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きらきらひかる - 高知 久礼

chapter - 01 : calm

" 静かの海 "は地球上にも存在する。

高知県高岡郡中土佐町久礼は、あの不朽の名作" 土佐の一本釣り "の舞台となった漁師町。
“ 磯野カツオの一本背負い "とボケてみたかったが、作者と町へのリスペクトとして控えることにした。

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私が中学生の頃、怪我で入院をした時、隣のベッドにいた高専に通う優しいお兄さんがここ久礼の出身であり、地名を聞く度にその人の事を思い出す。

あの日からずっと身近に感じていた久礼だが、私の故郷からは地味に遠く、今まで一度も訪れたことが無かった。
先入観を持たないために、あまり情報を入れないまま訪れたのだが、高速ICからもアクセスが良く、町の仕上がり具合がこれまた素晴らしく、とにかく嫌味を全く感じない温もりのあるセンスに終始ニヤけていた。まさに、" 土佐の漁師町 "を他県の方に体感していただけるアミューズメント施設だ。

さあ、思う存分ニヤけてください。

chapter - 02 : 分子間力

この日、高知中央ICから久礼のある中土佐ICまで40分。いなかまず最初に" 道の駅なかとさ "に向かった。

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静かな漁港に併設された道の駅は、お土産や食材の販売所やお食事処などスタンダードな店舗から、パン屋やピザ屋などトラディショナルな漁師町にはちょっと似つかわしくないハイカラな店舗まで、多岐に渡って営業をしている。

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お土産や食材の販売所" マルシェなかとさ "で売られている、中土佐町オリジナルのお土産がなかなか面白い。

天然塩や鰹だしなど自然豊かな中土佐町にどっしりと腰を据えた渋みのある商品から、苺ビールといったイロモノまで、洗練されたセンスにより開発されたであろう、出しゃばってるようで出しゃばらない、奥ゆかしい雰囲気のオリジナル商品がなんかカッコいい。

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商品名で" 四万十川 "や" 龍馬 "に一切触れず、ちゃんと" 中土佐 "として胸張って名付けてる度胸とセンス。本当に大好きだ。こうしてじっくりと商品を眺めていると、少し違和感を感じていたパン屋やピザ屋も妙にしっくりと馴染んできて、新しい息吹が吹き込まれたように感じてくるから不思議。

chapter - 03 : フラスコに浮かぶ町

昼食をいただくために、久礼の中心街へ移動。

高知県の観光地の大半が駐車場無料であり、車を停める度に疑心暗鬼になってしまう。ここ久礼中心街の駐車場も他と同じく無料であり、看板に書かれた" 無料 "の文字を何度も確認してしまった。

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久礼中心街のメインストリートを歩く。
私が大好きな昭和の原風景が、きちんとメンテナンスされており、新しい建造物もその景観を損なわないよう、配慮されたデザインになっている。古き良き時代を無理なく次世代に踏襲していこうとする手の施し方は、私が望む最高の手法。

久礼のメインコンテンツでもある" 久礼大正町市場 "にやってきた。この小さい市場がかわいくてたまらない。
ミニチュア感溢れるこじんまりとした市場には、八百屋さんや魚屋さん、お食事処さんなどが並んでおり、全ての店舗に" さん "を付けて呼びたくなるキュートさがたまらない。

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この町をこよなく愛する女子" 久礼女(くれじょ)"みたいな、素敵なオタク的嗜好を持つ女性が出現しそうなセンス。

この日はお正月ということもあり、ほとんどの店が閉まっていたり、開店が遅かったりしたが、不思議と残念という気持ちにはならなかった。茶トラ猫のお昼寝が抜群に似合う昭和ノスタルジーの風情は、コタツのような安心を感じさせてくれた。

chapter - 04 : スロウダンス

11:30_____。
お腹が空いてきたので、むつみ屋に突撃。
かつおめしとラーメンが美味しいと評判。

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『すんません、まだお湯が沸いてないき、もうちょっと後で来てもらえませんろうか?』

この緩さがたまらなく好きだ。
近頃、少しせかせかし始めた私に" もう少し緩やかな時間に身を寄せてみませんか? "とブレーキを掛けてくれたような気がして、逆にお湯が沸いていなくて良かった。

お湯が沸くまでの30分間、私は海を眺めに港まで足を伸ばしてみた。そこに広がるキラキラした青い凪の海原は、私の生き急いでる毎日の" 時 "を止める魔法の様だった。

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そして、その海原を眺めるように立ち並ぶ住宅は、どこか遠い海に浮かぶ水上コテージよりもずっとずっと羨ましかった。

