え?何??知ってる曲がいつの間に知らない音楽に変わってしまうのってどうよ?
どんな人にも突然訪れるカルチャーショック。
音楽というものは作曲家が書いた譜面を忠実に演奏するものだと思いこんでいたぼくに譜面に書かれてない音楽を演奏するアドリブなるものを教えてくれたのはソニー・ロリンズだった。
【きっかけ屋☆映画・音楽・本ときどき猫も 第73回】
高校に通うために片道2時間近く電車に揺られて毎日東京横断していた頃の話だ。
休み時間にクラスメートとだべっていた時のこと。
「え〜〜!君はジャズを聴いたことがないの?それはもったいないよ。面白いよ〜ジャズは。一度うちにジャズを聴きにおいでよ」
というお言葉に甘えてソニー・ロリンズを紹介してくれたクラスメートの滝川くんのお宅におじゃましたのが1963年5月のこと。
我が家は都内大田区久が原で滝川くんの家は品川区大井町。
池上線で蒲田まで行き京浜東北に乗り換えたかバスで大森まで出て京浜東北に乗り換えたか。どうでもいいかそんな細かいことは。
うれしそうにぼくを迎えてくれた滝川くんはもはやモダン・ジャズの伝道師となってアーチストのうんちく話を熱く語り、凄いだろ〜を連発しながらレコードを次から次へと聴かせてくれた。
なにがなんだか分からない。
知っている演奏家も知っている曲も出てこないがつまらなそうな顔をしては滝川くんに申し訳ないのでじっとこらえながら耳はダンボ。
しばらくすると聞いたことのある曲が登場した。
「滝川くん、ぼくはこの曲をしっているよ“マック・ザ・ナイフ”でしょ」
ホッとしたのもつかの間だった。
マック・ザ・ナイフが知らない曲に変わっていた。
「滝川くん、この人は何を演奏しているの?」
「アドリブだよ」
「え?何?アドリブって」
「即興演奏さ。これがジャズの面白いところで演奏家がその時の気分で自由に演奏するんだ」
自由に演奏する?
アドリブ?
なんだそれは。
夕方帰宅前にぼくは滝川くんと一緒に大井町駅前商店街の中古レコード店「ハンター」に寄って『サキソフォン・コロッサス / ソニー・ロリンズ』と滝川くん推薦の『イッツ・アバウト・タイム / ジョー・モレロ』の中古LPをお小遣いで買った。
これがぼくのジャズ事始めだ。
毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日『サキソフォン・コロッサス』を聞いた。
なんだアドリブって・・・?
どうやって譜面もないのに演奏できるんだ?
なんで聴いているとこんなにワクワクするんだろう?
日に日にずぶずぶずぶずぶジャズのドロ沼に引き込まれていった。
ぼくが叔父貴からジャズを聴かせてもらってから12年の月日が流れていた。
居心地の良すぎるドロ沼だったことは言うまでもない。
いつの間にかロリンズのテナー・サックスから湯水のように溢れ出るフレーズをレコードと一緒になってぼくは口ずさんでいた。
ぼくに天から与えられた才能というものがあるとすればタイミング良くいろんな人や色んなモノと出会えることにつきると思うのは初めて滝川くんの家でロリンズの演奏を耳にしてから140日目にソニー・ロリンズの来日コンサートを観ることができたからだ。
場所は大手町のサンケイホール。
真っ黒なタキシードスーツに身を包み西部劇でおなじみの真っ白なテンガロンハットを被ったソニー・ロリンズは「俺は老カウボーイ」を演奏しながら舞台の袖からセンター・マイクまでゆっくり歩きながら登場した。
(撮影:磯田秀人)
テンガロンハットを脱ぎ捨てるとなんとモヒカン刈りだった。
(撮影:磯田秀人)
く〜〜〜〜〜〜〜カッコイイ!(今風のかっけーという言葉が似合わないので)
それしか言葉が見当たらなかった。
留まることのないロリンズの豪放磊落で自由奔放なアドリブに酔いしれたことは言うまでもない。
麻薬だなジャズは。
本日はこれをお聴きください。
浅丘ルリ子や加賀まりこやジェリー藤尾や藤竜也や風吹ジュンで大賑わいの倉本聰さんのテレビドラマ「やすらぎの刻」のマロさん、おっとミッキー・カーチスさんの歌う「マック・ザ・ナイフ」です。
かっけー!
次はソニー・ロリンズが演奏する同曲です。
流れるような一筆書きのアドリブの妙味を最後までお楽しみ下さい。
ジャズの面白さがいっぱいつまっていますから。
最後までお読みいただき有難うございました。
本日もまたモーツァルトまでたどり着きませんでしたことをお許しを。
この続きは次回(恐らく明日)に。
またお寄りいただければ嬉しいです。
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