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大規模怪異発生日記23

話中の万禮一家は、
メンバーシップ「夢了の皿」会員の万禮様のオリジナル・キャラクターで
設定その他は会員様御本人と話し合っております。
711号室出演者≒メンバーシップ会員様は常時募集中です♡

万禮様の偶さか日記15も併せてお読みいただくと解像度とエモさが跳満です。

主な登場人物


万禮ばんらい久幸ひさゆき、ヒー、始祖:
かど凌司りゅうしのバンパイアにおける直系始祖。
かど凌司りゅうし、りゅーし:
万禮ばんらい久幸ひさゆきのバンパイアにおける直系係累。


左から
ラン:久幸ひさゆきの友人。凌司りゅうしの恩人。
トゥ、師匠:久幸ひさゆきの友人。凌司りゅうしの魔術の師。
泰市たいち:ランとトゥの伴侶猫。

20230517

気違いじみた夏日。
だが、昨日の気鬱が嘘のように爽やかな心持ちだ。
極軽い鼻炎は残っているが久々の心身好調。
寝具カバーを全て洗濯してサンルームに干すと、
買い物に出掛けた。
往路、人生で初めて野良犬に遭遇した。
首輪跡もハーネスも無い、
痩せ細って怒りっぽい
人懐っこさの欠片も見られない、
背は灰色の冬毛玉が処々飛び出している黒い、
耳下や喉元はもっさりとした中長毛種の大型犬。
この辺りで大型犬の野良など
一時間しない内に保健所に
連行されてしまいそうなもので、
それが私が今まで一度も
野犬を見た事が無かった
所以であろうとも推測されるが、
その犬は二時間後の帰路にも私の前に現れた。
これまで何処に居たのか、
いや、そもそも犬、だよな?
下級怪異と言われても納得しそうな
みすぼらしい生き物は唸りながら
私の後をしつこく尾いてきたので、
私は邸の門の前で立ち往生した。
私「困るよ。君が食べられる物は買ってないし、
此処は私だけの家じゃないんだ」
犬は歯を剥き出して低い声で小さく吠えると
私に飛び掛かった。
気付くと私は恐慌を起こして
始祖を合言葉で呼びつけていた。
音速で現れた始祖は私の無事を確かめると、
私の視線の先にいる生き物へ振り向いた。
始祖「大丈夫か! 何だコレ?」
私「あー、済まない久幸さん
……えぇと、野良犬? 
飛び付かれてパニックを起こしてしまった」
始祖「あー、こりゃでけぇモンな、パニクるよな。
変わった犬種だな、ミックスかね」
私「というより、
この辺りは野良犬自体は珍しくないの?」
始祖「滅茶苦茶珍しい。
つか、俺この何十年で、
要するに日本に来て、
初めて見たかもしんねぇわ」
私「やっぱり?」
始祖「桔梗院案件かね?」
私「にしては狂気みたいな
気迫が感じられないかな……
怪異ってもっと何か
憑かれてたり狂ってたり、しない?」
始祖「そう言われてみりゃそう、かね。
ま、入れてやれば良いよ。
此処まで汚ぇと
保健所で即刻処分されちまいそうじゃね?」
私「ああ、うん、君さえ良ければ」
始祖「勝手はさせらんねぇから
結界と鎖で拘束はすんぞ。
悪く思うなよ。伏せ……駄目か。伏・せ・ろ」
門の内で始祖は
手の動きと言葉で通常の犬への命令を試し、
