見出し画像

背景を知るともっと面白くなる イラン映画の深いところ

سلام.

友人と家で会うときは決まって映画鑑賞。そして、ポップコーンの代わりになるのは決まって塩味の効いたカボチャの種。こんな平和な1日を何度も過ごしてきたんだ。

イランでは、劇場で海外作品が放映されることはまずない。しかしその反面、国内作品が非常に充実しており、年間100本以上製作され、放映されるほどの超映画大国なのである。

イランで知り合った中国出身の友人は、イラン映画のファンであることを社内で口にしたことをきっかけに、テヘランへの赴任依頼が来たそうだ。日本語字幕のついた作品も多数あり、これまでに観たことがある方も多いのでは。

オスカー受賞作品、外国語映画賞受賞作品...と、今や世界に広まり、名を知らしめたイラン映画。

そんな映画たちは、国内事情や背景を知った上で鑑賞するとより面白みが増すのである。最近話題の作品をピックアップして一挙紹介していく。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

①『セールスマン』('16)

ある晩、入浴中のラナは、侵入してきた男性により性的暴行を受けたものの、彼女は警察に告発することを踏みとどまってしまう。社会によって封じ込まれてきたイランで暮らす女性たちの苦しみと葛藤を描いた社会派映画である。

イランでは1000年続くイスラム法「シャリーア」により、男性の協力的な証言が無ければ女性の訴えは無効となってきた前例があるので、その点も踏まえて本作のラストを追うと面白いかもしれないね。

『ラ・ラ・ランド』を抑え『ムーンライト』が最優秀作品賞に選ばれた第89回アカデミー賞。この年の外国語映画賞に輝いたのが、この作品だ。監督や主演俳優はイラン人なので、アメリカで開催された受賞式への出席は実現しなかったが、主演俳優であるタラネ・アリドゥスティさんは同年来日し、各地で舞台挨拶を行ったときは心底嬉しかった。
彼女はイラン国内で人気が高く、好きな俳優ランキングにていつも上位に名前のある方だ。優しい雰囲気のある可愛らしい俳優さんで、私の憧れの女性なんだ。

②『バタフライ・ストローク』('20)

プールで泳ぐ女性の映像がインターネットで配信され、気の狂った夫が妻を問い詰め殺害。動画を回した犯人を探すために夫の兄がテヘラン中を駆け巡る社会派サスペンス映画。マフィアが登場し、イランの裏社会の様子も描かれてるのでかなり見応えがあった。

イラン映画では男女が触れ合うことは御法度なのだが、ジャケット写真にもあるように妻が夫の髪をバリカンで刈ったり、2人が肩を寄せ合うシーンがあり驚いた。実はこれは現実でも彼らが夫婦関係であるため実現したシーンだそう。

③『別離』('11)

離婚の危機を迎えた夫婦が裁判所にて争い合うシーンから始まり、多くの問題がひとつの家族をどんとんと狂わせていく、複雑な人間心理を描いた映画。

夫婦の意見のすれ違いのひとつに、「子どもをどこで育てるか」がある。イラン派の夫と、海外派の妻。離婚を余儀なくされてまで海外への移住を選択しなくていいのでは。と、夫に肩を持ってしまう。しかしイランでは、経済制裁下から逃れるため豊かな環境を求めて、海外での生活を選択する人たちが多く存在する。その背景を抑えておくと、意見の分かれた夫婦の葛藤に納得し易くなるのではないかと思う。

第61回ベルリン国際映画祭のコンペティション部門では最高賞である金熊賞と、女優賞、男優賞の計3部門で受賞を果たし、第84回アカデミー賞では外国語映画賞を受賞したほか、脚本賞にもノミネート。
イラン映画の底力を世界に知らしめた。

④『ホテル・ニュームーン』('19)

テヘランで暮らす母と娘。過保護な母が愛する娘に隠していた大きな秘密を、1人の日本人男性を鍵に解き明かしていくサスペンスドラマ。

監督は筒井武文さんで、一度訪れたイランの風景と人々に一目惚れしたことから製作が始まったそうだ。イラン・日本の共同製作で、俳優の永瀬正敏さんも出演している。イランと日本の歴史的な関係についても描かれているので勉強になることが多かった。また、美しいテヘランの街に釘付けになる。

⑤『ジャスト6.5 闘いの証』('19)

薬物の密売が横行したテヘランの街。薬物取締警察チームの主人公が、その売人に迫るストーリー。ただこれが序章に過ぎなく、大荒れな展開が終始待ち受けているのだ。

今回題材となった「薬物問題」は、イランの現実問題として非常に深刻である。どれほど薬物が蔓延しているかというと、私が今から家を出て10分以内に先に手に入るものは、正直密造酒より薬物だと断言できるほどだ。高速道路脇では肩を寄せ合い暮らす薬物中毒者たちをいつも見かける。そのため、この映画はドキュメンタリー作品を観ているような気分になるのだ。

また、イランの裏事情が分かることだけでなく、他のイラン映画とは一線を引くほどスリルや迫力が圧巻、ロマンスもあるので、日本の方々も楽しんで鑑賞できるのではないかと思う。

イラン国内では一昨年大ヒットし、東京国際映画祭コンペティション部門では最優秀監督賞、最優秀男優賞のW受賞。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

以上、今回は5作品を紹介!週末は塩味の効いたカボチャの種を片手に、ひとつイラン映画なんてどうだろうか。

いつか皆さんの旅行先となることを願って。

この記事が参加している募集

休日のすごし方

映画感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?