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心躍る立山の氷河

2012年9月8日日経新聞夕刊に掲載されたものです。

 以前、チベット、ヒマラヤ山脈の麓にある小さな町、ティンリに立ち寄った。この町にある標高5000㍍程の裏山で高度順化するためだ。登っている最中、丸い石を見つけた。手に取って裏返してみると、それはアンモナイトの化石だった。
 僕はヒマラヤ山脈がインド大陸とユーラシア大陸がぶつかり、その隆起によってできたと言うことを聞いていたが、実際に空気の希薄なチベットの地で海の名残であるアンモナイトを手に取ると不思議な気持ちに包まれ、地球のダイナミックなドラマの一端に触れたような気がした。

 今年の夏、剣岳で合宿した。立山駅の近くに新たに立山カルデラ砂防博物館ができ、同館の学芸課長であり、父の友人でもある飯田肇氏に会いに行った。話の中で、同館の福井幸太郎学芸員との研究により、立山、剣岳近辺で氷河が見つかったという話を聞いた。ヒマラヤの化石を見つけたときのような地球規模のドラマの予感がした。
 氷河は、雪が解けずに傾斜地に堆積、圧力で氷となり、重力によって硬い氷があたかも水あめのように流動することを言う。「日本には氷河の痕跡があるが、現在では氷河がない」と言うのが定説で、僕が小学校の時にもそう教わったのを覚えている。
 しかし、飯田氏と福井氏は北アルプス・雄山、東側斜面の御前沢雪渓や剣岳、近くの三の窓と小窓(それぞれ標高2000~2700㍍付近)に全地球測位システム(GPS)を仕掛けて測定。多いところで30日間で30㌢以上移動していることが判明した。学術論文にまとめ、4月上旬に日本雪氷学会に受理された。

 日本に氷河があるというだけでも驚くべきことだが、中緯度にあり、標高も3000㍍付近と比較的低いところにある。こうした環境でも氷河が形成されているのは、世界的に類を見ない積雪量によるものと飯田氏は言う。
 ぜひ、実物を見てみたいと思い、合宿の合間、真砂沢小屋から比較的近い三の窓雪渓(氷河)へ見に行った。真夏でも氷河から吹く風は冷たく、氷河から流れ出す川がごうごうと流れていた。
 世界の氷河が温暖化の影響で縮小している中、日本で新たに証明された氷河が過去の化石にならないように今後、飯田氏らの研究に注目したい。


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