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英国BBCに言われるまでもなくこの映画はまれに見る大傑作だ。

あの男性はいったい誰だったんだろう。

何年か後になべおさみさんはこの男性の写真をある雑誌で見かける。

雑誌には白洲次郎と書かれていた。

【きっかけ屋☆映画・音楽・本ときどき猫も 第10回

世の中は本物、偽物、似非の三つに分かれるという分類は働き蜂の法則に通じている。

ホンモノ20%、ニセモノ20%、エセ60%で世の中は構成されているとぼくはにらんでいる。

そして、エセのぼくは20%のホンモノを常に追い求めている。

正真正銘のホンモノ、だれにでもお薦めできる一本の映画といえば黒澤明監督の『七人の侍』だ。

『七人の侍』を初めて観たのは高校時代の五反田名画座。

全国を巡回して傷だらけになったフィルムはスクリーンに盛大な雨を降らせ、農民たちの方言まじりのセリフがノイズ混じりで聞きとりにくかった。

それにもかかわらず、扉が閉まらないほどはち切れんばかりに満員の館内で立ち見しながら、ぼくは作品のエネルギーに圧倒されていた。

『七人の侍』は2018年イギリスBBCが選ぶ「史上最高の外国語映画100本」の第1位に選ばれている映画史上屈指の大傑作だ。もちろん我が生涯不動のベスト・ワン。

村を盗賊から守るために農民たちがサムライを雇うというのが物語の大筋だ。

農民がサムライを雇う?

どうやってサムライを探すんだ?

報酬は毎日コメの飯が食べられるだけ?

そんな酔狂な申し出を了承するサムライがいるだろうか?

そんな馬鹿な話があるわけないだろうと思わせるだけでツカミはOKだ。

複数のカメラが同時撮影しているので役者は自分がどの方向から撮影されているのか分からない。

一瞬も気が抜けないことが画面に緊迫感を増している。

望遠レンズを使って遠近感を殺した画面構成、雨とぬかるみでどろどろになりながら走り回る農民やサムライを自らも泥だらけになって追いかけるカメラがドラマを盛り上げ、絶妙な音楽が追い討ちをかける。

監督とスタッフと役者が三位一体となった情熱が画面からほとばしる。

名画座、リバイバル上映、ビデオテープ、テレビ、DVD、リマスターされたDVD、これまでに数十回は観ているが、何度観ても感動は色あせない。

この映画をまだ観ていない人は幸せだ。こんなに素晴らしい感動とこれから出会えるのだから。

お楽しみはこれからだ。

後にアメリカでジョン・スタージェス監督がリメイクした『荒野の七人』も楽しめたが、スピード感、重厚感ともに『七人の侍』とは較ぶべくもない。

リメイクものやディレクターズ・カット版がオリジナル作品よりも面白いということはほとんどない。

その点まったく期待していなかったのに見事に裏切られたのが北野武監督・主演の『座頭市』。

座頭市と言えば誰もが頭に思い浮かべる勝新太郎のイメージを吹き飛ばして独自のエンタテイメントに仕上げていた。

冒頭のやくざに絡まれた座頭市が一瞬にして彼らを切り捨てるシーンからしてつかみはOK!!

セットよし、衣装よし、物語単純でよし、テンポ抜群、随所にちりばめられたリズミカルな演技よし、ユーモア良し、役者の面構えが画面のコントラストを強めていてよし、音楽が効果的、何よりも北野監督の演出よし、もちろん主演北野武よし、そして忘れていけない編集北野武よし。

まるで黒澤明監督へのオーマージュのような見事な「座頭市」だった。

第60回ベネチア映画祭のコンペティション部門で「監督賞」受賞、「オープン2003賞」(ラ・ビエンナーレ)、「観客賞」(プラステック・レオ-ネ文化協会選定)、「フューチャー・フィルム・フェスティバル DIGITALAWARD」(ボローニャ市で同時開催)を同時受賞。

ぼくは北野監督のデビュー以来大ファンなので全作品を観ている。

特に好きな作品は『その男、凶暴につき』(1989)、『3-4×10月』(1990)、『あの夏、いちばん静かな海』(1991)、『座頭市』(2003)、『アウトレイジ 最終章』(2017)。

生前の黒澤監督が北野作品を見た直後、北野武に一通の手紙を差し出した。

"日本映画をよろしく"。

その言葉がしっかりと実を結んだことを確信した。


この続きはまた明日。

明日は上野樹里が出演した映画3本についてのお話しになります。

明日もお寄り頂ければ嬉しいです。



連載第一回目はこちらです。
ここからご笑覧頂ければ嬉しいです。
第1回 亀は意外と速く泳ぐ町に住むことになった件。


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