文字を持たなかった昭和 続・帰省余話29~脚力低下
昭和の鹿児島の農村を舞台に、昭和5(1930)年生まれのミヨ子さん(母)の来し方を軸にして庶民の暮らしぶりを綴ってきた。
今度は先だっての帰省の際のあれこれをテーマとすることにして、ミヨ子さんとのお出かけを振り返っている。桜島を臨むホテルに泊まり、離島住まいのミヨ子さんのいちばん下の妹・すみちゃんも交えてディナーを楽しんだ。翌日、島へ戻るすみちゃんとお別れしたあと、実家近くの古いお墓へ行くもミヨ子さんの脚が動かず、結局二三四(わたし)だけがお参りした。
そのあと、数年前郷里にできたグランピング施設に宿泊。隣接する温泉施設で、前回の帰省では入り損ねた介護湯と呼ばれる家族湯を、今度こそ利用できた。が、達成感でいっぱいの二三四は、お風呂上りのミヨ子さんの様子が少しおかしいのに気づいていなかった。が、夕食に行く直前客室のトイレでミヨ子さんは「間に合わ」なかったりと、1泊の間にけっこう失敗してしまった。その原因を考え、二三四はさまざま反省するのだった。
お泊りの翌日、仕事のある家人は先に離脱した。レンタカーも返した。二三四はペーパードライバーなので、義姉が待ち合わせ場所まで迎えにきてくれる。いつもいっしょにいるお嫁さんと再会し、ミヨ子さんはほっとした表情を浮かべた。小一時間程度の帰路、車の中でずっとうとうとしていたのは、安心したからか疲れのためか。
ミヨ子さんのいまの住まいである長男の和明さん(兄)宅へ戻った。上がり框で足が上がらない。トイレに行くにもひと苦労だ。杖と伝い歩きの両方でも、途中で止まってしまう。2泊3日の間車椅子に乗りっぱなしだったことで一時的に脚力が低下したこと、膝の関節も動きづらくなったことが原因だと思う、とは義姉の分析だ。
困るのは、歩き始めても突然「痛い。動けない」という状態になることだ。そうなると、動けるまで待つしかない。椅子を持ってきて座らせ、痛みが強いほうの脚を少しぶらぶらさせたりして「ならし」てから、ようやく再開する。
――となると、ほんの3メートルほど先のトイレへも10分、20分かかってしまう。
「足がほんとに弱くなったね。デイサービスにも、伝えておかなくちゃ」
と義姉が呟いた。
※前回の帰省については「帰省余話」1~27。
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