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あなたの知らない「揚げもの」の世界

水と油や衣の性質を科学的に理解してカリッと揚げるコツ

冬本番で家にいる時間が多くなっているこの時期!
料理の腕を上げちゃいましょう。
家庭料理でハードルが高いのは「揚げ物」ですね。でも、科学の知識があれば簡単においしく作れます。今回は揚げ物の秘密に迫ってみましょう。

「揚げる」とは、水と油の交換現象

ポテトチップスがカリッとしているのはなぜか、唐揚げがカラっと揚がっているのはどうしてか、考えたことはありますか? 
揚げるとは「水と油の交換」が起こること。
ポテトチップスは「脱水」が起こっています。
 つまり、食べ物に含まれている水が食品表面から蒸発し、水が抜けた部分に油が入り込むという「水と油の交換現象」こそが、揚げるという調理法なのです。
水が蒸発して油がしっかり入り込んだ揚げ物は表面が乾燥して、カリッ、サクッとした食感になります。

揚げ油の中で食品の表面から熱が伝わり、中心温度は比較的緩やかに上昇します。
天ぷらやトンカツなどの衣付きの揚げ物は、衣の中で「蒸されている」といった状況で、揚げ時間が長くなるほど水分が抜けて、油の量が多くなります。脱水のし方は、揚げ油の温度、揚げ時間、油が新しいか古いかで変わります。
天ぷらやフリッターの場合は、その衣の作り方によっても変わるのです。

低温・中温・高温に適した料理
揚げ油は温度によって3つに分けられます。
それぞれ適した料理があります。
●高温(180~200℃)
カキフライ、魚介類の天ぷら、コロッケ、鶏の唐揚げ(2度目)
→火が通るのに時間のかからない食品、薄い食品
●中温(160~180℃)
野菜のかき揚げ、トンカツ、フライ、竜田揚げ、揚げ出し豆腐 
●低温(150~160℃)
春巻き、ドーナツ、フライドポテト、イモや野菜の天ぷら、鶏の唐揚げ(1度目)
→中心に火が通るまでに時間のかかるもの、でんぷんの多いもの、厚みのあるもの

衣の付け方でも温度に違い

衣によっても温度の設定に違いがあります。
 
●薄い衣=唐揚げ(鶏肉にまぶした粉)
油の熱がすぐに肉の表面に伝わるので低温で良い。
温度が高いと中心に熱が伝わる前に表面がこげてしまう。
 ●分厚い衣=チキンカツ(小麦粉、溶き卵、パン粉)
低温ではなかなか内部まで火が通らず、かつ高温にすると水分含有量が低いパン粉の温度がすぐに上昇して揚げ色がつきすぎてしまうため、中温で揚げる。

さて、鶏の唐揚げはなぜ2度揚げ(低めの温度で揚げた後、一度取り出して油の温度を上げて高温になったところに再度入れて揚げる調理法)するのでしょうか。
唐揚げは粉でできた薄い衣なので油の温度が高いと熱が中心に伝わる前に表面が焦げてしまいます。
そのため、まずは低温で揚げて食品の中心部まである程度(鶏肉のコラーゲンの収縮を防ぐために中心温度を65℃程度まで)火を通します。
低温で揚げただけだとベチャっとしているので、カリッとさせるため高温で2度揚げし、表面の水分をしっかり蒸発させるのです。

揚げ油の温度の計り方

温度計付きの鍋もありますが、ない場合、油の温度はどのように判断すればいいでしょうか。熱した油の中に、水で溶いた衣を一滴落とし、それを浮き上がってくる様子を見ればいいのです。
(1)水は油よりも重いため、衣を入れると下に沈みます。
(2)加熱され衣から水分が蒸発するにつれて軽くなり、浮き上がってきます。
この時、温度によって浮き上がり方が下記のように違うため、それを見て温度を判断しているのです。
 
●低温(150~160℃)
衣は一度底に沈んでからゆっくり浮き上がってくる
●中温(170~180℃)
衣は鍋の底に沈む前に浮き上がってくる
●高温(190~200℃)
衣が油の中に落ちた瞬間に水がパッと蒸発する

油はねが起こる原因
 油はねは水と油の沸点の違い(水は100度、油は200度で沸騰)によって起こります。
高温の油の中で水の水蒸気は逃げることができず、熱で膨張することで油の中で爆発。
それが、油はねの原因です。
油はねを防ぐには油を高温にしすぎない、水分をしっかり切ることがポイントです。
また、油はねが怖いからといってドボンと油の中に落とすと逆にはねるので、そっと入れるようにしましょう。
油はねガードできるアイテムに、「オイルスクリーン」があります。メッシュ状の円盤型のスクリーンに柄の付いたタイプが一般的で、鍋の上にかぶせたり、顔の前にシールドのようにかざしたりして使います。
食材の水切りや裏ごしなどにも使える、汎用性に優れた便利なアイテムです。

冷凍コロッケを爆発させないコツ

コロッケの具はマッシュしてあるため空気が入り込み、冷凍で中の水分も凍りコロッケの中に氷の粒ができます。
揚げ油で気泡や氷の粒が熱膨張して体積が増えますが、周りの衣が揚がって固まってくるので中から押し上げるようにコロッケが中央から割れてしまうのです。
そこでコロッケを爆発させない方法ですが、先に電子レンジの解凍モード(200Wで片面30秒ずつ両面)にかけて、揚げ油の温度差を少なくする方法があります。ふにゃっとなる前に止めるのが目安です。
また、少量ずつ分けて入れるのもポイントです。

唐揚げは片栗粉と小麦粉のどっちで作る? 何が違うの?

