最近のミヨ子さん Xデー前日 ③どうということもない話題

 昭和中~後期の鹿児島の農村。昭和5(1930)年生まれのミヨ子さん(母)の来し方を中心に、庶民の暮らしぶりを綴ってきた。たまに、ミヨ子さんの近況をメモ代わりに書いている。

 前々項では、施設入所の前日にビデオ通話した際、髪の毛をしきりに気にしていたことを、前項ではそれに関連して思い出したこと、考えたことを述べた。

 ビデオ通話での話題はどうということもないことに終始する。ミヨ子さんにとって記憶をたどることが難しくなっているから、どうしても簡単な会話になってしまうのだ。
「ごはんはおいしいんでしょ?」 
「デイ(サービス)にも行ってるんでしょ?」など。

 「デイからは、さっき帰ってきた」とミヨ子さん。ときどきデイサービスのお休みの日でも「行った(行く)」と言って周囲を困惑させるが、さすがに帰ったばかりなのでちゃんと覚えているようだ。
「デイは楽しい? 体操とか、いろいろあるんでしょ?」とわたし。
「そうだね。でも何人かはほかのことをなさるんだよ。どこか別のところから来た人たちかねぇ」。

 その意味がよくわからないし、同じ施設の中でサービスが違うものなのかもわからない。ミヨ子さんは週4回とも「全日型」なので、もしかすると「半日型」の人がいるのかもしれない。「グループ」というとわからなそうなので「そうなの。違う『組』なのかもしれないね」と返す。

「わたしからの手紙は届いてる?」とこれもよく尋ねる話題。
「届いてるよ。ありがたいと思うばかりで、返事は書かないで……」とこれまたいつものようにミヨ子さんが申し訳なさそうに言う。そんな「定型」の会話も、もうあまりできなくなる――。

 同居するお嫁さんからは「お母さんは字を読むの好きだよ」と聞かされているから、重ねて言う。
「またお手紙を出すからね」
「待ってるね」。

 次の手紙は施設宛てになるのだけれど。とまたまた切なさがこみ上げてくる。

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