しばらくして、再度むつみ屋を訪れた。
既に先客がいらしており、"おうどん"を食べられていた。
むつみ屋のご主人も奥さまも柔らかく素敵な方で、食事に全て" お "を付けたくなる。私は" おラーメン "と" お鰹ごはん "のセットを注文。

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お世辞抜き。
超絶美味い。

かつおめしのゴロゴロ鰹に味がしっかりと付いてて、噛んだ時に旨味が広がる広がる。全体的に味が濃いわけでなく、味付きご飯とゴロゴロ鰹のバランスが本当にいい。

それを流し込むかのように啜る土佐ラーメンのスープが昔ながらの".夜鳴きそば"な味わい。きちんとダシも主張してて、口当たりも最高にスルスル。

私は醤油と油がギッタンギッタンのラーメンが苦手で、美味しいラーメン屋の条件として、中華そばというキーワードを軸に置いているが、優しい味わいの中にしっかりと主張が残るこのセットは、確実に私のラーメンランキングの上位に躍り出た。

あまりにも美味しいので、満腹中枢が爆破されてしまった。やばい、もう1セット食べたい...。

chapter - 05 : そちも相当の

満腹中枢爆破ラーメンに後ろ髪を引かれながら、中心街のメインストリートから更に奥へ歩いてみた。

『酒蔵ミュージアム』と書かれた標識を発見し、その方角へ歩いてみると、高知県最古の造り酒屋として名高い" 西岡酒造店 "に辿り着いた。

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西岡酒造は、この地で江戸時代中期の天明元年(1781年)に、初代井筒屋仁助が創業し、現在9代目に至っている230余年の歴史を持つ蔵元です。
仕込水は地下湧水、四万十川源流名水を使用。原料米として、山田錦や、四万十川源流の里で昔ながらの農法で自然栽培した酒造好適米を使用し、こだわりの酒造りを行っております。(西岡酒造店webより抜粋)

悪代官を利用し、私腹を肥やす商人" 越後屋 "のようなオーラが噴き出している。私のような" ぜんまい侍 "が気軽に入っていいものだろうか?恐る恐るその扉をくぐり抜けた。

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江戸時代の趣を感じさせる展示品の数々。あまりにも江戸時代過ぎて、今にもコントが始まりそうな雰囲気。
しかし、どの展示品も大道具が作ったものではなく、歴史が刻まれた本物と思うと、妙に背筋が伸びる。

私は西岡酒造のお酒を一度も飲んだことがない。せっかくなので、清酒久礼の純米大吟醸を購入した。
自宅で嗜ませていただいたが、柔らかい口当たりの後に広がるコクや香りは、他の酒蔵さんの純米大吟醸と比べて明らかにパンチが強く、なかなか飲みごたえがある。

西岡酒造を最後に久礼の町をあとにした。
短い滞在だったが、ものすごく濃厚な時間を過ごすことができた。恐らく、山の地域にも同じように魅力的な文化やコンテンツが数多くあることを期待したい。

再訪問するまで中土佐町のことは触れないでそっとしておこう。その方が感動が何倍にも膨れあがるから。

ひとめぼれ、中土佐町。

あとがき

私は現在、千葉県に在住している。千葉県にも中土佐町に似た穏やかな時間を過ごせる場所は多く存在する。

綿密な計画、時間厳守、予約などシーケンシャルに消費するライフスタイルと人間関係に辟易とする毎日。その時間軸上で知人と交わす会話には、先入観や承認欲求、値踏みなど人として愚かな部分が正直なところ多い。それが塊となり、ずっと心のどこかにどっかりとのしかかったまま、胸が苦しくなる。

私の中で、それが" ストレス "という名詞と繋がるまでに、随分と時間を要した。

そんな世界から完全に心を切り離すには、私はある程度の物理的距離が必要な性分であり、高知県はその距離として抜群なところに位置している。飛行機とJRで簡単に行ける場所はいくら遠くても近い。

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宿毛市の旅行記でも綴らせていただいたが、高知県にあるたくさんの色褪せた町を塗り替えて、帰りたい場所として蘇らせてほしい。宿毛市は大切に丁寧に彩色していって欲しいし、中土佐町はこの彩りを色褪せさせないようにして欲しい。

私が昭和の原風景を探している理由のひとつとして、ストレスフリーだった幼少期にタイムスリップしたい思いがある。昭和の残り香を感じただけで、穴から眺めたくなる恥ずかしい思い出が走馬灯の様に蘇り、それは無意識に私のエナジーとなってきた。

本当に悲しいのは、昭和の原風景とレトロをイコールにしてしまうこと。そもそも再現という発想の時点で擬態であり、流れている血はインスタントである。

中土佐町にひとつだけお願いがあるとしたら?

ずっと好きでいさせてください。

また来ます☆

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