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日本の賃金が上がらないのは「中小企業に賃上げが広がらないから」ではなく、「中小企業をちゃんと潰さないから」だと思うんだよな、という話。

先日、株価が一時的に下がっても、地方ゾンビ中小企業&非効率農業を退場させるために利上げは継続すべきと思う、という話|宮崎県政ウォッチ (note.com) という記事を書いたのですが、意味的には同じで、個人的な思考整理の記事です。

最近、特にロシアのウクライナ侵略開始後は、インフレが日本でも目に見えて進行しています。物価上昇以上に現役の労働者世代の給料(可処分所得)が上がっていけば、「賃金と物価の好循環」が始まるわけですが、宮崎のような地方で大企業従業者比率が極めて低い地域にいると
「日本の産業構造(特に地方)でそんな循環が始まるわけ無いじゃん」
という確信のような感覚があるんですよね。

日本の大企業従業者比率は「日本の定義上」は30%程度ですが、アメリカでは「アメリカの定義上」50%以上が大企業従業者です。

SBA(連邦中小企業庁)が取りまとめた下記図表のデータによると、全米の総雇用数 は 115,061,184 人である。そのうち、従業員数 500 人以上の大企業が 50.13%を占め、 会社数では全体のわずか 0.31%に過ぎない大企業が全米の雇用数の約半分を占めてい る。

https://www.clair.or.jp/j/forum/c_report/pdf/273-1.pdf

上記の通り、アメリカでの大企業の定義は500人以上なので、日本の定義よりも遥かに大規模な企業を大企業と定義していますから、日本の定義だとアメリカではおそらくは60%以上の人が大企業で働いている感じでしょう。

500人も従業員がいる企業になれば、適切に労働組合も成立しやすいですし、就業規則などもしっかり履行されつつ賃金上昇要求もなされながら運営されることになります。

ちなみに日本の大企業の定義は以下になります。個人的には資本金要件ははずすべきだ、と思っています。

・ 資本金の額又は出資の総額が3億円を超え、かつ常時使用する従業員の数が300人を超える会社及び個人であって、製造業建設業運輸業その他の業種(次号から第四号までに掲げる業種を除く)に属する事業を主たる事業として営むもの

・資本金の額又は出資の総額が1億円を超え、かつ常時使用する従業員の数が100人を超える会社及び個人であって、卸売業に属する事業を主たる事業として営むもの

・資本金の額又は出資の総額が5000万円を超え、かつ常時使用する従業員の数が100人を超える会社及び個人であって、サービス業に属する事業を主たる事業として営むもの

・資本金の額又は出資の総額が5000万円を超え、かつ常時使用する従業員の数が50人を超える会社及び個人であって、小売業に属する事業を主たる事業として営むもの

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%A7%E4%BC%81%E6%A5%AD

2022年の中小企業白書には、
「経済・社会環境の変化に対応しつつ、企業としての成長や事業の拡大を継続的に図っていくためには、収益拡大から賃金引上げへの好循環を継続させることが必要であり、起点となる企業が生み出す付加価値自体を増大させていくことが重要であると考えられる。」
とか書いてあると同時に、規模別の労働分配率の推移というグラフがかいてあります。

規模別の労働分配率の推移
https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2022/chusho/b1_1_6.html

労働分配率って 役員報酬も含まれるわけですよ。規模が小さくなればなるほど経営者が先に自分の取り分をちゃっかり確保しちゃってて、一般労働者にはそれほど多くは分配されにくいって構造的な問題があるわけです。

中小企業ほど将来のための研究開発や投資が少ないというのもデータ的には明らかなことです。

しかし、「日本で一番金を持ってる」のは、大企業のサラリーマン社長とかよりも、何をやってるかはわからないけど 非上場の〇〇興産、△△産業とか、大した経営能力があるわけでもないのに地域ででかい顔した社長とその息子のボンボンだと言うことを、大人になれば、誰しも知ることになるわけですよ。

宮崎にもいくつかありますね。どことは言いませんがw

地方になればなるほど、そういう企業が、イノベーションや企業努力とは関係なく官公需を中心とした受注や補助金をむさぼり食ってたりするわけです。

その結果が、全国でも最悪レベルのゾンビ企業率となってしまいます。

中小企業向けの貸付は過去最高に膨らんでいますし、それ以外にもコロナ禍の菅政権では持続化給付金とか雇用調整助成金とかが大盤振る舞いされ、国の借金も膨れ上がりました。

2022年末現在で、ゾンビ企業と呼ばれる借りた金の利息さえ返せない企業の割合がリーマンショック前夜なみに膨らんでいます

そんな中で、日銀は今年の3月に17年ぶりに金利を0.1%に上げたのですが、それから1ヶ月後には鹿児島のデパートの老舗の山形屋は私的整理を開始することになりました

これまでほぼゼロ金利だったのに、たった0.1%金利が上がっただけで私的整理を開始しなければならないくらい、負債がパンパンでひどい状態の企業が地方にはごろごろしているわけです。

7月には更に金利が上がって0.25%になっていますから、緩和に慣れきった甘えた企業はどんどん厳しくなっているでしょう。

でも、そんな程度の企業をこれ以上温存しても、日本経済のためにも、そこで働く労働者のためにもならないと思うんですよね。

「金利が1%にも満たないのに耐えられない会社はどんどん潰れたほうが良い」くらい誰か政治家がはっきり言ってくれないかなと個人的には思います。

この8月の株価と為替の乱高下に対して「日銀の利上げ」を責める向きもあるわけですが、「金融緩和」は「金融引き締め」と交互に適切に行うことによって効果も上がるはずで、緩和しっぱなしでは緩和のメリットが効かなくなるばかりか、緩和を長く続けすぎた副作用がパンパンに膨らんでる状況なわけですよ。

更に緩和を続けたとしても、返済能力もなく、ましてや従業員への賃上げ余力のない中小企業の負債は元本が膨らむだけで、「将来に必ず破裂する」ときのショックが大きくなるだけでしょう。

今年に入って日経平均株価は日本円ベースで過去最高を記録していますが、よく見たら、「ドルベースの日経平均」ではウクライナ侵攻&世界的インフレが始まる前の2021年の水準さえまだ回復していないんですよね。他の先進国がドルベースでも時価総額で過去最高を更新し続ける中、日本の国際的な価値はむしろどんどんを遅れを取っている状況とも言えます。

小手先の金融緩和を続けたり、ちょっと税率をいじる程度でなんとかなる段階はとっくに過ぎていて、産業構造の改革に手をつけなければ、更に国際的にはどんどん沈んでいく段階になってる気がするんですよね。

そのためにも、日銀は金融政策の正常化を急ぐべきだと思いますし、その結果、モラルハザードに陥った中小企業が次々と倒れることになっても、それはやむを得ないことだし、そういう企業に働いている労働者が健全な賃上げを得られる企業に移動していくような政策を進めるべきだと思います。


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