文字を持たなかった昭和 続・帰省余話11~大浴場下見のミッション
昭和の鹿児島の農村を舞台に、昭和5(1930)年生まれのミヨ子さん(母)の来し方を軸にして庶民の暮らしぶりを綴ってきた。
あらたに、先だっての帰省の際のあれこれをテーマとすることにして、強く印象に残ったことの簡単なまとめに続きいくつかエピソードを書いた。次に、ミヨ子さんを連れてのお出かけについて順に振り返っている。お出かけ準備、外出先でのランチに続き、桜島を臨むホテルにチェックインしたところまで。
チェックイン時間とほぼ同時に到着したのは理由がある。温泉を引いてある大浴場をミヨ子さんに楽しんでもらうには、他のお客さんが少ない時間帯――おそらく真っ昼間――に連れて行きたかったからだ。
このSホテルでの宿泊は初めて。できれば大浴場の下見もしたい。事前のメール連絡で大浴場の写真も複数送ってもらい、ある程度入浴のイメージはできているが、チェックイン後一度大浴場を見させてほしい、とお願いしてあった。これが二三四(わたし)の重要ミッションである。大浴場の営業は15時からなので、それまでなら見学できるそう。案内は、チェックインの際に出てきてくれた予約担当主任のKさん(女性)がしてくれるというので、電話して廊下で待った。
すぐにK主任が到着。いっしょにひとつ上の13階まで階段で上がる。いわく、ふつうは12階から階段で上がってもらうが、車椅子の場合は13階(最上階で、レストランフロアでもある)に上がってもらい、車椅子用通路から入ってもらう、とのこと。13階に上がると、エレベータ―ホールの脇に目立たないよう通路が設けられていた。
大浴場の入口は段差があるもののスロープを設けてある。奥に進む。脱衣場はそれほど大きくないが、車椅子を操作するには十分だ。浴場の洗い場は14席ぐらいか。浴槽はほどほどの大きさ。内部には手摺はほとんどなく、浴槽へ下りるところに1カ所あるだけだ。これらは事前にわかってはいたが、現場で動線をイメージしながら見るのはまた違う。
そもそもSホテルはオープンから50年だそうで、全体的に昭和の香りがするのは否めない。規模や設備も「バーン、どうだっ!」という感じではない。しかし、大浴場の正面に臨む桜島は圧巻だ。それに、このKさんのようにスタッフが親切である。
ひととおり見学してイメージが固まったので、二三四はK主任にお礼を言って客室に戻った。次のミッションは、ミヨ子さんをお風呂に入れることだ。大浴場の営業開始と同時に入って、ほかのお客さんの迷惑にならないようにせねば。
※前回の帰省については「帰省余話」1~27。
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