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流氷に会いに行った少年
大学1年の終わった春休み。
ふたり部屋の学生寮でルームメイトだったH君が突然失踪した。
「流氷がみたい。」
それが最後の呟きだった。
富山県の小矢部と言う町の出身で、実に実直な男だった。
グリークラブでテノールをやっていて、喉を守るため、必ずタオルを首に巻いて寝ていた。反面、剽軽なところもあって、心を和ましてくれるルームメイトでもあった。
ご両親が藁をもすがる思いで、手がかりを探しに寮
映画「スティーブ・ジョブズ」を観て思い出したこと
パソコンベンチャーに転職したぼくは芸能事務所に入り間違えたのかとホッペをつぬっていた。
20年前の1996年。Windows95発売の翌年だ。
社長はほとんど毎日メディアに囲まれて取材を受けていた。
旧東海道にほど近い北品川の狭い事務所はカメラの照明とフラッシュで昼間から安い風俗店のようだった。
メーカー直販の時代だとメディアは褒めそやした。これからはファブレスの時代だと騒
ベトナム帰りの友への追悼
89年に「7月4日に生まれて」と言うトム•クルーズがベトナム帰還兵を演じた映画があった。今でも重く深い記憶の残る作品だ。
ちょうどその頃まだ20代の青二才のぼくが米国テキサス州フォートワースの同じ職場で出会ったチャック•サイザーも海兵隊出身のベトナム帰りだった。
話すと普通なのだが、肩幅が広く胸板が厚い厳つい体格とちょっと危ない目つきのオジサンだった。
時折オフィスで大声で奇声を
関西のコーラと関東のコーラ
「関東のコーラと関西のコーラ」
40数年前の秋の夕暮れ時。
中学に入っても小学生気分がまったく抜けないぼくらは近隣の田園風景の中を自転車で日中さんざん遊び回ってひどく喉が渇いていた。
ヒロマサ君の家は地元の本屋さんだった。ルネ・シマールのサイン入り万年筆がおまけに付いた旺文社の中一時代もヒロマサ君のお父さんが配達してくれた。
その本屋さんの前にあった自販機で瓶のコカ・コーラ
クワガタ獲りのスタンバイミー
小4の夏休みのある日。
今日みたいに茹だるような暑さだった。
裏山の雑木林へクワガタ採りに友人数人で連れ立って出かけた。
クワガタ、カブトの棲息にはホットスポットが必ずある。
その日もぼくらはいつもの目的地を目指していた。
ところがその木が視界に入ってくる頃、ぼくらはいつもと様子が違うことに気づいた。
先客がいた。2年先輩のN君とその隣家に住む同級生のI君だった。
秋空に消えた恋 `84
もう9月だ。新学期。
かつて、ぼくにも後期学期の始まりの頃があった。
大学の学生寮。
携帯電話のない時代。部屋の固定電話も自治会寮則で禁止されていた。
約70名の寮生に緑とピンクの公衆電話がひとつづつあるだけだった。
夕刻になると、この電話の周りにたむろする連中が必ずいた。
十円玉数十枚をポケットの中でじゃらじゃら言わせながら、うきうき、ニヤニヤ。
彼女との長電話のため
流氷が見たいとHは言った
大学1年の終わった春休み。
学生寮でルームメイトだったH君が突然失踪した。
「流氷がみたい。」
それが最後の呟きだった。
富山県の小矢部と言う町の出身で、実に実直な男だった。
グリークラブでテノールをやっていて、喉を守るため、必ずタオルを首に巻いて寝ていた。反面、剽軽なところもあって、心を和ましてくれるルームメイトでもあった。
ご両親が藁をもすがる思いで、手がかりを探しに寮においでに