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デザート食べたい! 

※小学校3年生が、給食のデザートを通じて色々と考えるお話です。
給食のデザートは、小学生にとって1日の楽しみなので!

「いただきまーす」

給食当番の声で,三年一組では、みんながいっせいに食べ始めた。
「あーあ、今日もだめだ」
アユミは並んだ給食のお皿を見て、ため息をついた。アユミのきらいなピーマンがたっぷり入った、野菜と肉のいため物だった。
そしてデザートのスイカ。今日は真っ赤で、一切れが特に大きい。
大好きなスイカは見るからにあまく、おいしそうでよだれが出そうだ。

となりの席のアキラは、モクモクとおいしそうに食べている。
クラスで一番大きくて太っているせいか、何でもよく食べる。
パンだけをノロノロかじっているアユミを見て、
バカにしたようにわらった。
後ろをふり返ると、なかよしのサキちゃんがささやいた。
「アユミちゃん、きょうもだめ?」
「うん、ピーマン」
きらいなピーマンを残して、後は全部食べたけど、
何かを残すとだめなのだ。
アユミは、せつない気持ちでスイカをながめた。
なみだがジワリとにじんできた。

給食のルール

アユミのクラスは一年生の時から、給食を全部食べないと、デザートを食べてはいけないという決まりがあった。
一年生の担任だった、ベテランの男の先生が決めたのだ。
「このクラスはすききらいが多くていけない。
 わがままを言わないで、何でも食べるのがだいじだ」
その男の先生は、二年生まで受けもって定年退職したが、
三年生になって、新卒の若い、みか先生になっても、そのまま続いていた。みか先生はそのことを口に出して言わなかったけれど、
クラス全体がそう思っていたのだ。

給食が終わって…

給食が終わって、片づけるとき、切なさのあまり、
スイカをぺろっとなめた。とてもあまかった。
アキラがさけんだ。
「あっ、アユミ、今スイカ食べただろ」
「食べてない」
「えっ、食べたように見えたけどな」
スイカはかじったあとがないので、
アキラもしぶしぶなっとくしたようだった。
スイカを食缶にすてるとき、なみだがポトンとおちた。

きのうのデザートはイチジクで、あまりすきではなかったし、
おとといはオレンジだったから、そんなにくやしくなかった。
でも今日はがまんできなかった。
大好きなスイカだったのに。
声をあげて泣きたいのを、やっとがまんして、
流れてきたなみだを手でふいた。

学校の帰り道

学校の帰りは、いつもいっしょに帰るサキちゃんがそうじ当番だったので、一人で帰ってきた。
アユミが家の近くまでくると、団地の入り口にあるパン屋のおばあちゃんが、声をかけてくれた。
「アユミちゃん、お帰り。今日はひとり?」
「うん」
「今日は元気ないね、どうしたの」

この店はアユミの住んでいる団地からすぐ近くだ。
ママがパンが大好きなせいもあって、しょっちゅうパンを買いに来る。
息子さん夫婦がパンを作り、はいたつをしているので、
おばあちゃんがいつも店番をしている。

アユミはクリームパンが、ママはメロンパンが大すきで、
ママは来るたびにおばあちゃんと親しく、色々な話をしている。
おばあちゃんが長野の出身で、ママと同じなのも、
話が合う理由かもしれない。

いつか夏休みに長野に行った帰り、
長野のおばあちゃんの作ったおやきをいくつかあげたら、大喜びだった。
パン屋のおばあちゃんは、田舎のお母さんが亡くなってから、
手作りおやきを食べるきかいがなくなったとざんねんそうに言っていた。
次の日おばあちゃんは、おやきはなつかしい味で、とてもおいしかったとうっとりした顔で話してくれた。

