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【掌編小説】マウント・クイーン

私より仕事が評価される、私より綺麗、私より人気者。そんな奴らが嫌いだ。縁の下の力持ち? 何ですか、その薄汚れた古びた言葉は。私の立場を脅かす奴らは、あの手この手でここから追い出す。今までそうやってこの会社で生き延びてきた。

例えば、私より若くて美人で、性格も良い、仕事もバリバリできる隙の無い中途採用の女。「あの人、男上司に色目使ってるから評判良いんだよ」とか、「社内の誰かと関係ありそじゃない?」と、適当な噂を流してやった。またある時は、承認の為に回ってきた伝票のデータを上書きし、わざわざ印刷し直して、ちょっとした隙に彼女の認め印を拝借。「○○さん、間違ってるよぉ~、出し直してぇ~」と上司にも聞こえるよう声を掛ける。そんな事してたら、退職してったわ。

そして、別のケース。あるインテリ系モテ男子。仕事もできて、人当たりも良くて人気者。上司からの受けも良い。向かい合った席になった時、事あるごとに、そいつの悪口を聞こえるようにチクチク呟いてやった。同じ島の人間にも聞かれているが、まるで、そいつの事じゃないような感じで呟いてるから、意外と気づかれない。さらには、そいつの立ち振る舞いを本人に気付かれるよう、真似て仕事してやったわ。その内、このモテ男子クン、精神病んで会社に来なくなっちゃった。

そんなこんなで、社内での自分の評価と、ポジションと、美味しい所を手に入れて来たけれども、私にも上司がいる。ちょっと前、管理職採用でやって来た部長と、数年前来たおばちゃん課長。創業当時から10年勤続の私からしたら、新入りだ。

ある朝会社へ行くと、他部署の人間が皆、私を白い目で見てきた。挨拶すらしてこない。自分のデスクに到着すると、週刊誌が開かれて置かれていた。「急成長の陰に潜んだ不正経理」という文字が目に飛び込んできた。始業前なのに、内線が鳴る。管理部門を統括する取締役に呼ばれ、大会議室へ向かった。

社長と役員たちが、座って待ち構えていた。その対面には、部長と課長が小さく背中を丸めている。

「これは一体どういうことかね」

部長と課長は俯いたまま黙っている。

「何も知りませんが・・・・・・」

と、正直にゆっくり私は答えた。

「でも、君はプレイングマネージャー的ポジションにいるんだろ?経理部門の実質的なリーダーじゃないのかね?え?」

その言葉に、何も反論できなかった。

「責任とってもらうよ」


その日のうちに私は会社を去ったが、その背中をうすら笑いを浮かべながら見つめる人間に、私は気付かなかった。


後日発売された週刊誌には、第二報がこう書かれていた。

「偽りの急成長 上司も逆らえぬ美しき女帝」



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