通じないと分かると、
バンパイア式の脳へ直接捩じ込む命令を使って
強制的に犬を伏せさせた。
そして庭の物置小屋から
2センチ程の太さの3メートル程の長さの鎖を提げ、
木製の大きな犬小屋を担いで戻った。
始祖「犬用だった筈だから大丈夫だろ。
邸の前の持ち主のだ。動いてヨシ」
始祖は鎖を犬の首に掛けて輪を留めると、
バンパイア式の命令を解除して
一思案の後に邸内一階の駐車場へ向かった。
始祖「立派な毛皮に何飼ってるか分かんねぇから
邸には入れたくねぇけど、
今日のこの暑さじゃ外は酷だもんな。
此処なら糞小便くそしょんべんしても簡単に洗えるし」
私「とりあえず、警察と保健所に照会出そうか
……飼い主から問い合わせがあるかもしれないから」
始祖「そうだな。んじゃ、そっちは頼むよ。
俺は水と飯をやるから」
結果は残念ながら
警察にも保健所にも情報は無かったので、
犬の特徴と保護している旨を伝えた。
地図アプリで検索して
最寄りの獣医へも連絡と予約をした。
猫を保護した際のいろはは
愛息朗正と共に昔身につけたので、
犬も同じだろうと踏んで、
保護しているという情報の共有と
病気の有無を調べて清潔にするという
第一歩に踏み出した。
出現状況は不自然だが、
生き物としては至極普通に見えたからだ。
そう、怪異の気配を感じない。
始祖の与えた水と茹でた鶏肉を
犬は大変な勢いで平らげると、
犬小屋へ入ってコテンと横になって目を閉じた。
始祖「凌司君がただ美味しそうだったって事かね?」
私「そんな筈はないけど、
落ち着いたみたいだから良しとするよ」
始祖「コイツの病院明日?」
私「ああ、朝一番に著しく体調が悪くなければ
洗濯もしてくれるそうだ」
始祖「それは良かった。
ノミだのダニだの居たら
邸内に上げてやれねぇからな」
私「君の事を猫派だと思ってたけど、
もしかして動物全般好き?」
始祖「いんや、コイツが短毛だったり
小型だったりしたらずっと此処だぜ」
私「へぇえ。君そのルックスで良かったなぁ!」
始祖「クックッ……凌司君は犬相手でもキミなんだな」
私「ははは、これは絵理香の地雷対策だよ。
人類以外でも特別な呼び方をすると爆発したからさ」
始祖「怖……鍵掛けとこ」
私「こどもの日に君を呼べばと言い出してさ、
なかなかうんざりしたよ」
始祖「呼べば良いさ。
空いてりゃ行って
何とでも言いくるめてやるから」
私「バンパイア式の催眠術って、
ヒューマンの強迫観念を取り払ってやる事ってできる?」
始祖「そんな親切を思い付いたヤツは
居ねぇんじゃねぇかな……
他所に夢中にさせりゃ良いんじゃねぇの?」
私「いやいやいやいや、次のターゲットが可哀想だよ。
あの執着が朗正一人に集中しないよう努力してきたけど、
ぼくももう無理だし、
かと言って誰かを犠牲にするのは間違ってるし、
解ってくれると思うけど、
誰であろうと犠牲にしたくないんだ」
始祖「まぁな。その件について意見は違うが、
凌司君の希望は理解してるし、実際正しい事だし、
凌司君にはそのままでいてほしいとは思ってるから、
ナンカ考えような、皆に相談して……早々にな」
ああ、有り難い。
実に有り難い。