「アユミちゃん、今日はほんとにせつない顔してるよ。何かあったの」
 おばあちゃんは心配そうな声で、アユミの顔をのぞきこんだ。

アユミはおばあちゃんのやさしそうな顔を見たとたん、
給食のスイカを思い出して、くやしくてなみだがこみあげてきた。
急に泣き出したアユミを見て、
おばあちゃんはお店のいすにすわらせてくれた。

おばあちゃんに伝える

おばあちゃんに、
給食をのこすと、デザートが食べられなくて、
今日はピーマンが出たので、大好きなスイカが食べられなかったと話しながら、しゃくりあげてしまった。
「そうだったのかい。
アユミちゃんは小さく生まれて、食が細いとお母さんは心配して、
何でも食べればいいと思って、好きなものだけをあげたって聞いたよ。
そのせいか、好き嫌いが多くてと心配そうに言ってたよ・・・。
大きくなるにつれて、しぜんになおっていくと思けどね」

おばあちゃんはおくに行って、黒ざとうのアメを二つぶもって来て、
アユミにくれた。
アユミの口の中で黒ざとうのアメはあまくて、
おいしくて少ししあわせな気持ちになった。

「でも、好きなデザートをなぜ食べてはいけないのかねえ。
 先生に聞いてごらんよ。すきなのに、
 せっかくの給食をすてるなんてもったいないねえ」

「聞いてもしかたがないよ。決まっているんだもの」
 アユミのことばに、おばあちゃんは首をかしげた。

「じゃあ、どうして決まっているのか、聞いてごらんよ。
アユミちゃん、いつものように元気を出して」

アユミは思わず、うなずいていた。
そこへお客さんがパンを買いに来たので、
アユミはお礼を言って帰ってきた。

家に帰ると

団地の二階の家は、まだだれもいない。
サキちゃんと遊ぶ約束もしてなかった。
ママとパパは仕事だし、五年生のお兄ちゃんは、
サッカークラブの練習でいつもおそくなる。
アユミはママにメールすることにした。

「ママへ、アユミは今、とてもいやなきもちになっています。
 ママ、電話下さい」
 しばらくたつと、ママから返信が来た。
「ごめんね、アユミ。これから打ち合わせでいそがしいから、
 家に帰ってゆっくり話を聞くね」

旅行会社につとめているママは、これから夏に向かって、
一番いそがしいシーズンだと言っていたっけ。

アユミはママの用意してくれたドーナツを食べて、麦茶を飲むと、
マンガを読み始めた。でもスイカがうかんできて、
アキラのバカにした顔を思いうかべると、くやしさがふくれあがってきた。マンガを放りだして,テレビをつけた。でもつまらない番組ばかりだった。
 
やっと夕方になって、お兄ちゃんが帰ってきたので、さっそく聞いた。
「ねえ、お兄ちゃん、お兄ちゃんのクラスも、
給食を残すとデザートが食べられないの」

「そんなことないだろ。残したって食べてる人もいるよ。
先生だって何もいわないよ。ぼくはだいたい残さず食べちゃうけどね」
そういいながら、おやつをモグモグ食べていた。

「じゃあ、なんで三年一組だけだめなの」
「おれは知らないよ。先生に聞けば」
お兄ちゃんはうるさそうに言って、向こうをむいて、
ゲームをやり始めてしまった。

アユミはパン屋のおばあちゃんのことばを思い出して、
明日先生に聞いてみようと思い始めていた。

ママが帰ってきた

しばらくして、やっとママが帰ってきた。
「ママ~」
アユミはママにだきついて、今日の給食の話をした。
大好きなスイカが食べられなかったことを話すと、
かなしさがぶり返して、声をあげて泣いていた。
ママはアユミのせなかをトントンとたたいてくれた。

「そうだったの、給食を少し残したくらいで、
デザートを食べないですてるなんて、もったいないよね。
食べられないのはくやしいよね」

ママは少し考えてから、
「ママが先生に、どうしてか聞いてみようか」
と言ってくれた。
アユミはそのとき、パン屋のおばあちゃんのことばを、
心の中でくり返していた。
(アユミちゃん、いつものように元気出して!)

