天真爛漫な彼女とちょっと根暗な僕 5
第五話
幼馴染の杏と同じ名を持つ果物の杏。いや歴史からいって逆だな。果物の杏と同じ名を持つ幼馴染の杏は学年一の人気者だが、僕は果物の杏を実際に見たことがない。多分大型スーパーなどに行けば売ってると思うけど、まず食料の買い出しなどに出掛けることがない。だから知らない。そこで調べてみた。
杏は、バラ科サクラ属の落葉樹で桃と同じ仲間らしいけど、バラ科サクラ属とはいかにも華やかな感じがして幼馴染のイメージにぴったりだと思ってしまう。海外ではアプリコットと呼ばれ、中国では唐桃と呼ばれているそうだ。因みに僕の大好きな杏仁豆腐の杏仁は杏の種子からの産物らしい。
ある日の教室
「竹本、最近特に女子と仲いいよな」
「別にそんなことないと思うけど」
「瀬戸さんのお陰だな」
「いやいや杏は僕を揶揄ってるだけで、その友達も最近僕を揶揄いだして……。職員室に呼び出されたり、変な噂立てられたりしてんだよ」
「どっちにしろ仲良くやってるように見えるぞ」
「揶揄われてる身にもなってみろよ」
「瀬戸さんに揶揄われるなら本望だけどな」
「代われるなら代わってほしいよ」
「代われるかどうかは分からないけど、とりあえず瀬戸さん紹介しろよ」
「そっちが本音かよ。渡辺は杏に興味あったんだ。話したことなかったっけ?」
「学年一の人気者だぜ、俺なんかが近寄れるかよ」
「別のクラスならそうかもしれないけど、同じクラスメイトだよ」
「話しはそれほど簡単じゃないんだ。俺にすれば絶壁を攀じ登るほどの出来事だぜ」
「そんなに敷居は高くないと思うんだけど」
「それは竹本が幼馴染だからさ。とにかく紹介だけでもお願いできないか」
渡辺のように僕に仲介を頼んでくる男子生徒は実際多い。
今度からは仲介料でも取ろうか。年間で考えると結構な金額になるんじゃないのかなぁ。そのお金で杏とパーッと食事にでも行くか。
いやいや何を妄想してるんだ? まずは仲介料貰ってからだろ。
渡辺はどうする? いくらにするんだ? まぁ初日だから渡辺はいいか。
「紹介だけならいいけど、後のことは責任持てないからね」
杏を呼んだ。僕が幼馴染だってことは周知の事実だからこんな時でも呼び捨てだ。
杏はクラスメイトと話してたようだけど、ブッチしてこっちへ来てくれる。僕のことが最優先的な殊勝なところもあるんだと改めて思う。
こちらに近付く杏に渡辺が緊張しているように見える。
「カッチン、私に逢いたくなった? それとも何か用?」
「何で今更会いたくなるんだ? それに毎日会ってるだろ」
「じゃあ何で呼んだのよ。私に側にいてほしいって?」
「渡辺が紹介してほしいって」
「紹介って誰を?」
「杏」
「私?」
「そう」
「同じクラスだから渡辺君のことは知ってるわよ。多分お話ししたことはないけど」
「だから親しくしたいんだって」
「私と?」
「そうだよ」
「そう、じゃあよろしくね渡辺君」
「はぁ、よろしくっす」
「何緊張してんだ渡辺」
こんな時、学年一の人気者はダテじゃないんだと痛感する。
「渡辺君、先に言っておくけどお友だちってことなら仲良くできると思うんだ」
「はぁ」
「だけど、付き合うとか恋人にとかを考えているのなら、そういうのは受け付けてないの」
「はぁ」
「だからごめんなさいなの、分かってくれる?」
「了解しました」
「それで渡辺君はどっちかな?」
「お、お友だちで」
「良かった、じゃあお友だちね」
最短で失恋した渡辺。少々不憫に思うのは僕だけか?
「一つ聞いてもいいっすか?」
「何だね渡辺君? お友達になった記念に一つだけなら答えてあげよう」
何で渡辺は丁寧な話し方になってるんだ?
これが杏の威圧、いやいや、オーラってヤツか?
「さっき、恋人とか受け付けてないって仰ってましたけど」
「詳しくは教えられないけれど、私は心に決めた人がいるのよ。だから他の人はNGなの。これでいいかな?」
「その人のことは聞かないっす」
「渡辺君っていい人じゃない」
またまた爆弾発言が飛び出した。心に決めた人って誰だ?
今回は揶揄われなかったぞ。喜んでいいんだよな?
つづく
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