文字を持たなかった昭和 続・帰省余話21~温泉でリベンジ!その一

 昭和の鹿児島の農村を舞台に、昭和5(1930)年生まれのミヨ子さん(母)の来し方を軸にして庶民の暮らしぶりを綴ってきた。

 今度は先だっての帰省の際のあれこれをテーマとすることにして、印象に残ったことのまとめやエピソードに続き、ミヨ子さんを連れてのお出かけを振り返っている。桜島を臨むホテルに泊まり温泉を引いた大浴場で入浴離島住まいのミヨ子さんのいちばん下の妹・すみちゃんも交えてディナーを楽しんだ。

 翌日、島へ戻るすみちゃんとお別れしたあと、実家近くの古いお墓へお参りに行ったのだが、ミヨ子さんの脚が動かなくなり、結局二三四(わたし)だけがお墓参りをした。

 実家跡でひとやすみしたあとは、数年前にできた「吹上浜フィールドホテル」へ向かう。以前町内でほぽ唯一の宿泊施設だった国民宿舎の跡地建てられたもので、トレーラーハウスやテントなど若者やファミリー向けのグランピング施設に、小ぶりのホテル棟が併設されているのだ。そのすぐ隣には、こちらはもう開業して数十年の、もと町営いまは市営の温泉施設「市来ふれあい温泉センター」があり、宿泊客は自由に利用できる。

 半年ほど前の帰省の際もこれらを利用したことは、すでに書いた。その際、介護湯と呼ばれる手摺などがついた家族湯を予約し損ねて、施設の2階にある大浴場へミヨ子さんを連れていく羽目になったことも。〈193〉

 半年少々たったぐらいで、ミヨ子さんの脚はかなり弱っている。2階まで上るなんて、とうてい無理だ。今回こそ、ホテルから車椅子で直接移動できる介護湯へ行かねば。

 家族湯は原則「現地到着順」の受付だが、介護湯だけは電話予約できる。前回、「ホテル宿泊者はホテルチェックイン後」と案内されたため出遅れた。ホテル宿泊者という前提を外せば(黙っていれば?)、朝9時から電話予約できることを、今回改めてリサーチした際に学んだのだった。その結果、当日の朝ごはんの途中でしっかり予約を確保したことは、本シリーズ「17~元気でね」で触れた。

 まずはホテルにチェックインだ。ここでも車椅子をお願いしてあるので、レンタカーを車寄せに停めたら、まず車椅子を借りてきてミヨ子さんを乗せた。チェックイン開始の15時にはすかさず入室する。というか、システムの関係で、チェックイン手続が終わっても15時にならないとカギがあかないのだ。そのまえに、ロビーにあるユニバーサル仕様のトイレにミヨ子さんを連れていくことも忘れない。

 今回もミヨ子さんと二三四には海側のツインを取った。家人は山側だ。ただ街並みが見えるだけで遠くに山がある「マウンテンビュー」のシングルである。

 ツインは海側といっても東シナ海へ注ぐ河口と海の手前の松林が見えるだけだ。もっと高い位置からなら松林越しに海も見えそうだが、客室は3階まで、二三四たちの部屋も3階だ。

 室内はモノトーンでしつらえられ、いかにも現代風。入ると手前から洗面所、トイレ、シャワールームが並び、反対側の壁はクロゼットや冷蔵庫など。奥側が窓とテラスで、窓に足を向ける形でベッドがふたつ並んでいる。もちろんミヨ子さんには入口側のベッドをあてがう。

 が、ゆっくり休んでいるヒマはない。介護湯は4時から予約してあるのだ。部屋着に着替える時間を入れたら、けっこうギリギリである。
「お母さん、お風呂に行くから着替えようか」
二三四は声をかけて、ミヨ子さんをパジャマタイプの部屋着に着替えさせた。

〈193〉前回の帰省については「帰省余話」127。うち温泉利用のくだりは「10~温泉その一」「14~温泉、おまけ」で述べた。

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