「‥‥アユミ、自分で先生に聞いてみる」

「そうね、それが一番いいわ。じゃあ、がんばって聞いてみてね」
ママはアユミのかたをポンとたたいた。

夕飯のハンバーグは、ママがみじん切りにしたピーマンを少し入れたと言ったけれど、ピーマンのにおいもなかったし、お肉は大好きなのでおいしく食べられた。

次の日の給食

次の日の給食は、シチューに赤いにんじんがどっさり入っていた。
「あーあ、今日もだめだ」
ガッカリして後ろをふりむくと、サキちゃんが心配そうに聞いた。
「今日は何?」
「にんじんがダメなんだ」
「そっか、ざんねんだね」
今日はじゅくしたメロン、見るからに甘くておいしそう。
アユミは見ないようにしていたが、目に入ってくる。
そのとき、きのうパン屋のおばあちゃんと約束したことを思い出して、
くやしさをがまんしていた。

メロンを食缶にすてるとき、
思い切って一口、ガブッと食べてからすてた。
甘いしるが口の中に広がり、おいしかった。
でもいっそうくやしさがこみあげてきた。
(何でこんなにおいしいものを、すてなければいけないの)

帰りの会の時間になった

授業が終わり、帰りの会になった。
当番が、「何か意見がある人、いますか」 と聞いた。

アユミはふだんほとんど手を上げないので、
むねがドキドキとはちきれそうに音を立てたけど、思い切って手をあげた。

「はい、アユミさん」

「あの、給食のデザートは、何か残すと、
どうして食べてはいけないのですか」

やっと立ち上がってそれだけ言うと、声がふるえた。
みか先生は、おどろいたような顔をして聞いていた。

「決まっているだろ、すききらいがある人は残すからだよ。
残せば食べちゃいけないんだよ」
アキラが言った。

「でも、デザートは食べたいのに、すてなければいけないのは、
なぜですか。メロンだって食べられたがっています」
アユミは泣きそうになってきた。
最後はなみだ声にちかかった。

アキラはまた言った。
「だって、決まってんだよ」。

そのときだった。後ろで「はい」と声がした。
「わたしもアユミさんと同じ気持ちです。
なぜ給食を残せば、デザートをすてなきゃいけないんですか。
私はバレエを習っていて、太らないように、あげものの皮は食べられません。だからきらいじゃなくても、あげものの日はデザートを食べられないんです。アレルギーで食べられない人もいると思います。
デザートはとても楽しみなのにおかしいです」
クラスで一番せが高くて、すらりとしている、まほちゃんだった。
まほちゃんはしっかりした声でいった。

アキラはこんどはだまっていた。

すると、サキちゃんが立って言ってくれた。
「四年生のお姉ちゃんのクラスは、少し残しても、デザートは食べていいそうです。どうしてこのクラスはすてなきゃいけないんでしょうか」

クラス中がざわざわと声があがった。
みか先生が何か言おうとしたとき、学級委員のみつるくんが立ち上がった。

「すききらいをなくすためには、他の方法がいいと思います。
せっかくおいしいデザートをすてるのは、栄養の計算もしてあるはずだし、もったいないとずっと思っていました」

まほちゃんが拍手した。
あちこちで拍手するのが聞こえた。
アユミももりあがったなみだをふきながら、拍手していた。
アキラはつまらなそうな顔をしていたが、だまっていた。

みか先生は、みんなの前に立って言った。
「アユミさんの意見から、みんなの意見を聞くことができて、よかったです。ありがとう。私は担任になって、二ヶ月近く、給食の時間にいっしょに過ごしていたのに、何をしていたんだろうと思ってしまいました。本当にごめんなさい」
みんなに向かって頭を下げた。

