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【年間企画】縮小社会 宮崎の未来図~第5部・第6部

 本県の人口は2030年までに100万人を切るとみられ、人口減をきっかけに社会全体の規模が小さくなる「縮小社会」は避けられない。都市部に流出する若者や、県内で結婚や出産をためらう人々の声を紹介。止まらない人口減少の根底にある問題に向き合います。

 このコンテンツは2024年の年間企画として、宮崎日日新聞社・本紙1面に2024年1月1日から連載。第5部「県内先行モデルの挑戦」は2024年5月25日~6月3日、完結編の第6部「提言・人口減時代を生きるために」は2024年6月20日~6月26日まで掲載されました。登場される方の団体・職業・年齢等は掲載時のものです。ご了承ください。

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第3部・第4部


識者インタビュー

 少子高齢化が進む本県にとって若者、とりわけ若い女性の流出対策や中山間地域の維持は喫緊の課題だ。宮崎大地域資源創成学部の根岸裕孝教授(地域経営)と内閣府地方創生×少子化対策委員の渥美由喜さんに、注目の先進事例や官民に求められる姿勢について聞いた。

宮崎大地域資源創成学部 根岸裕孝教授

 ねぎし・ひろたか 1966(昭和41)年、栃木
県生まれ。92年、九州大大学院経済学研究科修士課
程修了。専攻は地域経営論。2018年から現職。

■住民も当事者意識持って
 -中山間地域を中心に若者や女性の流出が進む。
 「社会の維持という面で非常に厳しい状況だ。大学や企業は東京に集中しており、進学や就職による若者の県外流出は現実問題としてある。ただ、行政だけで人口減少問題を何とかしようとしても無理がある。地区単位や個人がどれだけ当事者意識を持つかが鍵。地域やそれより細かい地区単位の特性を生かし、Uターンなどの移住者受け入れや、関係人口を増やす態勢づくりを考えていかなければならない」

 -県外で参考にしたい自治体はあるか。
 「太平洋に面し、気候や産業構造が本県と似ている高知県は、中山間地域対策に県が主導的な役割を果たしている。具体的には、県と市町村の連携役として、50人以上の『地域支援企画員』を各市町村に配置。所得向上などを掲げた産業振興計画を一体的に推進し、進捗しんちょく状況を管理している。沖縄を下回り全国最下位だった県民所得は、40位前後まで持ち直した」

 -中山間地域の維持に向けた県内の事例はあるか。
 「五ケ瀬町鞍岡地区では、地域活性化を目指し、地元女性が有志で『鞍岡大好き女子会』をつくり、廃校となった旧鞍岡中を拠点にワークショップや高齢者の居場所づくりなどの活動をしている。行政に頼らず実践している好事例だ」

 -人口減少が続く宮崎に求められる姿勢は。
 「単純に比較はできないが、本県の県民所得は沖縄と並び全国最下位に近いところが定位置になっている。向上に向け、県は産業振興や中山間地域維持のかじ取り役を十分に担えているか疑問だ。人口減少や少子高齢化により、市町村だけでできることには限界がある。経済や暮らし、文化振興などの取り組みにも県が積極的に関わるべきだ。地区単位の戦略づくりなど、住民が主体的に人口減と向き合うことも両輪として重要になる」

 (聞き手・本紙記者、宮崎市・宮崎大で)

内閣府地方創生×少子化対策委 渥美由喜委員

 あつみ・なおき 1968(昭和43)年、東京都
生まれ。東京大法学部卒業後、複数のシンクタンクで
ワーククライフバランスなどを研究する。奈良県在住。

女性流出防止へ格差解消
 -本県は若い女性の流出が課題となっている。
 「地方に共通している課題だ。多くの自治体がUターン施策などを進めたが、対策は出尽くした感がある。地方に必要なことは、ワークライフバランスが取れる雇用環境の整備。子育て支援に積極的な企業もあるが、若い女性に情報が十分伝わっていない。いかにPRしていくかが重要だ」

