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だけどワタシまじで心根が腐ってます

《乱れ撃ちシネnote vol.05》 22.09.30

下妻物語

【Introduction】

昨日の『ピンポン』は幼馴染の陽性のペコと陰性のスマイル。
二人の高校生と彼らが所属する卓球部の仲間、先生、他校の強豪たちを描いたクドカンの見事なシナリオで綴った青春ものでした。
名脇役たちの技ありな演技に囲まれた中で卓球部のキャプテン荒川良々が異彩を放っていました。

今日は荒川良々を初めて知った映画です。
この作品はひょんなことから出会った性格も見た目も生き方も真逆な二人の女子高生の過ごした一夏を描いたおバカ映画タッチの青春映画です。

【Prologue】

暗転の画面に複数のオートバイの爆音が被さりフェード・インするとアニメの画面。

「うわ〜お!あたいのマシーンが火を吹くぜ」
のセリフが吐き出されパンク・ロック風テーマミュージックが鳴り響く。
疾走するバイクの絵柄にローマ字で出演者のクレジット。いつの間にか森の中を疾走するぶれぶれのバイクのアニメが実写にすり替わっている。 
原付きバイクの乗り手はロリータファションを着た少女。

バイクが森を抜けると大きな大仏が現れる。

スピードメーターは40キロを指している。
広々とした畑のあぜ道を疾走する原付きに乗って白いヒラヒラ・コスプレ・ロリータ・ファションをなびかせている少女は交差点で横から走ってきた八百屋の軽トラと衝突。

軽トラのフロントガラスに跳ね付けられて宙を舞う少女。
四方に飛び散るキャベツ。
少女の横顔アップ。

✽少女のモノローグ
〈さようならダメおやじ、さようならおバアさま、さようなら牛久の大仏様、さようならベイビー・ザ・スターシャイン・ブライトのお洋服〉

少女の白いドレスのポケットからこぼれ落ちるパチンコ玉とキャベツが宙を舞う。

✽少女のモノローグ
〈さようならイチゴ、いまさら言っても遅すぎるけどで出来ればワタシはロココ時代のおフランスに生まれたかった〉

空から落下するパチンコ玉
(ストップモーション)
         下妻物語
               終 

✽少女のモノローグ 
〈ってわけにもいかないので時間をちょっと、チョコッとだけ戻します〉
急速に画面が巻き戻されて優雅な音楽をバックに18世紀ベルサイユ宮殿の静止画にズームアップ。

ー18 Century   Bersaiesー
               (18世紀ベルサイユ)

ロココ調の絵画、彫刻が画面に流れる。

✽少女のモノローグ
〈ロココ、それは18世紀後半のフランスを支配したもっとも優雅でゼイタクな時代、チョー真面目なバロックのあとに出現したチョー軽薄な芸術スタイル、ロココはそのあまりのバカっぽさから歴史の闇に葬り去られ世界史の授業でもほとんど触れられることもありません〉

〈評論家たちはこの時代のゲイジュツを甘ったるくて安易で化粧っぽくて下品、淫らとコケおろします、だけど人生なんて甘いお菓子とおんなじ。スイートな夢の世界に溺れる、溺れまくる。それがロココの心なのです〉

〈ただ見た目の美しさのためだけに腰をギンギンに締め上げ、そのため呼吸困難を起こす。でもそれがチョーカワイイ〜 (フランス男の猫なで声)とされた時代、何というアホらしさ。でも気持ちがよければOKと朝から晩までお淫らざんまい。ちょっと飽きたら大流行の刺繍のお時間、それも飽きたらお淫ら再開やっぱり飽きたら田舎をお散歩〉

 美しい森ノ中を日傘をさして走る少女。

〈ワタシだってロココに身を捧げた女。フリル全開のお洋服で優雅に田園地帯をお散歩といきたいけれど〉

画面変わってあぜ道に呆然と立つ少女。
目の前に牛が道を塞いでいる。
少女の顔のアップでカメラに語りかける。

〈ダメ、無理、だってここは21世紀の茨城県、その名も下妻、田園というよりただの田んぼ〉牛がウンチする。
あぜ道に日傘をさして立つ少女
〈ワタシはここで生きてるんです、ゲッ!ウンコふんじゃった〉

(クレジット)ー21 CENTURY  SHIMOTSUMAー
                                      (21世紀  下妻)


