世の中の全ての物は本物、偽物、似非に分かれるとその人は言った。
『スターダスト /ライオネル・ハンプトン・オールスターズ 』というCDがある。
1947年8月4日にロスアンジェルス郊外のパサデナ市公会堂で行われた第3回"ジャスト・ジャズ・コンサート”で録音されたライブ・アルバムだ。
このアルバムに収録されている15分17秒の「スターダスト」にはジャズの魅力が100%つまっている。
と言うかこれがジャズだ。
【きっかけ屋☆映画・音楽・本ときどき猫も 第9回】
「スターダスト」は1927年にホーギー・カーマイケルが青春時代のほろ苦い思い出を元に作曲し、1929年にミッシェル・パリッシュが詞をつけたスタンダード・ナンバーの傑作で、多数のボーカリストによって録音されている。
日本でこの曲の知名度が一気に上がったのはぼくが中学二年の時に始まったテレビのバラエテイ番組『シャボン玉ホリデー』のエンディングで毎週ザ・ピーナッツによって歌われてからだろう。
(「スター・ダスト」は24:40から)
ライオネル・ハンプトン・オールスターズによる演奏は、ゆったりとしたスイング感、ユーモア、演奏者どうしが自在に会話するようなアドリブが続き、9分50秒目に大スター、ライオネル・ハンプトンが登場する。
このアルバムには4曲収録されているが、ハンプトンが演奏に加わっているのは「スターダスト」一曲だけだ。
コンサートの当日ハンプトンの乗る飛行機が遅れ開演時間に間に合わず主役のいないコンサートで幕を開けた。
コンサートの終盤にハンプトンが到着して演奏に加わった出だしの一音が強烈で、その後立板に水の演奏が始まる。
ハンプトン・オールスターズなのに主役が一曲しか演奏しなかったのだからさぞかしお客は怒ったのではと思う人がいるかもしれないが、とんでもない。
たった一曲でも世紀の名演を目の当たりにした観客はどれほど幸せだったことだろう。
ハンプトンは2002年8月31日死去。享年94歳。
このアルバムを聴いてジャズの魅力に気がつかない人は生涯ジャズとは無縁な生活をおくっていただきたい。
ハンプトンの絶品ソロは09:50からですがぜひ全編お聴きください。
ライオネル・ハンプトンのライブを一度だけ見た。
ググってもハンプトンの来日歴が見つからないが恐らく1992年最後の来日だったと思う。
ライオネル・ハンプトン・オールスターズとして来日、会場はブルーノート・トーキョー。
メンバーの最年少がドラムスのグラディ・テイト60歳という御高齢オールスターズだ。
自分のソロが始まるまではヴァイブに手をついて立っていたご老人・ハンプトンが、ソロになるとシャキっとする。
全盛期の怒涛のような勢いは望むべくもなかったが、伝説のミュージシャンのプロの心意気を感じさせる素晴らしいライブに巡り会えたことを今も幸せに思っている。
(ブルーノート・トーキョーの記録によれば「ハンプトン&ゴールデンマン・オブ・ジャズ」の公演は1991年11月と1992年10月とのこと)
コメディアンのなべおさみさんの興味深いエピソードてんこ盛りの面白本『やくざと芸能と』に素敵なエピソードがある。
なべおさみさんが中学二年生、1953年の話だ。
ジャズ好きのなべさんは日本初のジャズ喫茶「銀座テネシー」の二階席でステージを見つめていた。
見るからに高級な服を着て日本人ばなれした中年男性がなべさんのとなりで同じようにステージを見つめている。
なべさんはその人が気になってしょうがない。
いろんな俳優や歌手の顔を思い浮かべてみるが誰だかわからないうちにワンステージ目が終わった。
なべさんが次のステージを見るためになけなしの百五十円をはたいてコーヒー券を買って席に戻ってくると、「君はもうワンステージ観るんだね」隣の男性が話しかけてきた。
「私もこのシートをキープするよ」
休憩時間に男性はまた話しかけてきた。
「君はジャズが好きなのかな?」となべさんに話しかけてきたその男性は、なべさんが子どもだからといって小馬鹿にした様子はない。
「はい」と答えて自分が好きなジャズの話をすると、その男性はアメリカのいろんなジャズメンの話をしてくれた。
「いい機会だから君に一つだけ話しておこう」
「世の中の全ての物はね、三つの物があると思うことだ。それはね、一つ、本物。二つ、偽物。三つ、これは見分け難いものでね。似て非なるものと書いて似非(えせ)と言うんだ」
物でも人でもこの三つがあるから、これを見分けられる人間に君はなりなさいと教えられ、「例えば今日のバンドの本物はピアノだね」と言い放った。
ステージで演奏していたのは穐吉敏子トリオだった。
この続きはまた明日。
明日は2010年の英国エンパイア誌の「史上最高の外国語映画100本」で第1位に選ばれている映画のお話しです。
明日もお寄り頂ければ嬉しいです。
連載第一回目はこちらです。
ここからご笑覧頂ければ嬉しいです。
第1回 亀は意外と速く泳ぐ町に住むことになった件。
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