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【読書】パーパス経営

こんにちは、みずのです。

名和 高司著の「パーパス経営」を読んだのでまとめておきます。
いつもはできるだけ本文に沿った形でまとめていますが、今回はボリュームが多いのでエッセンスだと思った部分だけ抽出したいと思います。

1.パーパス経営とは

志(パーパス)とは、他者にとって価値のあることをしたいという信念であり、自分たちは何のために存在するのかを表すものです。
筆者は志を基軸とした「志本主義(パーパシズム)」を資本主義の先の姿としてあげています。

*パーパス経営に欠かせない資源=人的資源
資本主義における基本資産はヒト・モノ・カネと言われていますが、ヒトは資産でなく費用として計上されていました。
志本経営の源泉は「志」という目に見えない資産であり、社内外の人やコミュニティに共有されて初めて価値を生み出すものです。
その意味で価値創造の中心は人的資源になります。

*志(パーパス)の三つの共感要件
「ワクワク」「ならでは」「できる!」

企業の筆者は以下の3つを軸に据えることで、その自社らしい独自の志(パーパス)が創出されると述べています。

2.世界全体の経営の潮流

現在、世界で企業経営における環境への配慮や社会課題解決といったサステナブルな視点に目が向けられています。まさにパーパス経営の時代と言えそうですが、いくつか気を付けておくべきことがあります。

*ESG経営の罠
環境(Environment)、社会(Social)、統治(Governance)の頭文字をとってESGと言いますが、経営においてこの3点を重視し、投資意思決定にも加味していくという流れが起きています。
筆者は、このうちガバナンスを重視しすぎると弊害が起こると警鐘を鳴らしています。
そもそもガバナンスは、株主側が経営者に株主利益を毀損されていないか監視するためのものでした。しかしながら現在は「企業は株主のもの」という考え方は過去のものになっています。
特に短期投資家のリターンを最大化することは、企業の持続的な成長とは相反する可能性が高く、結果的には企業価値を損なうことになります。
社会課題を解決するために未来の事業に積極的に投資し、将来の企業価値を高めることこそがガバナンスの本来の姿であるはずです。

*SDGsという規定演技
環境や社会課題に取り組むこと自体は重要です。ただしSDGsの大項目としてあげられている17項目はどの企業も取り組んでいます。これらの目標を掲げても人々の心に火をつけるようなパーパスにはなりえず、実際SDGsの目標に取り組むだけでは他者と横並びになって競争優位にはつながりません。
その企業らしさを表すような18項目目のゴールを自由演技として取り組む必要があります。

*コストとリターン
環境や社会課題への投資は短期的にはコストが上がるはずですが。リターンに結びつく保証はどこにもありません。
そもそも社会課題は儲からないのでこれまで放置されてきたとも言えます。利益に結び付けずに環境や社会課題への投資を継続的に行うことは現実的ではありません。そのため、異次元のコスト削減や事業モデルの工夫などによって市場として成り立たせる必要があります。
つまり社会課題解決をビジネスにするにはイノベーションが必須なのです。

*CSVという切り札
社会課題解決を収益化するためには。マイケルポーターが提唱した
社会価値を高めながら自らの経済価値も高めるというCSV(Creating Shared Value:共通価値の創造)という概念が重要です。
CSVを実現するためには以下の3つによってイノベーションを起こすことが必要だと筆者は述べています。

①サステナビリティ
…企業のパーパス(志)として最も重要な視点
②デジタル
…非連続なイノベーションを起こすためのツールとして必要
③グローバルな視座(グローバルズ)
…国内に閉じているのは限界がある、ただし世界のボーダレス化は幻想

3.世界と日本の先進企業の共通点・相違点

世界と日本でそれぞれ先進的な企業はいくつもあるが、それらの企業群には共通の特徴もある一方、構造的な違いがある部分もあります。
世界と日本の先進企業における共通点と相違点を「志す」「実践する」「成果を出す」「発信する」の4つの観点から比較します。

*志す
欧米企業のパーパスは正統的、日本企業のパーパスは独自性のあるものが多いという違いがあります。
独自性のあるパーパスは「ワクワク」「ならでは」を醸成しやすいので、日本企業の強みと言えます。

*実践する(戦略・資産・組織)
戦略の観点:海外の先進企業は、サステナビリティ・デジタル・グローバルズをすべて確実に捉えて戦略を展開しています。
一方で日本企業はサステナビリティに注力しすぎて、実践におけるデジタルの対応やグローバルへの取り組みについては不十分です。

資産の観点:海外企業は資産をモジュール化して型化することに長けています。(しくみ)一方で日本企業は無形資産を社員の創意工夫にゆだね、職人芸化することが得意です。(たくみ)
しくみ化ができれば再現性や拡張性、ポータブル性が高くデジタル化やグローバル展開もやりやすくなるので、海外企業は3点の対応ができています。

組織の観点:先進企業は共通してトップの強いコミットメントと現場サイドの自分事化の両方を兼ね備えています。
トップが志に根差した経営を標榜しない企業は、組織のパワーを終結できなません。一方トップだけが志本経営を唱えても掛け声で終わってしまいます。志は現場がそれを自分事化(エンゲージメント)してはじめて実体化します。