「給食を残すとデザートが食べられないというのは、前任の先生が決めたことで、私はただ深く考えもせず、引きついでいました。みんなのいうとおりです。ただ今日は他のクラスの先生とも話したいので、一日待って下さい。明日にはみんなにお話しできると思います。考えたら、デザートを食べたいのにすてるなんて、もったいないことよね。くだものを作っている農家の人にも、もうしわけないものね」
みか先生は自分で自分に言い聞かせるように言った。

その日の帰り道

その日の帰り、サキちゃんやまほちゃんがよってきた。
「アユミちゃん、言ってくれてありがとう。
わたしもずうっとそう思っていたのに、いえなかったの」
にこにこしたまほちゃんのことばに、アユミは首をふった。

「ううん、一人ではあれ以上は言えなかった。
まほちゃんやサキちゃんが言ってくれてよかった」
「きのうお姉ちゃんに聞いておいてよかった」
サキちゃんも笑顔だった。
「二人におうえんしてもらってうれしかった」
アユミはそういいながら、うれしさがジワジワとわいてくるのを感じた。

帰り道は、サキちゃんやまほちゃんと話をしながら、心ははずんでいた。
パン屋の角で、二人と別れると、パン屋をのぞいてみた。
おばあちゃんは出来上がったパンをならべていた。

「おばあちゃん、きのうはありがとう。今日は帰りの会で、みんなの前で意見が言えたんだよ。先生は明日へんじすると言ってくれたけど、うまくいきそうだよ」

「そうかい、そうかい、それはよかったねえ」
 おばあちゃんは笑顔でこたえてくれた。

「今日はあそぶ約束したから、後でまたくるね」
「はい、またおいでね」

おばあちゃんの明るい声に送られて、家まで元気に歩いて行った。
今日はママにたのんで、
だいすきなクリームパンを買いに来ようと思っていた。
その後、サキちゃんと公園で、ボール投げしたり、おにごっこをしてあそんだ。
夕方ママが仕事から帰ってくるのを待って、今日の帰りの会のできごとを報告した。

ママに報告

「アユミ、がんばったんだね。ゆうきをだしたんだね」
ママはしっかりだきしめてくれた。
アユミはうれしさでむねがいっぱいになった。

ママにパン屋のおばあちゃんにはげましてもらったことを話すとよろこんで、これからパンを買いに行くことになった。
アユミのクリームパンやママのメロンパンだけでなく、お兄ちゃんにはたまごパン、パパにはカツサンドを買った。
ママがおばあちゃんにお礼を言うと、おばあちゃんもうれしそうに答えた。
「アユミちゃんが自分の力でがんばったから、サイコウだね」

次の日の学校で

次の日の朝、みか先生は、授業の前にみんなの前に立って話をした。
「きのうは、給食のデザートのことで、みんなにいい話し合いをしてもらって、ありがとう。他のクラスの先生に聞いたところ、デザートをすてろという話はどこのクラスもしてはいなくて、主食やおかずを食べたあとで、デザートを食べるとなっているそうです。つまり、給食をしっかりたべてから、次にデザートという意味だったんですね。だからまず給食をたべて、給食の時間が終わる十五分前から、デザートを食べていいことにします」

みか先生は,ほおを赤くしてこう言った。
「ホントに新米教師で、はずかしいです。ごめんなさい。でも他のクラスの先生に言われましたよ。しっかり話し合いができるこどもたちで、たのもしいって」

クラス中に、にぎやかな笑い声がひびいた。
みつるくんもうれしそうにわらっていた。
アキラはつまらなそうな顔をしていたが、アユミを見ると、小さい声でこういった。
「よかったな」

(母作)

大好きなデザート!

その日の給食は、だいすきなスイカだった。
一口食べると、甘いしるが、口の中じゅうに広がった。
甘くてさわやかな夏の味を、あゆはまんぞくしながら味わっていた。
(ああ、とってもおいしい)

「アユちゃん、おいしいね」

うしろから、サキちゃんの声がきこえた。
アユミはとびきりの笑顔で後ろをふりむいた。

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