 -注目の取り組みは。
 「仕事と家庭の両立支援に取り組む企業を認定する岐阜県の『ワーク・ライフ・バランス推進エクセレント企業認定制度』が面白い。書類のみで審査せず、県が派遣した社会保険労務士などのアドバイザーが、その企業に合った福利厚生などを一緒に考える育成型の表彰制度だ。職場の動画を撮影しイベントでアピールするほか、就活バスツアーも実施。地元の女子学生が多数参加し、一部は就職につながった。女性流出に歯止めがかかった訳ではないが、同規模自治体と比べ社会減は抑えられている」

 -女性や若者の県外流出を防ぐために何が必要か。
 「ワークライフバランスが整った中小企業が増えることだ。岐阜の認定企業198社のうち、ある建設業者では子どもを連れて行くカンガルー出勤や子育て中の女性の声を反映させた商品をつくったことで、数人の求人に数十倍の応募があった。人手不足の中、建設業など女性が少なかった業種も女性に注目しており、制度認定に手を挙げる事業者が増えている」

 -本県に求められる取り組みは何か。
 「子育てのしやすさに関するアンケートで、宮崎を含む九州は常に上位。ただ九州は固定的な性別役割意識が根強く、女性流出の一因と感じる。男女間の賃金格差や管理職比率といったジェンダー・ギャップ(男女格差)解消に取り組み、誰もが働きがいを感じ、活躍できる職場環境を官民ともにつくることが大切だ」

 (聞き手・本紙記者=オンライン取材)


第5部 県内先行モデルの挑戦

 人口減少が加速する中、本県では若者を中心とする担い手の確保や、生活インフラの維持が厳しさを増す一方だ。解決に向け、奮闘する県内先行モデルの現状を追った。

1.女性活躍 管理職8割

 本県の人口減少の加速につながるとされる20~30代女性の県外流出。歯止めをかけるため、若い女性が活躍できる雇用環境の整備が急務となっている。コールセンターや事務代行などを手がける「センコービジネスサポート」(延岡市)は、パート従業員を含めた全従業員(436人)の女性割合が81%、女性管理職比率も8割に迫るなど、女性活躍を推し進める県内トップランナーの一つだ。

若い女性が活躍できる環境が充実している延岡市の
センコービジネスサポート

 余裕のない人員態勢で休みが取りにくいなどの理由から、離職率が上がった時期も以前はあった。改善に向け育休取得や時短勤務しやすいよう、チーム制を導入。3人で行っていた業務を5人で担当し、残る2人が他のチームや欠員の出た業務を応援することで業務効率を維持している。
 「女性に限らず、休みやすい環境を整え、プライベートの充実を図ると仕事にも集中できる」と企画管理部の津田亜寿美課長(37)。離職率は改善し、男性より女性の勤続年数が長い傾向にある。昨年には、女性活躍推進企業を評価する厚生労働省の制度「えるぼし」で、最高位の「3段階目」にも認定された。

 入社3年目の片岡ゆりのさん(20)は、ワードなどのスキルを生かせる事務職を探していた延岡工業高2年時に同社を見学。「女性社員の多さやきれいなリフレッシュルームなどに引かれ、入社を決めた」と明かす。
 同社は半期ごとに社員を評価し、年1回の試験と面接で管理職を含めた昇格を決める。津田課長は「性別に関係なく実力で昇進できる」と説明。入社10年未満の20代後半で、課長職になった社員もいる。
 子どもが未就学児まで利用できる時短勤務も、小学3年時まで選べるよう制度を2年前に拡充。育休取得者は常時約10人、時短勤務者も約20人いるという。 片岡さんは「制度を使って休んだ先輩も、復職しキャリアを重ねている。私もそうなりたい」と、憧れのまなざしを向ける。
 ほぼ毎年、同社に生徒が就職するという富島高(日向市)の松尾拓也教諭は「出産後の復職などを前提に長期ビジョンで社員を育成しており、生徒に自信を持って紹介できる企業。えるぼしに認定されると保護者も安心できる」と話す。
 同社の森岡直人社長は「人手確保が難しくなっているのも現実。制度の充実や多くの女性管理職がロールモデルとして活躍している点を強みに、もっと採用を増やしたい」と前を向く。

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