見出し画像

サンタクロースは、いるんだよ。

それはまだ、私達姉妹が、サンタクロースを信じていた頃のお話。

◇◇◇

私が小学生になったばかりだったと思う。我が家でセキセイインコを飼い始めた。最初の二羽は、父がインコブリーダーの上司からもらってきた、水色のオスと黄緑色のメスだった。

なぜ、父の上司はインコブリーダーだったのだろう。事業所の敷地に鳥小屋をつくって、たくさん育てていた。私も父に連れられ事業所にお邪魔したときに、見せてもらったことがある。おおらかな時代だ。

二羽のうち、水色の、ちゅちゅくんと名付けたオスのインコは、この方がヒナから育てたそうで、手乗りで大人しく優しい子だった。だが、体が弱かったのか、数年ほどの短い時間で天国に召されてしまった。長生きさせてあげられなくて可哀想なことをした。

一つ年下の私の妹は、生き物が好きだったので大変しょんぼりしていた。そして、一羽残されたメスのぴぴちゃんが寂しそうだと思ったに違いない。

その年のクリスマスが近づいたある日、サンタさんからのプレゼントには「インコがほしい」と言い出した。

◇◇◇

妹は普段、あれこれ欲しがる子ではない。しかし、一旦、心から欲しい物のターゲットを定めると、手に入るまで静かに圧をかけ続ける粘り強さがあった。

だから、サンタさんからのプレゼントにはインコが欲しい、と決めてしまった妹は、もう絶対に意思を曲げなかった。ほかのものは何もいらない、インコをクリスマスの日にもらう、と。

真夜中、子供が寝ている間に届いているのがお約束のサンタクロースのプレゼントに、生き物、しかも鳥とは。父はとっくにインコブリーダー上司のいた事業所から異動になっていた。鳥なんてそこらへんですぐ簡単に手に入るようなものでない。そのうえ、鳴くし飛ぶし。どうやって届くんだろう。

我が家は、倉庫や離れがあるような大きな家ではなく、2LDKのつつましいマンションだった。両親がインコを手に入れられても子供が寝るまで隠しとおすのは難しい。もし、サンタクロース=親なら、それこそ、不可能なプレゼントなんじゃないかしら。

私は、10歳を前にして、もうそろそろ、プレゼントをくれるサンタクロースの存在を、真っ向から否定はしないにせよ、そんなファンタジーは無理があると思い始めた頃だった。自分はプレゼントに何をお願いしたか、全く覚えていない。妹の望みにくらべたら、きっと大して思い入れもないものだったのだろう。

◇◇◇

12月24日は家族でクリスマスらしい食事をして、母のつくる蒸しパンみたいなスポンジのショートケーキ(これは母亡き今、心からもう一度食べてみたい)を食べ、わくわくしながら眠る。

そして、クリスマスの日の朝、目が覚め、妹と二人で鳥かごをのぞいたときの衝撃といったら!

前夜まで、黄緑色のぴぴちゃんが一羽、寂しく過ごしていた鳥かご。その、ぴぴちゃんの隣に雪のように真っ白なインコが舞い降りていた。魔法みたいだと思った。それは、私達姉妹が、サンタクロースの存在を信じてしまうには十分な光景だった。

妹は、この真っ白なインコをクリスマスにちなんで「メリーちゃん」と名づけた。純白の美しいメリーちゃん。なんてふさわしい名前。メリーちゃんはその姿のとおり、気高く孤高のインコで、人に全然なつかなかったけれど、私達はとても満足していた。

◇◇◇

親になり、息子に”サンタクロース”としてクリスマスプレゼントを用意するようになって、改めて考えてみても、やはりわからない。どうやったら確実に、クリスマスの日の朝、真っ白な美しいインコを鳥かごに出現させることができるのか。

15歳の息子は、とうに、サンタクロースは”いない”と知ってしまった。でも、それでも、私はまだ、サンタクロースは実在しているんじゃないかと、密かに思っている。

いや、そんな夢をまだ持っていたいから、父に魔法の真実を聞くのを先延ばしにしているのかもしれない。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?