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十数年ぶりに『チーム・バチスタの栄光』を読んだアラサーの所感

ひっっっさびさに海堂尊先生の『チーム・バチスタの栄光』を読んだら、おもろすぎて。すごい勢いで読んだ。なんでわたしは『ナイチンゲールの沈黙』と『ジェネラルルージュの凱旋』を借りてこなかったのかとマジで後悔した。読んだことない『アリアドネの弾丸』を借りてきちまいましたよ。だって読みたかったんだもんよ。アリアドネもおもしろかったんだけどね。23時までかけて1日で読んだよ。最高。

『イノセントゲリラの祝祭』まではちゃんと読んでいた(つまり『螺鈿迷宮』も『ブラックペアン1988』も読んだということ)けど、いちばん読んだのは『チーム・バチスタの栄光』だった。おそらくは、映画化される前だった。鮮やかな黄色の表紙。「このミステリーがすごい!」、通称「このミス」の第4回大賞を受賞したことが、帯に書かれていた。

そのときのわたしは中学生だったので、30になったいま読んだら、田口センセへの印象がずいぶん変わったことにおどろいた。田口センセは気が弱くてやり込められやすくて穏やかな人だという印象を、子供のわたしは抱いていた。
ところが大人のわたしが読むと、田口センセは意外とナチュラルに失礼なやつというか、わりと口を滑らせがちな「いらんこと言い」だった。かと言って、田口センセを嫌いになったかというと、そうではない。ただ、久しぶりに会った友人がこれまでとはちがった面を見せてくれたような、そういう心地だった。

翻って、白鳥への印象は初読のときからほぼ変わらない。どあつかましい。アルマーニ(ブランド音痴の田口センセがそう判断しただけなので真偽不明)の高級スーツを着た、小太りで悪目立ちする、厚労省のはみ出し者。こいつが問題解決にやってきた場所はぺんぺん草も生えない更地にされるので、「火喰鳥」という皮肉混じりのコードネームを頂戴している。余談だが、わたしはこの「火喰鳥」というコードネームにしびれちゃって、バチスタの二次創作をしたときに作った異能者の主人公に「母喰鳥」というあだ名をつけた。火喰鳥同様、こちらも実在している。

白鳥は間違いなくクソ失礼なやつなのだけど、どうしても目が離せない魅力があって、夢中になる。次は何が繰り出されるのか。どんな角度から攻め入るのか。どんなふうに心の隙を暴き立てて、真実を掴み出すのか。それがみたくて、どんどんページをめくった。この作品はつくづくページターナーだなあ、と思う。そして、その立役者はまちがいなく白鳥だ。

読んでいくうち、ああ、そうだった、と答え合わせをしていくような感覚にときどき陥った。桐生ブラザーズに起きた悲劇の場面は特に、読む前からマグマのように記憶が吹き出してきた。そうだった。桐生は目、鳴海は利き手と、外科医の命をそれぞれに失ったのだ、と。

犯人のことは、忘れていた。途中まで、誰だったか本気で思い出せなかった。最後に遺体をAi(オートプシー・イメージング)にかける瞬間に、弾けるように思い出した。そうだ。桐生ブラザーズが犯人でないなら、実行できるのはこの男しかいない。麻酔医の氷室。麻酔医は劇薬を取り扱う。わたしに医療知識が皆無なので、何か劇薬を注入したら血液の色が変わってすぐにバレる、という氷室の言葉を信じてしまったけども、まさか抜け穴があったとは。

氷室の凶行は、麻酔医不足からくる極度の疲労と、どんなに完璧な仕事をしても患者から感謝されたり、外科医から労われたりといった精神的報酬すら与えられない(むしろ外科医からは、わずかなミスでも怒鳴り散らされる)というやるせなさに裏打ちされているように思った。本人はそうは語らなかったが、わたしはそう感じた。疲労は人を狂わせる。本来のその人でいられなくさせる。奴はもう、限界だったのだ。限界だけども、退職するのもバックれるのも面倒で、ただ緩慢に仕事をやりこなすのがいちばん面倒くさくないから、そうしていただけなのだ。変化には、気力が要るから。氷室は、壊れていたのだ。

田口センセは「いらんこと言い」だったけど、やるときはやる男だった。ラストの記者会見でのでたらめな啖呵は、しびれた。「やる男」だったんだ、田口センセ。結婚しよ(軽率)。

同じ作品を読んでも、時が経つと、感情移入する人が変わったり、組織の中で働く人の鬱屈が骨身に沁みて分かったり、情報を受け止める量が増えたりする。これだから大好きな本を読み返すのはやめられない。

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