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サブカル大蔵経147高木敏雄『日本伝説集』(宝文館出版)

 伝説は時代遅れの迷信なのでしょうか。実は地域観光の源泉であったり、土地の危機管理だったり、境界をまたぐ伝達だったりと、当時の最先端の情報であり文化だったといえるのでは?

 同時に人の噂だったり、差別だったり、事件の隠蔽だったりと、闇の温床という本質も根っこにある感じがします。サブカルチャー的な好奇心も源泉にありそう。

 これだけネットから簡単に情報を得るようになっても、実はその構造は変わっていないような、逆に劣化してきてるような。そのくらい本書に採取された短文の集積は、古来の豊かさと畏れを感じさせます。

 現在はちくま学芸文庫に入っています。

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青森市の東に東獄と言って今では首のない山がある。また弘前市の西には岩木山があって、この2つの山の中間に八甲田山が控えている。ところが、どういうものか、この八甲田山と東獄とは、昔から仲が良くない。ある時は八甲田山がふとしたことから怒り心頭に発したと、すっぽり東獄の首をはねた。血潮だらけに飛んだ首は岩木山の肩のあたりに落ちて、そのまま岩木山にくっついてしまった。東獄と岩木山の間の土地が肥えているのはこの時したたった血潮のおかげであると言われている。p.28

 火山噴火の説明。東北の国造り神話。山の擬人化がツボ。遠野物語など東北の「語り」は寒さの「ひきこもり」が産んだのか。

1人の杣がいた。名は八郎である。小魚を食べ喉が渇き自分の体がだんだん長く伸びてついに蛇体と化してしまった。水底に飛び込むと小川が1つの湖となった。それが十和田湖になる。男鹿半島に入り、ここにまた、大きい湖水を作って住んだ。今の八郎潟がそれである。p.114 

 人名が地名の由来。ここも巨人伝説。いや大蛇伝説。竜ではなく、蛇。水の地形にまつわる。

昔、建長寺の近くにいた古狸が住職を食い殺して自分が住職に化けていた。住職はどこの村に行くにも犬がいないかと聞いていた。犬に噛み殺された。p.170

 〈犬〉が犯人を暴く。根無草住職。

京都の知恩院の屋根に傘がさしてあるのは左甚五郎が置き忘れたのだとも言ってあるけど、実は狐の仕業である。大僧正が普請場を見回っていると古狐が現れて位をもらってくれと頼む。何か芸を見せたらもらってやろうと僧正が言った翌日、のきの間に傘が1本刺してあった。大僧正が感心して位をもらってやって稲荷神社を立てて祀ることにした。今知恩院の境内にはこの稲荷神社が残っている。p.180

 人間と動物の交流。浄土宗と稲荷神社の合体。

東尋坊が昔平泉寺の悪僧東尋坊が仲間のものに憎まれて酒を飲ませられて岸の上から海の中へ突き落とされたところで、祟りがあると言うので土地のものが奉ることにした。p.198

 ある意味、伝説が生きている土地

川越には、伝説が多い。およねの霊を慰めるためおよねさアん、と言って小石を投げ込む。水の底でかすかにはあアい、と言う子供らしい、かわいい女らしい、いかにも悲しそうな声で返事をするのが聞こえる。よな川。p.201

 埼玉は鰻や川魚の店が多い水の国。

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