マガジンのカバー画像

彼女とあの娘と女友達(あいつ)と俺とシリーズ

24
男女の奇妙で複雑な性愛と、料理や食事を絡めた連作短編です。
運営しているクリエイター

記事一覧

言葉が通じない怪獣との性交は全て不同意

 ターミナル駅の雑踏をぬるぬるとかいくぐり、こちらへ向かう小柄な人影が視界に入ると、不意にポートレート撮影の記憶がよみがえった。ファインダをつらぬいて俺の網膜を焼くかと思うほどに印象的だったまなざし、そしてシャッタを切る指先をからめ取るかのような表情の力強さが、やたら鮮明に網膜を駆け巡る。ところが、現実の写真は力強さよりも、むしろおさなさや無邪気さが前に出た、よくいえばあどけなくかわいらしい、悪く言えば未成熟で平凡な人物写真でしかなかった。  そんな、ちょっと苦い記憶だ。 「

スキ
6
有料
100

1979年の渡し船 Ferry del año 1979

 年末も押し詰まって金融機関の営業日を確認すると、せわしない気分を超えた諦めが漂い始めた。あれほど騒がしかったクリスマスさえ、すっかり正月が上書きしている。さっき銀行の窓口が閉まったばかりだと思っていたのに、外をみるとすっかり暗くなっていた。暖房の設定を少し強めながら、夕食の算段を組み立てる。  ソーシャルメディアにさみしい心を抱えた娘たちが現れるまで、まだしばらく余裕がある。いや、しばらくなんてもんじゃないな。料理して食事して風呂に入って、それからでも少し早いくらいか?  

スキ
5
有料
100

圧力鍋とシスターフッド:La Olla de presión y la sororidad

 彼女が部屋へ入ったとき、俺は豆を茹でていた。  しゅぅしゅぅと湯気を吹きながら楽しげにからから小躍りしている鍋のオモリへ、実質無料をうたう携帯キャリアの呼び込みに投げかけるような、ショットグラスいっぱいほどの冷え切った不審へぬるいいらだち数滴をふくませた眼差しを送りつつ、彼女は台所から奥の寝室へ進む。なにか気の利いた言葉でもと思わなくはなかったが、とっさにそんなセリフが出てくるような俺ではなかったし、ジャケットを脱ぐ彼女の背中にも『そういうのはいいから』と書いてあった。  

スキ
11
有料
100

彼女とあの娘と女友達(あいつ)と俺とシリーズ:海辺の彼女編を電書出版します

表紙デザイン:館山緑 彼女とあの娘と女友達(あいつ)と俺とシリーズ「海辺の彼女編」を電書化します。 作品概要 薄ぼんやりした日々をダラダラと過ごす『俺』は、ひとときの楽しみを共にする相手を探しては生活している中年男。そんな『俺』の出逢った『海辺の彼女』は、犬を飼う美しい人妻。彼女と重ねるエロティックな逢瀬、そして食事や小旅行で共有する居心地のいい時間を切り取った短編集。 彼女とあの娘と女友達と俺と: 海辺の彼女編 (インゲン書房) 松代守弘 彼女とあの娘と女友達

スキ
6

彼女とあの娘と女友達(あいつ)と俺とシリーズ:海辺の彼女編

薄ぼんやりした日々をダラダラと過ごす『俺』は、ひとときの楽しみを共にする相手を探しては生活している中年男。そんな『俺』の出逢った『海辺の彼女』は、犬を飼う美しい人妻。彼女と重ねるエロティックな逢瀬、そして食事や小旅行で共有する居心地のいい時間を切り取った短編集。 登場人物俺 40代の中年男 海辺の彼女 犬を飼う人妻 以下、収録作品の解説。 海辺の彼女とサザエのつぼ焼き ネットで知り合った彼女が住む海辺の町へ出かけた俺は、下心をみなぎらせつつ駅前のロータリーに立つ。しか

スキ
4

中華の心 Corazón chino

 外食を妙に毛嫌いする、不思議な娘だ。  初めて会った夜にしてから、そうだった。  駅で落ち合ってから喫茶店での雑談という体裁の、まぁ最終確認まではいつものように『手順を踏んで』いったが、そこから「晩御飯でも」となったところで「どうせならおじさんの家で食べましょうよ。コンビニでなにか買っていってもいいし」と、なれた口調の飾らない笑顔で娘から申し出たんだっけな。いちおう、喫茶店でのやり取りからそういう雰囲気を漂わせていたし、決して意外ではなかった。そもそも出会った直後の印象か

スキ
9
有料
100

偽りの大地:Tierra de falso

 夕暮れ時のサーバルームは空調の風切り音がうるさいばかりで、妙に人の気配がなかった。ところが、ペットロスの女に言われるがまま架列(がれつ)の間をとぼとぼ歩いていると、ラックの彼方には作業者の姿がちらちら見える。 「ここで仕事する人もわりといるんだね」  ちょっと大げさなほどすばやく振り向いたペットロスの女は、キツめに『黙って』と口に手をやる仕草を見せ、また静かに歩き始めた。やがて目的の架列を見つけると、側面の制御盤でラックの閉鎖を解除し、メッシュ扉を開く。放熱ファンの音がわっ

