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サブカル大蔵経96マキヒロチ『吉祥寺だけが住みたい街ですか?』①〜⑥(講談社)

 本書は⑴不動産会社の重田姉妹⑵訳ありの客⑶東京の街⑷部屋の間取り⑸重田姉妹のリノベする自宅…と、見どころが多く、お得感あふれる作品ですが、重田姉妹や客のリアルで叙情的なセリフが印象深く、本作を単なる情報マンガではない作品に昇華させています。

⑴重田姉妹は、訪れた客が困っている内容を見抜き、求められている街と部屋に導き、〈あなたが生きてきた世界だけが人生じゃないよ〉と諭してくれます。これは完全に利他円満、菩薩のお仕事です。だからふくよかな形をしているのかなと思います。聖⭐︎お兄さんと立川でのコラボ希望。

⑵客は、わたしたちです。言い訳をして、人のせいにして、裏切られて、ふらついて…。普通はこのまま地獄なんでしょう。重田姉妹に会わなかったら…。しかし、この作品の凄いところは、重田姉妹といえども万能ではなく、それを姉妹が自覚しているところで、客の中にもともと目覚めていく力があって、その解放を手助けするだけだよ…という感じなんです。

⑶私は東京に住んだことがないので、余計にミーハーにいろいろな街を訪ね歩くのが好きで、この20年間でいろいろ回りました。ただ、住むという視点はなかったため、観光とは違う〈住む東京〉の視点はありませんでした。だから十条なら、観光で歩けば斎藤酒場や商店街、演芸場には向かいますが、本作で描かれる素敵な公園や図書館は目に入りませんでした。

第6巻までに登場する〈街〉は、雑司が谷、五反田、錦糸町、駒沢大学、中野、秋葉原、蔵前、経堂、神楽坂、恵比寿、十条、福生、茗荷谷、大森、池袋、二子玉川、北千住、野方、水道橋、鎌倉、高島平、松陰神社前、蒲田、千駄ヶ谷、砂町…です。

 今や東京にしか個性的な〈街〉はありません。なぜなら地方の街が東京しか見てこなかったからです。個性は消えました。地方の街は、車でイオンかコンビニに買い物に行くから、鉄道は廃線、商店街も風前の灯。雑司が谷の市電も、高島平の団地商店街も、今や貴重な風景です。現時点ではもう、〈地方〉は東京にしかないのです。

 東京は〈地方〉の集合体なのです。東京のメインである皇居は空虚であるが故に、サブである〈街〉によって東京は同心円的に覆われてきました。だから、貴重な地方を味わいに、さらなる外側にいる私みたいなのが地方から東京に来るのです。また、東京在住の人も、自分の街以外は知らないから、都内の別な街で発見があり、本書のような作品が成立するのです。東京こそがローカルなのです。しかし再開発を繰り返し、サブの街やローカルを消してしまうと、ネオ・トーキョー的な破滅に繋がっていくのかもしれません。

「でも」は、全てをなかったことにする。

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本を買って読みます。