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彼女とあの娘と女友達(あいつ)と俺とシリーズ

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男女の奇妙で複雑な性愛と、料理や食事を絡めた連作短編です。
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#小説

言葉が通じない怪獣の送りつける画像はすべて不愉快

 駅から高架に沿ってしばらく歩くと、いきなり視界がひらける。とはいえ、こんどは幅の狭い、掘割のような運河が行く手を遮っていた。そのまま川沿いに歩く、ろくに日も差さない高架とビルの間に比べれば、圧迫感がないだけでもかなりましだったが、潮と湿り気をたっぷりはらんで、おまけにすえたカビのような臭いまでふくんだ生暖かい空気が、ねちねちと体にまとわりつく。  相変わらず嫌な湿気だとぼやきたくなるが、口に出すまもなく橋がみえてきた。  渡ったすぐ先が目的地だが、たもとの掲示板が妙ににぎや

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幻冬舎ゴールドオンライン話題の本ドットコムにて、拙作「彼女とあの娘と女友達(あいつ)と俺と: 海辺の彼女編」の連載が始まりました。

幻冬舎ゴールドオンライン話題の本ドットコムの公募に応じたところ、めでたく本文審査も通過いたしまして、本日より掲載が始まりました。 毎週火曜日の更新で、全10話の予定です。 楽しんでいただければ嬉しく思います。 よろしくお願いいたします。 ネットで知り合った彼女が住む海辺の町へ出かけた俺は、下心をみなぎらせつつ駅前のロータリーに立つ。しかし、そこに彼女の姿はなかった……。 第1話 海辺の彼女とサザエのつぼ焼き https://wadainohon.com/shosetsu

無礼で非倫理的な路上写真の明けない夜明け Interminable Amanecer de la fotografía callejera sincera y no ética または、はかなくもしたたかな蒼氓と小賢しく横暴な大衆との間で

本作は単体でも十分にお楽しみいただけますが、note掲載の短編「時に俺は叫ぶよう感じる Falta de ocasión sexual」の続編です。 前編も合わせて読んでいただけると、より深く楽しんでいただけると思います。 1:夢の街 Ciudad de sueño.  駅向こうは再開発が一段落し、いちおう入居も始まっていた。引越し業者のトラックを避けて階段を登ると、マンションポエムのドリームランドに飲み込まれる。俺の全存在を拒絶するかのような公開空地の入り口で、芝居がか

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廃止されました

 ぶ厚い雲が低くたちこめ、きのうまでの暑さはいったいなんだったのかと思うほど、冷たく湿気を帯びた重い風が窓をきしませる。出勤途中はワイシャツに作業服屋の格安防水ヤッケでもちょうどよいくらいだったから、寒暖差はどれほどか?  退勤時間が迫ってくると、窓辺にスーツ姿の中年男たちが集まり、心配そうに空模様をながめたり、おぼつかないてつきでスマホをタッチし始める。彼らのようすを横目にしながら、自分も天気予報を確認したが、つい舌打ちしまうところだった。  画面には、夕方から夜にかけて

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言葉が通じない怪獣を撮影してもすべて不同意

 雨は降らなかったが、きょうも朝から重たい雲が低く立ち込め、梅雨明けはまだ先のようだった。  ゆっくりと、だが確かに明るさが失われゆく街頭の片隅で、それでも彼女のスマホはギラギラと、粘るように輝いていた。やたらに小さく体に張り付いた怪獣コラボカットソーに、大きなお尻をぴっちり包んだリブ編みのショートパンツは、やけに肌を露出してる割に、セクシーと言うよりは危なっかしさを漂わせてる。  その危うさを活かすよう腰だめノーファインダで構図を合わせながら、すれ違いざまにシャッタを切る。

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見切り品のお菓子と甘ったるいミルクコーヒーとデーツの午後

 窓の外、ひらひらと、なにかが飛んでいる。  蝶かな?  手を伸ばそうかと思いながら、頭の中でふるい映画のラストシーンが上映される。  ふわりと空気がゆらぎ、化学薬品が作り出した柔軟剤の臭気が顔にまとわりついた。  すぐぞばで人間の動く気配を感じ、モニタから目を離す。  誰かな?  ほとんど反射的に身をすくめてしまう。  べつにサボってはいなかったし、居眠りもしていない。いちおう仕事をしていたが、それでもなにか後ろめたい気持ちは消えない。なにしろ、育休代理のそのまた代打で、わ

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裏垢娘のシミュラークルと残念なチキンのクランベリーソースがけ

 都心から離れた私鉄駅の、故障したデジタルサイネージの薄暗い液晶には『調整中』の張り紙と、いらだちや不安や期待、そして欲望のどれひとつとしてごまかせない、中年男のあほうげた姿が映し出されている。複雑に反射するミラーシェードでまなざしに現れる単純な心理を隠しても、ソーシャルの『おさそい』につられてホイホイ出てくる軽くて頭の悪い人間に変わりはなかった。  やれやれと苦い笑いを自分にあびせつつ、そろそろスマホを取り出そうとストラップに指をかけたとき、液晶に反射される人影が近づいてき

