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逆風がつくるチーム力

2012年9月1日日経新聞夕刊に掲載されたものです。

 例年、夏休みは瀬戸内海を舞台に神戸YMCAと合同でサントリーキッズキャンプを行っている。今年も子供たちと海をカヌーで渡った。
 昨年に到達した葛島から、さらにその先にある千振島までこいで行くことが今年の目標だったが、おしりも中心気圧920ヘクトパスカルと言う史上最大級の勢力を持つ台風15号が沖縄に接近中で、その余波が僕たちのいる四国、瀬戸内海にある余島まで影響を及ぼすのではないかと懸念された。
 その対策として、カナディアンカヌー2艇を太い竹で横に結びつけ12艇のカヌーから6艇の即席「カタマラン」(双胴船)を造った。こうすることによって安定性が増し、よほどの波でもない限り転覆の心配は無い。準備を整え、子供たちとスタッフ、リーダーを合わせた総勢57人は小豆島にある余島から9㌔北西の葛島を民族大移動さながら目指した。

 初日、葛島までは順風で、それほど苦労せずにたどり着くことができた。しかし、翌日から風向きが変わった。千振島へは完全な向かい風となり、島に近づくほど風力が増し、子供たちが力を合わせてこいで、かろうじて進むほどだ。全員で声を張り上げ、必死になってこぎ、ようやく島へたどりついた。
 余島へ戻る日、台風が九州に接近した影響で風は完全に逆風となり帰路を阻んだ。しかし前日、千振島までいったことが子供たちの自信につながったようだ。チームワークが高まり、逆風に負けず全員が力を合わせる。さらにカヌー同士をつなげ、カタマランにしたことが大きな効果を生んだ。それは「横に一緒に必死になってこいでいる仲間が居る」。この思いが安心感と連帯感を強めたのだ。

 アウトドアではもちろん、子供たちの安全を第一に考える。遭難や難破はもってのほかだ。しかし自然がもたらす困難はつきものであり、そのリスクを見極めるリーダーの判断力が試される。困難に相対するため全員の集中力が求められ、それを発揮することでチームがまとまる。苦しい状況を克服することによって絆が深まり、一体感が高まる。
 世界的に著名なクライマー、故トッドスキナー氏が残した名言がある。「手ごろな山ほど危険なものはない」。注意が散漫になり危険度が高まると言う意味だが、今年は思わぬ自然の猛威と向き合うことでかけがえのないチームワークを得ることができた。

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