*成果を出す
海外モデルは資産をしくみ化することで、ある時期に広く市場を支配するパワーを発揮します。一方日本モデルは瞬発力にも拡散力にも欠けます。「たくみ」には時間をかけて学習と脱学習のプロセスを繰り返す必要があるからです。時間的持続力を持つという点は強みです。

*発信する
海外企業が扱う客観的な客観正義は正しくて広く受け入れられやすい半面、共感や感動を与えるパワーは低いものです。一方日本の独自性のある主観正義は普遍性には乏しいですが、賛同されれば共感や愛着を深めるパワーは強いのです想いやこだわりをストーリーとしてしっかり発信して受け入れられるようにすることが課題となります。

結論
ハイブリットモデルを目指す必要があります。
「志す」フェーズでは日本モデルに強みがあります。「発信する」において、主観ストーリーを共感ストーリーに仕立ててて、外への布教活動を強化する必要はあります。
また「実践」において、戦略のうちサステナビリティによりすぎているので、デジタルとグローバルズへの取り組みを強め、それを支える無形資産を強化すべきと言えます。そうでなければ収益化が叶いません。
日本の先進企業も海外同様有形資産から無形資産にシフトしつつありますが、「たくみ」と「しくみ」という質的な違いがあります。
「しくみ」化された資産はデジタルとグローバルズへの取り組みに欠かせないため、「たくみ」の良さを残しつつ「しくみ」化に真剣に取り組むべきです。

4.資産モデルの変革

日本企業はデジタルとグローバルズへの取り組みを強めるよう戦略・事業モデルの転換が必要です。それらの転換が難しいのは、新しい事業モデルに合った資産の組み換えが簡単にはできないからです。実は事業モデル自体はコモディティでしかないとされています。
最も重要な課題は「資産モデルの変換」ということになります。

資本主義経営においてはヒト・モノ・カネという3つの有形資産を効率よく活用することが基本でした。一方現在ではカネは余っており、モノはネットワークでつながることで資産として自ら囲いこむ必要がなくなっています。
さらにヒトも流動化されるとともに多重化されています。
企業はこれらの流動資産を自由に編集して、新しい価値を創出して活用しなければなりません。その中核となるのは企業固有の無形資産です。

最も重要な無形資産は「組織資産」で、企業の生命力の源泉となります。
「組織資産」とは組織のコアプロセスであり、経営管理、意思決定、人材育成、事業開発、ブランドマネジメントなどの仕組みのことです。
これらは企業の価値創造活動を持続・拡大するのに必須となります。
特定の知識は波及効果や陳腐化によって価値がなくなるので、知識を生み出し続ける仕組みこそに本当の価値があると言えます。
知識そのものを守るのでなく惜しみなく他者と共有することで、知識の結合によって新たな知識を生み出すことが、知識の価値を高めます。
組織資産を活用してそのような新たな価値創造を担うのは人であり「人的資産」も同様に重要です。

資産が企業を超えて流動化する時代には、改めて企業の存在意義が問われることになります。新たな知識創造のプロセスとして人材や顧客を集めて共創させるためにも志(パーパス)が欠かせません

5.志本経営の必要十分条件

志(Why)は成功の必要条件ですが、十分条件ではありません。問題解決や価値創造の成果であるアウトカム(What)、またそのようなアウトカムを生み出すシステム(How)がなければ、志だけでの経営は挫折します。
また、前述のようにHowについては今後は「しくみ」化がカギとなります。現場の知恵から生まれた独自のHowを、いかにアルゴリズムに落とし込むかが本質的な課題です。それを組織内外に流通させて新たな知恵を加えて進化させていくことが新たな競争力の源泉となります。この知識を流通して進化させていくプロセスのためにも人材を引き付ける志が必要です。
そして「しくみ」化によって、デジタルやグローバルズといった戦略が実現可能になり、社会課題解決と収益を両立するイノベーションを起こすことができます。そして結果的に志(Why)を遂げることができるのです。
このように志(Why)と価値創造のシステム(How)は切り離せません。

経営より現場を重視して現場の知恵を生かすということ自体はこれまで日本企業の勝ちパターンとされていましたが、日本企業の多くは現場の知恵をアルゴリズムに落としてスケールさせる努力を怠っています。
このアルゴリズムを進化させ続ける新陳代謝の仕組みそのものを組織の中に組み込まなければなりません。

6.まとめと感想

結構長くはなりましたが、これでもかなりポイントを絞ってまとめました。
こちらの本はパーパス経営に関しての広範囲にわたる事柄への著者の主張が詰まっていて、
それを補足する哲学者や古書の引用の部分も多いので一度読んだだけでは消化不良になってしまったというのが素直な感想です…
今回のnoteをまとめるにあたって自分なりに道筋をつけたのですが、それによって少し頭の中で内容が整理されて理解が深まった気がします。
ただ、もしかすると解釈が間違っているところもあるかもしれません。
個人的には、今後日本企業が取り組まなければならないとされている知識の「しくみ」化について具体的に海外企業がどのように進めているのか、どんな風にやればよいのかもう少し書いてあるとよいと思いました。


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