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ジャンクなアートは身も心もむしばむけど、ジャンクな味わいは心の栄養

 赤と緑と金と銀のオーナメントがきらめくツリーの下では、にこやかに笑みを振りまくサンタとトナカイを乗せた模型の列車がのんびり走る。展示台の片隅には折り畳み傘より小さな三脚に据え付けられた、これまた小さなカメラと、撮影画像を表示するやたら大きなモニタが、きゅうくつそうに押し込められていた。年末商戦の目玉は各社とも動画機能を売りにした小型カメラだったから、売り場でもいちばんいいところでにぎにぎしく展示されていたのだが、カウンターの奥に「写真機商」の証書を掲げているような写真カメラ

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言葉が通じない怪獣とのやり取りはすべて不本意

 安売りとはいえ、牛すじのまとめ買いは失敗だったな……。  階段にぶつけないよう、指先に食い込む買い物袋をそぅっと持ち替え、踊り場から勢いをつけひと呼吸で、とりあえず部屋の前まで上がる。疲れて重いものをぶら下げているときには、決まって鍵束を取り落としていたんだよな。そんな記憶が指をますますこわばらせる。ふっとためた息ひとつ。買い物袋をコンクリの床へおろし、慎重にポケットを探って鍵をつかむ。指先に意識を集中させながら、大陸間弾道弾の発射装置を解除するような慎重さで、そっと、しか

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言葉が通じない怪獣との性交はすべて不同意

 ターミナル駅の雑踏をぬるぬるとかいくぐり、こちらへ向かう小柄な人影が視界に入ると、不意にポートレート撮影の記憶がよみがえった。ファインダをつらぬいて俺の網膜を焼くかと思うほどに印象的だったまなざし、そしてシャッタを切る指先をからめ取るかのような表情の力強さが、やたら鮮明に網膜を駆け巡る。ところが、現実の写真は力強さよりも、むしろおさなさや無邪気さが前に出た、よくいえばあどけなくかわいらしい、悪く言えば未成熟で平凡な人物写真でしかなかった。  そんな、ちょっと苦い記憶だ。 「

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1979年の渡し船 Ferry del año 1979

 年末も押し詰まって金融機関の営業日を確認すると、せわしない気分を超えた諦めが漂い始めた。あれほど騒がしかったクリスマスさえ、すっかり正月が上書きしている。さっき銀行の窓口が閉まったばかりだと思っていたのに、外をみるとすっかり暗くなっていた。暖房の設定を少し強めながら、夕食の算段を組み立てる。  ソーシャルメディアにさみしい心を抱えた娘たちが現れるまで、まだしばらく余裕がある。いや、しばらくなんてもんじゃないな。料理して食事して風呂に入って、それからでも少し早いくらいか?  

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圧力鍋とシスターフッド:La Olla de presión y la sororidad

 彼女が部屋へ入ったとき、俺は豆を茹でていた。  しゅぅしゅぅと湯気を吹きながら楽しげにからから小躍りしている鍋のオモリへ、実質無料をうたう携帯キャリアの呼び込みに投げかけるような、ショットグラスいっぱいほどの冷え切った不審へぬるいいらだち数滴をふくませた眼差しを送りつつ、彼女は台所から奥の寝室へ進む。なにか気の利いた言葉でもと思わなくはなかったが、とっさにそんなセリフが出てくるような俺ではなかったし、ジャケットを脱ぐ彼女の背中にも『そういうのはいいから』と書いてあった。  

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彼女とあの娘と女友達(あいつ)と俺とシリーズ:海辺の彼女編を電書出版します

表紙デザイン:館山緑 彼女とあの娘と女友達(あいつ)と俺とシリーズ「海辺の彼女編」を電書化します。 作品概要 薄ぼんやりした日々をダラダラと過ごす『俺』は、ひとときの楽しみを共にする相手を探しては生活している中年男。そんな『俺』の出逢った『海辺の彼女』は、犬を飼う美しい人妻。彼女と重ねるエロティックな逢瀬、そして食事や小旅行で共有する居心地のいい時間を切り取った短編集。 彼女とあの娘と女友達と俺と: 海辺の彼女編 (インゲン書房) 松代守弘 彼女とあの娘と女友達

彼女とあの娘と女友達(あいつ)と俺とシリーズ:海辺の彼女編

薄ぼんやりした日々をダラダラと過ごす『俺』は、ひとときの楽しみを共にする相手を探しては生活している中年男。そんな『俺』の出逢った『海辺の彼女』は、犬を飼う美しい人妻。彼女と重ねるエロティックな逢瀬、そして食事や小旅行で共有する居心地のいい時間を切り取った短編集。 登場人物俺 40代の中年男 海辺の彼女 犬を飼う人妻 以下、収録作品の解説。 海辺の彼女とサザエのつぼ焼き ネットで知り合った彼女が住む海辺の町へ出かけた俺は、下心をみなぎらせつつ駅前のロータリーに立つ。しか