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尾々間くみ子のご馳走シリーズ

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記事一覧

尾々間くみ子のご馳走❹ 〜吸血鬼と夜更け〜

「しまった」

 大学のレポートをまとめようとしている最中、くみ子は困っていた。
 明日の朝の講義で提出期限の為に必要なレポート用紙を切らしている。
 ほとんどの講義ではパソコンのメールでWordにまとめたデータを送ればそれでいいのだけれど、明日の近代町村史の講師は紙のレポートでの提出しか認めていないので、レポート用紙が必須だ。

「マジかよー。ちゃんと確認しておけば良かったー……」

 幸い、く

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尾々間くみ子のご馳走❸ 〜センパイとぐちゃぐちゃ様〜

 某県某市の山中にある某村。
 その民家の一室で、二人の男女がもてなされていた。
 男の方はピッシリとした、遠目からでも目立つ真っ赤なスーツを着ている。
 女の方は長身の男と比べて頭二つ分ほど背丈が小さく、髪をお団子にまとめていて、パッと見では中学生くらいにも見えた。

 二人は村人に「この村の祭りに外からお人が来るとは珍しい」と、豪華な日本料理を振る舞われていた。

「ヤバいっすね。凄いっす。こ

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尾々間くみ子のご馳走❷ 〜カステラとぬいぐるみ〜

 尾々間くみ子は、ベッドの上にあるぬいぐるみをじっと見つめていた。
 くまのキャラクターのぬいぐるみだが、くみ子はそれが何のキャラクターなのかを知らない。
 さっき検索して、10年くらい前にやっていたテレビアニメのキャラだということがわかったが、それだけだ。

「うーん、やっぱりこっちにも特にこれといった変化はないなー」

 くみ子は伸びをすると、ぬいぐるみのおいてあるベッドに横になった。
 その

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尾々間くみ子のご馳走❶ 〜貘と書店幽霊〜

書店幽霊

 本屋が好きだった。
 スーパーの本屋、駅前の大きな本屋、マニアな本が揃っている町外れの中古本屋。

 だけど、今やそのほとんどが残っていない。

 電子書籍なら置く場所を考えずに何冊も買える。ネット上では小説や漫画の連載をプロアマ問わずに読むことができる。

 本屋という存在の意味が、昔ほどなくなってしまったのは、間違いない。

 それでも僕は、本屋が好きだった。
 所狭しと本が並ぶ

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