流氷に会いに行った少年
大学1年の終わった春休み。
ふたり部屋の学生寮でルームメイトだったH君が突然失踪した。
「流氷がみたい。」
それが最後の呟きだった。
富山県の小矢部と言う町の出身で、実に実直な男だった。
グリークラブでテノールをやっていて、喉を守るため、必ずタオルを首に巻いて寝ていた。反面、剽軽なところもあって、心を和ましてくれるルームメイトでもあった。
ご両親が藁をもすがる思いで、手がかりを探しに寮においでになった。
同室だと言うのに、何も答えられなかった。申し訳ない気持ちで、胸が張り裂けそうだった。
何でいなくなったんだ!自分のがさつな言動がH君を傷つけていたんじゃないのか?
新学期が始まり、夏休みが来ても、冬休みが来ても、H君は結局ぼくらの前には帰って来なかった。
郵便貯金の引き出し履歴から、北海道を放浪しているらしいと言う、ご両親からの手紙が唯一の救いだった。
やがて、いつの間にか、ぼくらは、H君のことを記憶の片隅に追いやっていた。
卒業後、何年かして、H君は復学して、富山で就職もしていると、風の噂に聞いた。
毎年、流氷の頃になると、いつもH君のことを思い出す。
いつかきっと会いに行って、ぼくは必ず聞かなきゃならない。
「おい、H君。なんであんときぼくらのことを置いてきぼりにしたんだよ?」
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