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【洋楽】Travisにまつわる私の物語

どこに需要があるのか分からないまま勢いでアップした、サマーソニック(以下サマソニ)についての記事の続きを書き進める中、あまりにも尺が長くなってしまい途中で独立させた文章をこちらに残しておく。
それが、下記に続くTravisについての話だ。

※日本の某男性アイドルグループの話ではありません。


自己紹介にも記載した通り、私が初めて行ったライブはFranz Ferdinandの武道館公演である。この事実に誤りはない。
しかしながら厳密に言うと、人生初のライブはTravisになる予定だった。
更に続けると、そのライブはボーカルFran Healyのドクターストップにより直前でキャンセルとなった。

2004年
4月20,21日 Zepp Tokyo、23日 名古屋・CLUB DIAMOND HALL、24日 川崎CLUB CITTA'、26日 広島CLUB QUATTRO、27日 Zepp Osaka →フラン・ヒーリィの急病により来日中止

https://ja.m.wikipedia.org/wiki/トラヴィス_(バンド)

このライブを巡っては、当時母と娘の家庭内不和にまで発展した。


きっかけは「女子高生一人で外タレのライブに行くなんて危ないしけしからん」と、母に大反対されたことだった。

今振り返れば、母の気持ちは理解できる。当時の私は田舎の女子校に通う高校生という、若くて未熟で危なっかしい身分。そりゃ反対するよなと思う。

しかし当時の私は、外国人アーティストと洋楽のライブに行く観客を、一様に「危ない」と決めつけられたことに納得できなかった。そしてそれがTravisとその音楽に対してだったために、私は余計に腹が立った。

彼らの音楽を知る方には今更言うまでもないことだが、彼らの音楽性は全く危ないものではない。
むしろ、彼らは私が知る中で最もクリーンで誠実なバンドだ(そして、それは今も変わらない)。
バンドの曲一つ知らないのに何を言っているんだと、私は本気で憤りを感じていた。

……これを今風に言うと「中二病を拗らせている」、とでも言うのだろうか。

母娘の話し合いは平行線に終わり、父の協力と仲裁の下、半分強行して私はライブのチケットを入手した。しかし、前述の通り来日自体が叶わず公演は中止。チケットは払い戻しとなった。

公演中止による落胆もあったが、ここに至るまでの母との衝突で私は精神的に疲弊し、高校生のうちはしばらくライブのことは考えないことに決めた。
(なお、私の洋楽への傾倒を語るにあたり父の存在は外せないのだが、この話はまたいずれ。)


結果的に私の人生初ライブとなったFranz Ferdinandの武道館公演は、高校卒業間近の2006年2月に行われた。推薦入試で進学先を決めた私は、アルバイトで稼いだ僅かばかりのお金でチケットを買い、親にも許可を取り、一人で行った。
母にも思うところがあったのか、いや、言うだけ無駄と思われたのか、以降ライブに行くことについて、母から取り立てて何かを言われることはなくなった。


翌年の2007年、Travisのサマソニ出演が決まったと同時に私の頭に蘇ったのは、前回の来日キャンセル、そしてライブ観戦を巡り母と衝突したあの日の出来事だった。
私の初サマーソニック、初夏フェス参戦はこの瞬間に決まった。
まさかその後10年以上参加し続けることになるとは、当時は思ってもいなかったが。

当日、日本国旗柄Tシャツを着てステージに現れたFranの元気そうな姿を見ただけで、私は既に感極まりかけた。

が、観客の歓迎度合もまた凄まじく、冒頭"Selfish Jean"で自分より明らかに年齢層高めの観客にもみくちゃにされ、あれよあれよと前方ブロックまで押し出されてしまった。
来日公演中止以降、待ち侘びていたファンも相当数いたのだろう。もっと大人しい感じのライブだと勝手に思っていた私は、最初は少々びっくりした。
ただ、今振り返ればこれもフェスマジックと言うべきか。その後来日の度に(フジロックは除く)私は彼らのライブを観に行くことになるが、このサマソニの時のライブが一番観客のテンションが異様に高かった気がする。異論は認める。

ちなみに、彼らのライブで私が涙を流さずに観られたことは、これまでに一度もない。


息子出産後にライブから遠のいていた私を引き戻したのも、やはりTravisだった。
それが3rd作である"The lnvisible Band"の再現ライブだった(ヘッダー写真も参照されたい)。

息子を夫に預け、自分自身の趣味のために時間を使うこと自体が、産後初めてだった。
遠慮があったのは確かだ。それでも、今どうしても観たいという思いが勝った。


ライブ会場で、ふと思い出したのはやはり自分の高校時代のこと。でも、不思議なもので、母とのあの衝突のことは思い出さなかった。

代わりに思い出したのは、彼らの作品を聴きながらやり過ごした、眠れない夜のことだ。
月に数回は訪れる眠れない日。こんな日は、決まってTravisのアルバムを収録曲順かつ最小音量で、じっくりと耳を澄まして聴いた。その時のお供が、この"The lnvisible Band"や2ndの"The Man Who"だった。
眠れない夜に漠然とした不安が忍び寄っても、彼らの音楽が側に寄り添ってくれたから、時間はかかっても私は安心して眠りにつくことができた。

中でも私が一番好きな曲が"Turn"だ。
ほぼ中学英語かと思う位の平易な歌詞。
「振り返る」という曲名が表す通り内省的ではあるんだけど、それでも「良い人生を生きたい」という希望と願い。
もう数え切れないくらい聴いているが、何度聴いても心に響く。そんな曲に、今後私は幾つ巡り合えるのだろうか。
MVでは、Franがずっと腕立て伏せをしている。
文章にするとただそれだけなのだが、「人生ってきっとこんな感じだよな」と思わせる、彼らにしか作れない作品だと思う。


ライブが終わった後、育児と仕事の両立に追われ日々逆立ってばかりの私の心が、ゆっくり静まっていくのを感じていた。
ベッドの中で音楽を頼りに心を落ち着かせていた、あの日の高校生の私と同じだ。

過去に思いを馳せながら、現実を見つめる。

歳を重ねて、私は変わった。仕事も、家庭も、ライフスタイルも。
彼らも彼らで、髭は伸び、体型もちょっと大らかになった。
時の流れには逆らえない。でも、彼らは誠実に音楽を作り、それを定期的に私達の元へ届けてくれる。昔も今も変わらないこのことが、私は嬉しい。

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