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2012年11月10日日経新聞夕刊に掲載されたものです。 今回のエベレストプロジェクトにはこれまでにない心強いチームメンバーがサポートとして加わってくれた。日本で始めて国際山岳医として認定された大城和恵さんである。 国際山岳医制度とは1997年、国際山岳連盟(UIAA)、国際山岳救助協議会(ICAR)、国際登山医学会(ISMM)が共同で会議を開いて発足させたものだ。医師自身が実践的に山岳活動を行いながら、同じ質の医療を世界各地の山岳環境において提供できること、すなわち「
2012年10月27日日経新聞夕刊に掲載されたものです。 三浦雄一郎が挑む「80歳、世界最高齢でのエベレスト」の科学的テーマは「究極のアンチエイジング(抗加齢)」である。低酸素下において人間の肉体年齢は著しく加齢が進む。いかに体力的に若返るかが大きな鍵となる。 過去、70歳、75歳の挑戦でのアンチエイジング対策は、トレーニングによる体力向上や不整脈、ケガからのリハビリなどの疾患ケアであった。 しかし、これらは抗加齢的観点からすると、循環器や筋力等に特化した局所的なア
2012年10月20日日経新聞夕刊に掲載されたものです。 2003年、エベレスト山頂へ向けての最終アタック、僕らは標高8300㍍地点で2日間にわたるビバークを強いられていた。アタック開始からすでに10日目、天候の問題がなければ、とっくに登頂し、ベースキャンプで祝杯をあげていたはずだ。 しかし、気まぐれな偏西風がエベレスト上空を直撃し、頂上付近は時速150キロの風が吹き荒れて、途中の第2キャンプ(C2)で5日間、第4キャンプ(サウスコル)で2日間、さらに山頂を目前とした最
2012年10月6日日経新聞夕刊に掲載されたものです。 来年のエベレスト登山のため、定期的に事務所の屋上を使って、父やクライミング仲間とロープワークとクライミング練習を行っている。 ロープワークは時代により変化するものと変わらないものとがあり、父、雄一郎にとって新しいロープワークは「六十の手習いならぬ八十の手習いだ」。 ロープとは不思議なもので、それ自体はそれほど複雑ではない。しかし、使い方を間違うと複雑に絡み合い、場合によっては二度とほどけなくなってしまう。登山のロ
2012年9月29日日経新聞夕刊に掲載されたものです。 今春、僕の博士号取得のお祝いに白澤卓二・順天堂大学教授の友人であり、テロメア研究第一人者である広島大学の田原栄俊教授(細胞分子生物学)にお越し頂いた。 前回のコラムでも紹介したが、テロメアは核の中にある染色体の末端部分にあるDNAの配列で、細胞分裂するたびに短くなる。最終的にテロメアが無くなると細胞は老化し、それ以上分裂をしなくなる。細胞の回数券といわれるゆえんである。 このテロメア発見以来、それは一方的に縮む
2012年9月15日日経新聞夕刊に掲載されたものです。 三浦雄一郎のエベレストアタックまで半年。エベレストは人類が生身の体で到達できる限界地点だ。80歳の肉体で挑むことは人類の可能性を知るための挑戦であり、科学的見地からも意義があるだろう。 過去の遠征では、高所経験のある登山家と高所経験のない人間が低酸素環境にさらされたとき、遺伝子レベルでどのような反応があるかを研究テーマにしていた。この研究で「ヘムオキシゲナーゼ1」という血管拡張や抗酸化作用を促す酵素が重要な役割を担
2012年9月8日日経新聞夕刊に掲載されたものです。 以前、チベット、ヒマラヤ山脈の麓にある小さな町、ティンリに立ち寄った。この町にある標高5000㍍程の裏山で高度順化するためだ。登っている最中、丸い石を見つけた。手に取って裏返してみると、それはアンモナイトの化石だった。 僕はヒマラヤ山脈がインド大陸とユーラシア大陸がぶつかり、その隆起によってできたと言うことを聞いていたが、実際に空気の希薄なチベットの地で海の名残であるアンモナイトを手に取ると不思議な気持ちに包まれ、地
2012年9月1日日経新聞夕刊に掲載されたものです。 例年、夏休みは瀬戸内海を舞台に神戸YMCAと合同でサントリーキッズキャンプを行っている。今年も子供たちと海をカヌーで渡った。 昨年に到達した葛島から、さらにその先にある千振島までこいで行くことが今年の目標だったが、おしりも中心気圧920ヘクトパスカルと言う史上最大級の勢力を持つ台風15号が沖縄に接近中で、その余波が僕たちのいる四国、瀬戸内海にある余島まで影響を及ぼすのではないかと懸念された。 その対策として、カナ