収集能

ライターは「文体を持たない書き手」

「名文なんて事故みたいなもの」 駆け出しのころ、とある年長の編集者から言われた忘れられない言葉がある。   「ライターは名文を書こうなんて思わなくてもいいんだよ。名文なんて事故みたいなものだからさ。きちんとした普通の文章を書いてくれれば、それでいいんだ」 いま振り返っても、含蓄あふるる言葉である。 おそらく当時の私は、ライターとしての仕事をするにあたっても「名文」を書こうと焦っていて、その力みが文章にもにじみ出ていたのだろう。そこで、「もう少し力を抜いたほうがいいぞ」とい