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苦味もまた恋の味

〝缶コーヒーが似合わないねぇ!〟

雨宿りに入ったカフェでカフェラテを飲みながら、友人に数日前言われた言葉を思い出していた。

似合う、似合わないとかあるのかな?
友人によれば私のイメージは紅茶らしい。
確かにコーヒーを飲むようになったのは割りと最近なんだけど。

大学に入って好きな人ができた。
ゼミが一緒で、一目惚れだった。
よくコーヒー飲みながら本を読んでいる姿を見かける。
いつも彼女と一緒だった。

そう。初めから叶うことのない恋だと知っていた。
別にどうこうしようなんて思っていなかった。
私の中で静かに好きでいられたら。
それでよかった。

ゼミで話す機会はよくあったから、色々話をした。
好きな作家とか、音楽とかよく行くお店、好きなテレビ番組、共通の友人の話。他愛もない会話。
彼の事を知るのが嬉しかったし、彼の見ている世界をもっと知りたいと思った。
彼の好きな作家の本を読んでみたり、彼の好きな音楽を聞いてみたり。
コーヒーを飲むようになったのも、そのせいだ。
彼みたいにブラックは飲めなくて、甘いコーヒーしか飲めないけど。コーヒーがちょっとだけ私を大人にしてくれる気がした。

本当にただ、それだけでよかったのに。

ある日、友人の1人が私の気持ちを彼に話してしまったらしい、という噂を聞いてしまった。
それも次の時間ゼミで彼に会う直前に耳に入った。
頭の中真っ白。
彼の顔なんて見れる訳もなく、ちゃんと会話できているのかもよく分からないくらいに、ぎこちなく
会話をした。
もう、早くこの場から離れたい!それしか考えられなかった。

ゼミが終わると急いで教室を出ようとしたんだけど、後ろから彼に呼び止められた。

〝ちょっと時間ある?良かったら近くのカフェ行かない?〟

心臓が飛び出そうだった。冷静な気持ちになれないまま、〝いいよ〟と返事をして彼について行ってしまった。

彼はブラックコーヒーを。
私はココアを。

何とも言えない空気が流れていて、私は緊張していた。
目線を落としたままの彼が口を開いた。
〝実は彼女と別れるかもしれないんだ。
…アイツから聞いたよ。しばらく俺のそばにいて欲しいんだ。〟

まだちゃんと彼女と別れた訳じゃない。
もっと彼の事知りたい、付き合いたい。
彼女と別れてからにしたら?
そばにいたい、一緒にいたい
傷つくのは私だよ?
それでもいい。一緒にいたい

心の奥で葛藤があった。

傷つくことになるかもしれない。
そんな覚悟を抱えて、私はゆっくりと頷いた。

それから授業の合間を一緒に過ごしたり、
何度かデートしたり、私にとっては初めての事も
経験して。

何ヵ月か過ぎた頃だった。

彼が彼女とよりを戻したらしい、という噂を聞いた。
だんだんと彼との連絡も会う回数も減ってきているなと感じ始めてはいた。
私と一緒にいても、どこか遠くに彼はいる。
いつもそんな気がしていた。
最初から、叶うことのない恋。
出会った時からわかっていたのに。

私から彼に問い詰めることはしなかった。
私から連絡することも止めた。
向こうからも何も来なくなった。

やっぱりな。と思うと同時にほっとした気もする。
こうなることは分かっていた。
もちろん、胸の奥は痛い。
いっそ嫌いになれたら楽なのに。
憎む気持ちも不思議と沸いてこない。

彼を好きになったのは、私。
彼を選んだのは、私。
傷つくことを選んだのは、私。


彼と会わなくなってしばらく経つけど、
コーヒーを見ると彼の事を思い出してしまう。

いつか私もブラックコーヒーをおいしいと、思える日がくるかな。
ブラックコーヒーが似合う、大人のイイ女になれるかな。
これ飲み終わったら、ブラックコーヒー頼んでみようかな。



甘ったるいカフェラテを飲みながら、
止まない雨を見つめている。










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