スキ
8
有料
100

Unsimulated sex アンシミュレーテッド・セックス

第1話:男の人が一番バカになる瞬間、だからじゃないかな? ゴムが受け止めた白いタネは思ったよりも濃く、粘り気があって量も多かった。腰から背中に張り付くだるさにあらがって上体を起こし、どっぷり吐き出された精をティッシュにくるむと、慎重にゴミ箱へ入れる。  東の空には、うっすらと紫色の光が差していた。  ショートカットのちょっと猫っぽい娘は窓際に立ち、ほっそりと伸びやかなシルエットをさらしている。着痩せするというか、うまく隠しているのだろう。意外なほど大きく、美しいヒップがくっき

スキ
12
有料
100

お久しぶりのポニーテールとチルド餃子

 梅雨時にしても肌寒すぎる薄暗い昼下がり、液晶がほんのり光る。だるい気持ちを押し殺してスマホをつかんだ時、早くも画面の輝きは失なわれていた。  めんどくさい。  端末を投げ捨てたい衝動を封じ込め、重たいだるけがみっしり詰まった指先で認証を解除する。通知が表示され、機械的に情報を目視して、ようやく頭の処理が始まる。  発信者は……。  ほぅ、お久しぶりさんだな。  メッセージを表示するとともに脳の処理速度を上げ、内容と送信時間を確認しつつ、発信者のアカウント使い分け状況を思い出

スキ
5
有料
100

銀紙で包まれた缶詰肉サンドの豆サラダ添え

 カメラが重い……。  よせばいいのにフルサイズの最上位機種を持ち出して、おまけに慣れないコスイベの囲みなんかへ突入したものだから、やさぐれたオタクから爪弾きにされた。お目当てのレイヤーさんも俺なんかに目もくれず、馴染みらしいカメコへわざわざ声かけて微笑む。諦めて引き下がろうにも、押し寄せるヲタに揉まれ身動きできなかった。  指先のしびれたような冷たさと、手のひらのこわばりが限界に達する。  あぁっ!  カメラが落ちる……。  でも、こんなバカ高いカメラ持ってたっけ?  俺っ

スキ
7
有料
100

寒々しい朝を温めることも出来ないチーズだけのホットサンド

 そぼ降る雨の中、黙々と歩いていた。既に立春から半月以上は経っているのだが、みぞれ混じりの雨が靴下まで染みて、足を踏み出すことさえおっくうになりつつある。そういえば、むしろ立春ごろのほうが暖かかった。  とはいえ、急がねばなるまい。トークライブの会場には腐れ縁の女と猫っぽい娘が待っているはずだ。いちおう、イベント開始時刻には間に合わないので、あとから合流という手はずにしていたが、ここまで遅くなったのは想定外もいいところ。  そろそろイベント終了の頃合いだが、この期に及んでは時

スキ
6
有料
100

あの日、食べ損ねたプレミアムなグラノーラ

 立春は過ぎたといっても驚くほど暖かな夜、ネットTVの窓をたたんで通話中の女を気遣う。そうすると、こんどは薄壁一枚むこうの台所から切れ切れに聞こえる声が気になり、複数ソーシャルメディアを一括表示するクライアントを前面に出す。わずかの間に未読が山をなしていた。嫌な予感を確かめるようにタイムラインを流すと、在日だのフェイクニュースだのまとめサイトだのといった文字列が目に止まる。どうやら火元の雑居ビルにはコリアンパブと朝鮮系の金融機関が入居していたらしく、既にネットの話題はその方向

スキ
7
有料
100

女性フォトグラファーと品川丼

 部屋に差し込む光がはっきりと濃い黄色みを帯び始めた頃、女性にしてはやや肩幅の広い、がっちりした影が床に伸びていた。ショートパンツから鍛えた太ももをむき出し、ひと昔前のプロが持っていたようなごついカメラを構える女性フォトグラファーが、マットの上で重なった俺と女を見ながら軽くうなずく。  重なる女は自らあてがい、ひと息に腰を下ろした。低くうめき、背中をそらす女の、豊かで重い胸に俺は下から手を伸ばす。いつもなら、それだけで歓びの歌も高らかに腰を力強くひねり、押し付けてくるのだが

スキ
7
有料
100

韓国産キムチラーメンとスパイスドラムのライム抜きキューバ・リブレ

 気がついたのは確か、金曜の午後だった。    少し前の週末、俺はいつものように猫っぽい娘へメッセ飛ばそうとソーシャルアプリを立ち上げたら、知らん間にブロック食ってたというわけ。  いつかはこんな形で切れる関係だろうとの思いが、ずっとどこかで佇んでいたにも関わらず、猫っぽい娘の喪失感は自分でも受け入れられないほど強い。そればかりか、それに動揺している自分を直視すると、自分の不安定さに呆れてまた動揺するという、ほとんどパニックに近い連鎖まで発生している。結局、その週末はなにも手

スキ
4
有料
100