ここまでが4分50秒のアバンタイトルです。
ここからロリータ・フアッションのお嬢様、高校2年生の竜ヶ崎桃子(深田恭子)と個性的な人たちの日々が語られます。

✽桃子のモノローグ
〈自宅から下妻駅まで歩いて30分。自転車なら速いのだけれどそんなのダメ、だって美しくないんだものロリータが、ママチャリを漕ぐ姿なんて〉
ロリータ・ファションに日傘をさして優雅に歩く桃子にお馴染みの八百屋(荒川良々)が声をかけます。

「どこまで行くの?」
「ちょっと東京まで」
「東京まで?何しに」  
「お洋服を買いに」 
「服買うのになんでわざわざ東京行くの?JUSCOがあんのに」
「JUSCOってスーパーじゃん」

「何も知らねえんだなオメェは、下妻のJUSCO はスーパーなんてもんじゃねぇ〜の、何だってある、なんもかんも揃ってる。東京のPARCO以上だ」
八百屋さんも集まっている主婦たちもみんなJUSCOで買った服をニコニコ自慢げに見せるコマーシャルカット。

✽桃子のモノローグ
〈この街の人間は完全に狂ってます〉

このシーンで初めて荒川良々という俳優を見ました。
昨日の『ピンポン』の卓球部の主将です。
劇団の役者です。
うまいとか下手とかを突き抜けて作品の絶妙なスパイスとなる圧倒的な存在感が大好きになりました。

✽桃子のモノローグ
〈下妻から東京へはまず常総線というローカル線に乗り取手まででなくてはなりません。 電車は一時間にたった2本〉
〈では電車が来るまで私のプロフィールでも〉

電車の待合室のテレビのバラエティ・ショーのアナウンサーが「ではご覧下さい」とコメントする。

 竜ケ崎桃子 誕生秘話
というタイトルがテレビに映る。


【Trivia & Topics】

✻切なさがにじみ出るおバカ系映画の傑作。
周囲にどんな目で見られようと意に介さず終始ロリータ・ファッションを着たロリータ少女竜ケ崎桃子。
バイク命でぶいぶい言わせているが「イチゴ」という可愛らしい名前に引け目を感じているヤンキー少女白百合イチコ。
いつも強がっているイチコはウドの大木系、なよなよしてるが絶対に自分を曲げない桃子はヤナギ系。
正反対の性格の二人の女子高生が思い思い別々の道に進み始めた二人だけの一夏の友情物語です。

✻桃子の父親と母親との出会い。
とことんダメおやじ(宮迫博之)の前に現れた母親(篠原涼子)のあっと驚く登場シーン。美形の篠原涼子さんがここまでやるか!

✻桃子の生まれた土地秘話。
桃子は下妻生まれではなく生まれると同時にジャージを着せられ死ぬ時もジャージを着たまま死ぬと噂される有名な土地柄の生まれです。

✻面白ければいいのと桃子。
両親が離婚しようが野生動物が殺されるテレビ番組を見ようが冷静で無関心だった桃子は両親が離婚した時小1でした。
お母さんの申し出をきっぱりことわり面白そうだというだけでオヤジと暮らすことを選びました。

✻桃子のおばあちゃん。
都会を離れて茨木のおばあちゃんの家に居候することになった親子ですが、子どもの頃から苦労つづきのおばあちゃん(樹木希林)はその反動でいつも桃子に甘えてお小遣いをねだりますが、
時折若い頃ただ者ではなかったことを感じさせる殺気を感じさせます。

✻桃子はオヤジがしまい込んだバッタものの偽ブランド服を個人通販誌で激安販売していましたがある日一通の手紙が届きました。
ジュースをこぼしたシミのついた紙切れに誤字だらけひらがなだらけの汚い文字で書かれた手紙です。

りゅーが崎さま
そうそう
はじめまして。てまえ下妻に住んでる物です。
故じんじょうほうしを見て手がみをおくったのであります。
ベルサーチのものをどーかゆづってください。
どーしてもベルサーチがほしいのでどーか、なにゆえ、おねがいします
                          白百合イチコ