唐揚げを作るのに片栗粉を使うか小麦粉を使うか、迷ってしまいますね。
片栗粉の多くはジャガイモを素材とし、でんぷんの粉です。
小麦粉にはでんぷんに加えてタンパク質(グルテン)が含まれますが、このグルテンはパンやうどんのコシを出すのに使われる弾力のあるものです。
 揚げ物を作るため下味をつけた肉に粉をまぶすと、調味液から出てくる水分を粉が吸います。
 
片栗粉の場合は水分によってでんぷんが糊化(α化)されて緩い網目構造となり、揚げると水分が抜けてさっくりと軽い柔らかな口当たりのものができます。
竜田揚げのように片栗粉をしっかり多めにつけると「ザクッとした食感」にもなります。
 
小麦粉の場合はタンパク質が水を吸うことでグルテンが形成されて熱で凝固し、頑丈な網目構造を保ったまま固まります。そのため中身はフワッとしているのに、衣は「カリッとした歯応えのある食感」になるのです。

この違い(片栗粉→ザクッ 小麦粉→カリッ)は、揚げてから時間が立ち、冷めた後にも表れます。
片栗粉で揚げたものはでんぷんが水を吸うために比較的早くベタついてきますが、小麦粉の方はタンパク質が水を吸わないため、そこまでベタつかないのです。

フリッターの衣に重曹を入れると

同じ揚げ物でもフリッターの衣は、卵黄、水分、小麦粉に泡立てた卵白や油脂などを入れて、ふわっとさせます。泡立てた卵白中の空気の泡は揚げている間に熱で膨張するので、衣は膨らんでスポンジ状になり、フワフワとした軽い食感になるのです。
この時に重曹やビールを加えると、卵白の空気の泡以外に炭酸ガスの泡が発生するので、衣が一層膨らみます。
 
泡の分だけ隙間の多くなった衣からは水分が抜けて、そこに油が入り込んでサクッと軽い仕上がります。
ビールを入れると、小麦粉の白いフラボノイド色素はビールの酸性で白色に、重曹を入れると、重曹のアルカリ性でより黄色っぽくなるのです。

油をすくいかけて焼く理由 

鶏1匹を丸ごと、また大きな魚を1匹揚げる時に油をかけながら焼く調理法があるのをご存知ですか? 油の入った鍋に入れるのと、何が違うのでしょうか?たっぷりの油に入れると、表面が焦げているのに中身が生という失敗が起こります。表面に油をすくいかけながら焼く方法では、高温の油が流れ落ちた瞬間に温度が下がります。表面温度が下がっても、内部には熱くなった表面から熱が伝わり続けているため、内部の温度が徐々に高くなります。表面と内部の温度差が小さくなることで、生焼けを防ぎ、表面の焼き色の濃さも調節することができるのです。 

カロリーを抑える揚げ方

揚げ物は食べたい…でも、カロリーは気になる。
そんなアスリートやダイエットしている人向けに、揚げものの衣の種類や厚みを工夫することで、カロリー量を抑える方法があります。
 
揚げ物の油を吸収する主な部分は衣。
図のように、衣が薄いほど油の量は少なくてすみます。

春雨を揚げる場合は、春雨が熱で膨らみ、その隙間に油が入り込むので、普通の衣より吸油量は多くなります。フリッターは重曹が入っているため、衣の付着量が変わらなくても、揚げている間に衣が膨らんで油が入り込むため、吸油量が上がると言われています。
 
フライの衣も同様に、衣の厚みを抑えれば、よりカロリーを低くすることが可能です。
特にパン粉は粗い物より細かい方が衣は薄くなるので、油の量も抑えられます。
生パン粉より乾燥パン粉、さらに乾燥パン粉をすり鉢などでより細かくすると、もっと薄くつきます。
またコロッケを揚げる場合、表面積も関係してきます。表面積が小さいほど油が入り込む量が減るので、平たい円盤型より丸みを帯びた俵型の方が、カロリーを抑えて揚げることができるのです。

ポテトチップスを作ろう

油の温度の違い、料理のコツは分かりましたか? これらを元に、ポテトチップスを作ってみましょう。
 
■手作りポテトチップス
<材料>
・ジャガイモ…2玉
<作り方>
(1)ジャガイモはスライサーでスライスする
(2)水の張ったボールに入れ、でんぷんを落とす
(3)キッチンタオルでしっかりと水分を拭きとる
(4)油をいれて160度で揚げる
(5)ジャガイモから気泡(水分)が出なくなり、色づき始めたら180度でカラッと揚げる
(6)熱いうちに塩をふって出来上がり!


お好みで青のりやコンソメなどを加えてください。
ジャガイモは水でさらすことで、でんぷんの糖分が抜けて、焦げにくくなります。

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