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【2024 読了 No. 4】仲正昌樹著『悪と全体主義-ハンナ・アーレントから考える-』(NHK出版新書)読了。

 ハンナ・アーレントの『全体主義の起源』は前から読んでみたいと思っていた。でも、難読で有名らしい。自分にそれを読みこなす自信はないので、分かり易く紐解いてくれる本を探した。

仲正氏の著書では、以前『統一教会と私』を読んだことがある。あのまさに全体主義的な狂信的な統一教会に一度は御本人が身を置いた経験があったわけ。その点、単なる全体主義の渦中で熱狂する大衆の姿を、傍観してなぞるような覚めた著述ではないだろうと期待して読んだ。

期待通りだった。大衆の心の動きを具体的に多少くだけた表現も使って分かりやすく述べてくれた。

それだけではなく、更に背景となったドイツ史も、神聖ローマ帝国の成立まで遡ってくれた。一言で「ドイツ」と一括りにしがちだが、1648年のウェストファリア条約によって、「神聖ローマ帝国」は事実上有名無実化し、「帝国内は三百ほどの領邦国家に分かれてにらみ合う状態が続」いたという前史をきちんと説明してくれた。

その領邦国家に、19世紀初頭に「ナポレオン戦争の敗戦」によって、「一つの国民国家にまとまるべきだという考えが次第に浸透していく」。その象徴が、フィヒテの「ドイツ国民に告ぐ」という講演である。

本来はバラバラだったはずなのに、「フランスという強い『敵』に遭遇するということで(ドイツ)民意識」が覚醒したわけである。しかし共通の「敵」を持つことで「育んだ仲間意識は、それを維持・強化するために、つねに新しい『敵』を必要」とするのだそうだ。

その敵が、ユダヤ人だったわけである。

「経済を牛耳っているユダヤ資本、アカデミズムで幅をきかせているのもユダヤ系の知的エリート」という背景もあった上で、1903年に『シオンの賢者たちの議定書』という陰謀計画(と思われるもの)が出てきた。内容は、ユダヤ人の指導者たちが目論んでいる世界制服・世界支配の計画書であったが、1921年に幅をイギリスの『タイムズ』紙によって偽書であったことが明らかになる。しかし、そのようなことはどうでもよかった人達が多かった。

「人間は明快な世界観や陰謀論的なものに弱いもの」。特に陰謀論は、要するに自分達の暮らしが悪いのは、自分ではない誰かのせいである…という考えである。自分自身の根本的な問題を直視できない“大衆”にとっては、陰謀論は気持ちのいいものなのだ。

1918年、第一次世界大戦が終結する。この敗戦でドイツは海外植民地をすべて没収され、本国の領土も13%失う。そして、周知の通り莫大な賠償金を課せられ、経済はどうしようもなく逼迫する。

一方で、第一次世界大戦の頃からユダヤ系の人々が政治の表舞台で活躍するようになる。「ドイツでは外相、内相、オーストリアでは外相、蔵相のポストを占め」る。

その一方で、敗北後のドイツに成立したヴァイマル(ワイマール)政権が、世界でいち早く社会権を認めた憲法を制定するぐらい民主的なのはいいのだけど、民主的過ぎて議会の審議が遅く、再建を実感させる政策をなかなか打ち出せず、おまけに戦勝国に対する強い交渉力も見せられない、要するに“優柔不断”だったわけである。

ドイツは1919年に普通選挙が初めて実施された。「それまで政治に対して無関心・無責任だった人たちが、危機感のなかで急に“政治”に過大な期待を寄せるようになると、」「強力なリーダーシップを発揮できる豪腕」を希求する。「様々な問題を一発解消してくれる秘策が、どこかに必ずあるはず--そう期待した」わけである。


こういう状態が一番“全体主義”に取り込まれやすい。


ユダヤ人が世界征服を狙っているという陰謀論にかぶれてるから、ユダヤ人という陰謀を企てている悪者を排除して、我々ドイツ民族が世界に君臨するのだというとても分かりやすい“救済の物語”を渇望する。

かつ、強力なリーダーによってグイグイ引っ張っていってもらいたいと考えている。

そんなドイツの民衆の前に現れたのが、御存じヒトラーとヒトラー率いるナチスなのである。


ヒトラーは演説の際のマイクのスピーカーの位置にさえこだわった程、演説の達者で、分かりやすく“救済の物語”の創作を語りかけたのである。

ナチスの正式な名称の日本語訳は「国民社会主義ドイツ労働者党」である。要するに表面的には経済的弱者である労働者の味方という顔をしている。

間違えないで欲しいのは、ヒトラーは決してクーデター等でいきなり政権を握ったのではなく、選挙で支持を得て、あの超民主的なヴァイマル憲法の正式な手続きを経て首相になったのである。


全体主義に大衆がかぶれて暴走するのは、決してドイツ民族特有の話ではないということを、ハンナ・アーレントは言いたかったのである。

今の日本でも充分あり得そうな話である。

第二次安倍政権は十分その危険性があった。


安倍元首相は盛んに「悪夢の民主党政権」と繰り返し、民主党政権を悪者に仕立て共通の敵を作り、「アベノミクス」というとても分かりやすい(実効はどうだったのか疑問だが)景気回復の“救済の物語”を見せた。

そして、改憲→再軍備という、今考えたらトンデモ無いことを多くの日本人に納得させようとした。


それに比べて、岸田現首相はとっても人気がない。

安倍元首相と岸田首相に対する一般民衆の捉え方について、笑える話(しかも実話)がある。

・女性二人

「安倍さんの方が今の岸田首相より私たち国民のことを考えてくれていたわ」

・新聞記者

「でも、第二次安倍政権では2回も消費税が上げられてますよ」

・女性二人

「安倍さんのしたことは細かくは覚えてません。」

安倍さんのすることなら何でも良かったわけである。

改憲→再軍備、そして核武装なんてなれば、防衛費はGNPの2%枠の中にも収まらない、つまり更なる増税になるなんて考えていなかったのだろう。

岸田首相が防衛費をGNPの2%枠迄上げようとしているのは、NATO と足並みを揃えるためなのである。

独自の軍隊を増強するよりかは、今の自衛隊のままでアメリカを含むNATO 諸国やお隣の韓国と仲良くした方が、ずっと現実的で確実な安全保障策だと思う。

多くの日本人は知らないようだが、海上自衛隊の護衛艦とかには「艦番号」というのがあり、これを検索するだけで護衛艦の名前などが分かる。この「艦番号」はアメリカ軍と韓国軍と海自のはダブらないようになってる。一般日本人が知らないだけで、軍(モドキを含む)レベルでは、この三国の同盟関係は以前から強固なのである。



そう、これは今の日本でだって十分起こりうる話なのである。

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