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遠い記憶 四十二話 最終章

あれは、2011年の事。多分一生忘れられない年になっただろう。
多分日本人なら、誰もが忘れられない年であろう。
あの、3月10日、下の子供が大学の卒業を控え、就職の内定も
貰い、スーツを揃える為。
名古屋の栄で、待ち合わせた。
子供の頃、満足に服も買って貰え無かった為か、
子供の卒業の時のスーツぐらい買ってやりたかった。
何時の間にか、息子の顔を見る度、私は自分の顔を見上げなければ
息子の顔が見えない。
大きくなったなあと、息子の顔を見る度、そう思った。
スーツも、程々選び、久しぶりに食事でもしようかと、駅近くの
レストランで、時を過ごす。
二人並んで帰る途中薄着の息子が、寒そうにしているのが、気になった。
歩きながら、息子が一言、明日俺、東京に行くんだよ。
その言葉に、ただならぬ物を感じた。
思わず、行ったらいかん。そう叫びたかったが、若い子供にそう言ったら
返って、いけない様で、どうしたの?と聞くと。
就活で、東京の子と知り合ったんだよ。
卒業前に、会って来たいんだよと言う。
私は、そうと言いながら、息子の姿を探した。
何だか、暖かい身体を感じ、生きていると思った。
そう、何かあったら、メール頂戴ね。
そう、一言、言って別れた。

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