20230518

朝食後、
私と始祖は獣医へ犬を連れて行った。
一緒に行ってくれて有り難い。
絵理香を刺激せぬよう
動物を飼った事が無かったので、
今件は何をするにしても当惑しかないのだ。
様々な検査の結果、
犬は衰弱気味ではあるが
最近まで飼われていたかの
――ノミやダニや寄生虫の居ない――
極めて清潔な体である事が判明した。
みすぼらしく見えたのは
近所の川から出た後だったから
ではなかろうかという見解を、
獣医と犬専門美容師が別々に述べた。
昨日今日の暑さなら、
川から上がって長く待たずとも
自然乾燥するだろうと。
小さな動物を川に流す不埒者は存在するが、
この大きな犬が
何者かに投げ込まれたとは考え難いから、
遊んでいてか、主を追ってか、
自ら川に飛び込んだのではなかろうか、と。
この辺りで主が探している形跡は無いから、
もっと上流と、対岸側にも範囲を広めて
問い合わせてみると事務員が約束してくれた。
獣医を後にすると
二人の端末が同時にメッセージの受信を報せた。
始祖「同時って協会か?」
私「私は……師匠ですね」
始祖「トゥちゃん? ……俺もだ。
何ナニ……界狭間の暴走に犬が巻き込まれ?」
私「そっくりだね」
始祖「コイツにしか見えねぇな。
そっか、あんま見ねぇなりだと思ったら
アッチのだったか。
写真撮ってっと。
『昨日から俺達と居る犬。
毛玉は今キレイにしてもらったから無くなった。
これから圭家に帰るから
二階の食堂で会おう』送信、と」
私「《ヒューマン各方面への報告は》何て言えば良いかな?」
始祖「んー……『動物保護協会が見つけた』で良いんじゃね。
協会の名前は何つったかな……
ああ、レスキュードブラックだ。
こっちで協会に話通しとくから
そっち報告頼むわ」
私「了解」
我々は犬を連れて家路を辿りながら
各々通話を開始した。
私がレスキュードブラックが飼い主を見つけたと
獣医と警察と保健所へ通達する間、
始祖はレスキュードブラックと
バンパイア協会と桔梗院へ次々と連絡していた。
犬は最終的に我々が飼う事になった。
元の飼い主と家族が海で死んでしまった事、
発見当時はこの犬も海で溺れていた事、
元の飼い主の生存している唯一の身寄りは
伴侶小人が拒んだから犬は引き取れない事、
獣医と師匠達が
新しい飼い主を探そうと思っている事等を
師匠とランさんから聴いた始祖が、
犬の気持ちを尋ねた。
ランさんの通訳によると、
犬は亡き主と同じ加護精霊の匂いがするから
私に尾いてきたのだそうで、
美味しい餌と快適な小屋をくれた
始祖と私を好きだと答えた。
成る程、昨日犬が門で飛び掛かったのは
私の首許に居る
カーボナードの加護精霊恵玄よしはるだったのか。
始祖は、一目見た時から
この犬が好みど真ん中だったようで、
私の気持ち次第だと言った。
恐れるべき地雷が無い今、
断る理由は一つも無かった。
私もこの犬の立派な首の毛に
疾うに魅了されていたのだから。
名付けは始祖に頼んだ。
土果とか、水を剋するもの。
水辺がトラウマにならないよう
願いを込めたのだそうだ。
宜しく。

20230519

獣医と保健所と市役所を
始祖と共に駆けずり回り、
土果の狂犬病予防注射と
注射済票の交付申請、
マイクロチップ装着と情報登録、
飼い犬登録申請、
鑑札交付申請の手続きに奔走した。
始祖「土果の画数を
万禮の氏に合わせちまったから
俺が手続きしなきゃならねぇのな。
こーゆートコが
此処はホンットに面倒臭ぇよなぁ」
ヒューマンの戸籍上で
始祖と私は他人であるから、
環を持つ土塊の星のような二人の伴侶動物
――そもそも伴侶動物という単語は無く、
車と同じく所有物の扱いのようだ――
という事にはならない上に、
書類手続きは全て始祖に求められる。
土果のマイクロチップと
始祖のマイナンバーカードで
全てオンラインで完結できそうなものだが、
未だ整備が完了していないらしく、
役所仕事と洗練されていない手順のせいで
半日を忙殺された。
マイクロチップ導入と同時に、
鑑札と注射済票の廃止を
何故推進しなかったのか。
どうせ札票の作製に関わる利権だろう。
犬など特に、
迷子になる時は
首輪から抜け出してなる・・のだろうから、
首輪に装着させる札票程
無駄な物はなかろうに。
私が思わずぼやきを垂れ流していたら、
始祖に頭皮を揉まれた。
中学か、身長が160センチを超した辺りからか、
日常で頭を触られる事は無くなって久しく、
ドキリとした。
始祖「ドゥドゥ、利権に一々苛ついてたら
この国じゃ秒で禿げるぞ」
私「実害が無ければ
私だって看過して生きられますけど、
土果の時間は有限ですからねぇ。
早く帰って安心させてやりたい
……でしょう? 久幸さんだって」
昨日我々は土果が今年8才、
人間ならアラフィフ突入の年頃になると知って、
様々な決意を新たにしたのだった。
始祖「まぁな。お、呼ばれた。
ドッグフードやらオヤツの良さそうなの調べといて」
そうだ、
役人の化石脳に腹を立てても時間の無駄だった。
巧く気を逸して貰えた。
有り難い。


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