手紙の主は小学生か中1の女の子だと思った桃子は家も商品を見に来て下さいと誘います。

ある夏真っ盛りの日。
もうもうと砂埃を舞い上げるオートバイ(原付き)の爆音とヘビメタのテーマミュージックとともに黒いサングラスで特攻服に身を包んだスケバンが桃子の前に現れました。

「お嬢ちゃんあたい白百合イチコってもんだけど桃子さんおられるんですかな?」
桃子と白百合イチコの馴れ初めです。

✻ベイビー・ザ・スターシャイン・ブライト。
下妻から取手まで常総線で約1時間、そこから常磐線で上野まで40分、上野から山の手線で渋谷、東横線に乗り換えて代官山。大好きなメゾン、ベイビー・ザ・スターシャイン・ブライトのお店に桃子は買い物に出かけます。

✻桃子のアッパレな心根。
「それがどんなに非常識な生き方だとしても幸せならいいじゃん。気持ちよければOKじゃん。ロココの精神はワタシにそう教えてくれました。だけどワタシまじで心根が腐ってます」

✻尾崎豊命のイチゴ、ヨハン・シュトラウス好きの桃子。

✻イチゴの啖呵。
「自分捨てなきゃ大人になれなねえんだったら、あたいガキのままでいいっすよ」

✻コントラストが強いのはパステル調の画面だけではありません。
怠け者でだらしのない父親だが桃子にだけは優しい父親宮迫博之、いつも桃子に甘えてお小遣いをねだるお婆さん樹木希林、茨木弁まるだしの朴訥な八百屋さん荒川良々、ちんぴら極道一角獣の龍二阿部サダヲ、濃ゆいメンバーが脇を固めて笑わせてくれます。

✻「しばづけ食べたい」のフジッコ漬物、サッポロ黒ラベル「温泉卓球」、フジカラー「写ルンです」などのヒットCMで知られる中島哲也監督は映画制作に乗り出し本作で大きな話題となり、その後『嫌われ松子の一生』、『パコと魔法の絵本』『告白』、『渇き』などを監督しています。

✻一番の推薦者は長谷川和彦監督でした。
お笑いギャグ満載、アニメの挿入、MVばりの演出、効果的CGの使い方、スローモーション、原色を強調したパステルカラーの画面など様々なテクニックで観るものを飽きさせない中島監督は1982年ぴあフィルムフェスティバルに入選しています。

✻幼児体型でロリータ・ファッションに身を包んだベビーフェイスの深キョンもだらしないオヤジ宮迫博之もどこか不気味なおばあちゃん樹木希林も見事ですがなんと言ってもキャラクターがはじける土屋アンナの存在感には目が離せません。

✻いつも相手のことを考えずに押しかけて来る自分勝手なイチゴに桃子はたった一度だけ自分から電話をします。
「会いたいよイチゴ・・・」
二人が出会った直後思いもかけない大団円へと物語は進みます。

✻ラストに流れるあの名曲。
70年代のロックの名曲に導かれてスタッフ、キャストのクレジットの流れるエンディングのタイトル・ロールがこの素敵な青春映画を締めくくってくれます。

✻カンヌ国際映画祭のフィルムマーケットでこの作品は『Kamikaze Girls』と題され上映されて評判となりました。(このページトップの写真)

✻本作の受賞歴。
作品賞
第26回ヨコハマ映画祭

監督賞(中島哲也)
第26回ヨコハマ映画祭

主演女優賞(深田恭子)
第26回ヨコハマ映画祭
第59回毎日映画コンクール
第14回東京スポーツ映画大賞

助演女優賞(土屋アンナ)
第26回ヨコハマ映画祭

新人賞(土屋アンナ)
第29回報知映画賞
第78回キネマ旬報ベスト・テン
第59回毎日映画コンクール
第47回ブルーリボン賞
第28回日本アカデミー賞


【6 star rating】
☆☆☆☆

【reputation】
Filmarks:☆☆☆★(3.8)
Amazon :☆☆☆☆★
u-next :☆☆☆☆★


時折おバカ映画なのにワケもなく切なくて涙が流れる作品があるんです。
『下妻物語』もそんな素敵な映画でした。
この映画で中島監督を知り次回作を楽しみに待っていました。
2年後にその作品はやってきました。

『嫌われ松子の一生』

主演の中谷美紀が
「この役を演じるために女優を続けてきたかもしれない」
と語ったほど惚れ込んだ作品。
次回はこの作品について語ります。

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