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大手スーパーが「闇市」を開き「違法」になっている野菜や果物を集めたら法改正につながった【PR研究所006】

 ヨーロッパの大手スーパーマーケット「Carrefour(カルフール)」が2018年に実施したキャンペーン「Black Supermarket(闇市)」。これはスーパーの一角に「違法」とされている野菜や果物を販売するというタイトルだけみたらびっくりするようなキャンペーンだ。しかしこれには、厳しすぎるEUの農作物に関する法律へ意義を唱える目的があった。

 当時のEUは、農作物の種類やサイズの制限がかなり厳しく廃棄処分や流通不可能になっているケースが多発しており、農家にとって負担になっていた。具体的には、規定のサイズに収めるために小さくする特殊な農薬が使用されているなど、本質的な状態とはいえないことが起こっていたのだ。また、単に農家の負担になるだけではなく廃棄されることによるフードロス問題も引き起こしていた。
 そのような負担へ問題提起をするべく、現存の法律だと「違法」になってしまうような野菜や果物だけを集めて「闇市」のようにスーパーを営業したのだった。

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 当日はちょっとワルそうな写真の撮り方で、数多くの野菜が農家(きっといい人)と共に紹介され販売された。購入したり実際に味見した消費者は、こんな素晴らしい野菜が違法で売れない状態なのか!と声をあげる人が続出し、83,000を超える署名が集まった。
 そして署名や多くのメディアに取り上げられた甲斐もあり、ついにEU政府は法律を改正することを発表した。見事「Black Supermarket」は規制緩和を実現することに成功したのだ。

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 今回の「Black Supermarket」は、PRのなかの一つ「ロビイング」が実現した例である。「ロビイング」とは法律改正を目指すという難しいテーマであるが、実際に大きなムーブメントを起こすことで成功させた。

 PRの事例として特に注目すべきは2点ある。
 1点目は、農業組合などではなくスーパーマーケットが行ったということである。実際に消費者が野菜や果物を買うのはスーパーマーケットであり、日常に近い存在であると言えるだろう。農業組合などが行った場合よりもスーパーが行う方が消費者との距離感が近く、手法も「スーパーの一角を闇市にする」という大胆なキャンペーンが実現可能になっている。その大胆さが功を奏し、消費者からの認知も大きなものとなり、最終的にはロビイングという難易度の高いテーマでも実現に持って行けたのではないだろうか。


 2点目は、「闇市」「違法」というダークな言葉をあえて全面にフックとして出している点だ。ロビイングは法改正が目的なため、どちらかというとクリーンな印象で押し出す事例が多い印象だ。もちろん目的はクリーンな社会を目指してのことではあるが、消費者が問題を知るきっかけ(=フック)の部分にこのようなダークな表現を持ってきて、実際に体験すると野菜はクリーンなものだ。むしろダークなのは法律の方なのでは!?と裏切られる感覚。設計がとても上手だと思います。

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