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-映画紹介-「不適切にも程がある」 2024年を代表するテレビドラマだと言い切るのは不適切?! 

《乱れ撃ちシネnote vol.181》

「不適切にも程がある」全10話 金子文紀、坂上卓哉、古林淳太郎、渡部篤史、井村太一監督 2024年 日本

鑑賞日:2024年3月6日 Netflix

【Introduction】
脚本クドカン、主演阿部サダヲのドラマは見逃せない。
脚本家・宮藤官九郎の名前を知ったのは「池袋ウエストゲートパーク」(2000)
熱狂的ではないけれどクドカン・ファンなので彼のドラマは気にしてる。
特に好きなのはこの6作。

《ドラマ》
「池袋ウエストゲートパーク」(2000)

「タイガー&ドラゴン」(2005)

・「流星の絆」(2008)

・「俺の家の話」(2021)

《映画》
『GO』 (2001)


・『ピンポン』(2002)

阿部サダヲは「池袋ウエストゲートパーク」の巡査役で印象に残り、
『下妻物語』(2004)の一角獣の龍二以来お気に入りの役者さんだ。

ちなみにこの両作品に出演している荒川良々もお気に入りの一人。

荒川良々

このあたりから劇団・大人計画一味が気になり始めたってことか。

「不適切にも程がある」を放送開始と同時に観たもののピンと来なかったのでその後見逃していた。
そこで今回再挑戦。
24.03.05→(✣) -☆☆☆☆- 「不適切にも程がある」全10話 金子文紀、坂上卓哉、古林淳太郎、渡部篤史、井村太一監督 2024年 日本 Netflix

観始めたら止まらなかった。
こんなに面白かったのか〜。
前回第1話でワケもわからず途中下車してしまったのは何だったのだろう。
第5話あたりから面白さに加速度がついた。
見事なタイムスリップものだ。
コンプライアンスが厳しい令和時代(2024年、低成長期)とそうではなかった昭和時代(1986年、安定成長期)を行き来するタイム・スリップものなので、

コンプライアンスは「法令遵守」を意味する言葉ですが、現代では、社会規範・社会道徳、ステークホルダーの利益・要請に従うことなども含む広い概念となっており、会社において、適切な体制のもと実現するものだと考えら

契約ウォッチよ

令和における不適切な表現についての注意を喚起する注釈テロップが何度も挿入される。

「この作品には、不適切な台詞や喫煙シーンが含まれていますが、時代による言語表現や文化・風俗の変遷を描く本ドラマの特性に鑑み、1986年当時の表現をあえて使用して放送します」

テロップ例

このテロップは真面目なのか非真面目なのか。
なにはともあれ不真面目ではない。

放送開始と同時に「この放送はドラマです」というコメントを流したのはオーソン・ウエルズのラジオ・ドラマ「宇宙戦争」(1938)。
原作はジュール・ヴェルヌとともにSFの開祖と言われたH.G.ウエルズの「宇宙戦争」。火星人が地球を侵略する物語でスティーブン・スピルバーグが映画化(2005)している。

ウエルズのラジオ・ドラマの放送開始直後に流れる「これはラジオ・ドラマです」というコメントを聞き逃して放送を聞いたリスナーが宇宙人が攻めてきたと勘違いしてパニックになったという都市伝説まで生まれた。
オーソンウエルズの天才性が発揮されたリアリティあふれる伝説のラジオ・ドラマだ。

この番組はCD化されています。

ウエルズが放送当日スタジオ入りしてから番組終了までの制作現場を描いたTV映画「アメリカを震撼させた夜」もNHKの深夜に放映された

「不適切にも程がある」の番組途中に流れる「この作品には、不適切な台詞や・・・」というテロップでニンマリさせる宮藤官九郎のセンスと阿部サダヲとの弾けぶりが楽しめる最上のエンタテイメント・ドラマでした。

【物語の概要】
1986年(昭和61年)と2024年(令和6年)とのタイムスリップを軸に繰り広げられる物語である。

東京都葛飾区立第六中学校の体育教師で野球部の顧問でもある小川市郎は、スパルタ教育と荒々しい言動が特徴。
私生活では妻に病気で先立たれ、
17歳で高校2年生の娘・純子と暮らすシングルファーザーでもある。
そんな彼がある日学校からの帰りに乗った路線バスが、38年後の2024年にタイムスリップしてしまう。
行きつけの「喫茶&バー すきゃんだる」のトイレの壁が謎の空洞になっていて、そこを通るとなぜか1986年へ戻ることができた。

2024年の世界で出会ったスマートフォンとシングルマザー犬島渚のことが気になり、
前回タイムスリップした時と同じと思われる時刻のバスに乗ってみると、
そのバスは自動操縦のタイムマシンだった。
タイムスリップした2024年の居酒屋で隣り合わせになった3人組の客の会話から、
様々な言動に対する意識が1986年の時点よりかなり厳しくなっていることを知る市郎。

その後、1986年へ戻るために「CAFE&BAR SCANDAL」のトイレを再び利用しようとするが、和式トイレから洋式トイレにリフォームされていて、謎の空洞は消えていた。
〜公式サイトより〜

【Trivia & Topics】
✥こちらも大笑いできるタイムスリップもの。

「不適切にも程がある」は笑わせるにも程がある傑作ドラマでしたが大笑いするタイムスリップ映画が『サマータイムマシーン・ブルース』(2005)。
宮藤官九郎は劇団「大人計画」のメンバーですが『サマータイムマシーン・ルース』も京都の劇団「ヨーロッパ企画」の舞台を映画化した作品です。

夏休みのある日のこと。とある大学の「SF研究会」の部室のクーラーのリモコンが壊れメンバーは茹だるような暑さにへきえきとします
そのさなかとつぜん部室にタイムマシーンが現れます。
タイムマシーンに乗って昨日の部室に行きリモコンを持ち帰ればクーラーが動く。
かくて昨日と今日とを部員たちがわさわさ行き来する映画史上最も地味な空間移動に抱腹絶倒するタイムマシーン映画の傑作が生まれました。

✥クドカンの想い。
宮藤です。
 連続ドラマを書き始めて24年。プロデューサーの磯山さんとの付き合いは 25年になります。演出の金子さんとも25年。阿部くんとは32年。一度も絶好されることなく今日に至ります。
「池袋ウエストゲートパーク」の第一話、長瀬智也くん扮するマコトに、幼馴染みの風俗嬢(矢沢心さん)が「おいでよ。マコっちゃん、安くしとくよ」と声をかける。
そのやりとりを聞いていたマコトの母ちゃん(森下愛子さん)の一言。
「抜いてもらいなさい」
「うるせえババア!」
これが2000年当時のガイドラインだと思う。
そして24年後のガイドラインが、
「純子。てめえチョメチョメしてねえだろうな」
「まだだよ、クソじじ!」
 僕は変わってない。けど、世の中は変わったんだな、としみじみ感じます。過激な表現を誰も求めなくなりました。BPO(放送倫理・番組向上機構)に怒られる前に視聴者が離れて行く。過激さよりも緻密さが好まれる。伏線回収とか、刺さるセリフとか、涙腺崩壊とかが好まれる。
日常も変わりました。オフィシャルな場で下ネタや毒舌などを聞く機会が滅多になくなった。誰も失言しない。みんな気をつけている。だからせめて自分だけは、か弱き大人の代弁者でいよう。せめて僕のドラマくらいは解放区にしよう・・・なんて考えたことは一度もなく、面白いかどうかだけで判断しています。今も24年前も“面白い”が“不適切”を上回った表現だけを台本に書き起こし、書いた以上はそれなりに闘おうと思います。
 僕の作品を今だに「中2男子のわちゃわちゃ感」「女性を排除している」「ホモソーシャル的」と表する人がいるらしい。いやいや。男子校に通っていたのなんてもう36年前だし、磯山さんはじめプロデューサー陣は全員女性、事務所の社長もマネージャーも女性、家に帰れば奥さんと娘、実家に帰れば母と姉。俺の周りは女性ばかり。僕のヤバい部分が辛うじて世間にバレずに済んでいるのは、女性陣が踏ん張って防波堤となってくれているおかげかもしれない。
 この本を手に取って下さった方ならわかると思いますが、僕自身は決して「昭和は良かった」と遠い目をする懐古主義者でもなければ「なに言ってんだ、多様な価値観が認められる令和が良いに決まってるだろう!」というアップデート至上主義者でもありません。奇しくもCreepyNutsさんが主題歌「二度寝」の歌詞で仰っているように、どこにいても「こんな時代」と思ってしまうのが人間で、今じゃない時代への憧れ、郷愁があるから進化、成長するんじゃないかな、というようなことを、この人は面白おかしく伝えたいんだなと、改めて読み返して考えました。
 最後に、最高のパフォーマンスを見せてくれたキャスト陣、それを最大限に引き出すためのセッティングをしてくれたスタッフ陣、特に今回は新作ミュージカル✕10話という離れ業を見事成し遂げて頂き、感謝に耐えません。

〜この文章は「不適切にもほどがある!」宮藤官九郎書き下ろしシナリオ完全収録 (KADOKAWA刊)の宮藤官九郎の“まえがき”です。

【5 star rating】
☆☆☆☆☆

(☆印の意味)
☆☆☆☆☆:超お勧めです。
☆☆☆☆:お勧めです。
☆☆☆:楽しめます。
☆☆:駄目でした。
☆:途中下車しました。

【reputation】
Filmarks:☆☆☆☆★(4.2)

u-next :☆☆☆☆★

Netflix




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